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遺産相続をきっかけに人が死ぬこと(死亡)の意味について考えた

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投稿者:中尾 哲也
死ぬことの意味

奈良県北葛城郡王寺町の司法書士中尾哲也

身近な人が死ぬとこたえますね。体力的にも精神的にも。とてつもない喪失感に襲われます。それと同時に,亡くなった人の顔を眺めていると,今にもまたしゃべりだしそうで,「死ぬ」というのが凄く日常的な出来事に感じます。今まで遠くにあった死ぬということが,ありふれた物事として,自分の身近に迫ってくるような。そうか,死というのは,いつでも身の周りに寄り添っているんだな,いつこれと面会してもおかしくないんだな,という感じでしょうか。

さて今話したのはいうなれば「文学的」な死です。人間にとって死ぬということの意味を考えることです。死をどう受け止めて,逆にどのように生きるかを考えること。もう少し考えを広げていけば,「哲学的」な死,「宗教的」な死の問題にもなっていきます。

3か月前から大腸がんと闘った。週末病状が急変した。そして数日前に医師は父親の死亡を確認した。告別式の後,感情豊かだった父は,炉で無機質な灰色に変わった。これは「法医学的」「生物学的」「自然科学的」な死です。

ところで人が死ぬと親族は役場に死亡届を出し戸籍が除かれます。父親の所有していた財産や権利は父親が死亡した瞬間に相続人に相続されます。相続人は遺産相続をどうするか話合い,ときにはは裁判所で争いをして,父親の形見を引き継いでいきます。最後のこれは,「法律的」な死です。「社会科学的」な死亡ですね。

このように,死亡という事実は,どのような観点から眺めるかによっていろんな意味を持ってきます。世の中のあらゆる物事がそうです。例えば国家とは?家族とは?豊かさとは?

おっと,死亡について書き始めたら思いのほかしんみりしてしまいましたw気を取り直して,元気出していきたいと思います(空元気)。

さて,人の死亡について続きを。私は司法書士なので,今日は,人間の「法律的」な死について少し考えてみたいと思います。

 

法律的な死とは?

古典的な考え方

従来から,次の三つの徴候があるときに,人が死亡したと考えられてきました。三つの兆候で死亡を判断することから,「三徴候説」と呼ばれます。医学でも,法律学でも,この考え方が採用されてきました。まーったくこれで問題ない!OK!という時代が続きました。

  • 呼吸が停止している(肺機能の停止)
  • 心拍が停止している
  • 瞳孔が開いている(対光反射機能の停止)

脳死説

なぜ脳死説が出てきたのか

臨床医学の発達です。医学が発達して,臓器移植いけるんじゃね?チャレンジするべきじゃね?という時代が来てしまったんです。できることにはチャレンジする,やってみたいというのが人間のサガ。それによって救われる命もある。どうせやるなら,なるべく新鮮な臓器が欲しいということで,「脳死(脳幹を含む全脳の機能が不可逆的に停止すること)」を「人の死亡」としてみとめてくれぃいという流れになりました。不可逆的というのは,もう元に戻らないということ。脳がもう元に戻らない状態になれば,時間の問題でじきに三徴候まで行くでしょ?ということです。それなら助かる命を助けましょうということ。

なぜ脳死説が強く主張されたか。それは,死んでない人,生きている人の体にメスを入れて臓器を取り出せば殺人罪に問われるからです(ちなみに死体から臓器移植すれば死体損壊罪)。医師として技術があっても,犯罪になることはできないからです。

臓器移植法が成立する前

脳死説の採否をめぐる刑法学説の実質的な対立は,「脳死状態からの臓器移植を認めるか否か」にある。ただここで,「脳死を人の死とは認めない」という見解も,「脳死状態の提供者(及びその家族)の真摯な同意があれば,厳しい条件・要件の下で脳死状態からの臓器移植を行い得る」とする点に注意を要する。問題は,脳死説論者のように,「脳死者は死んでいるのだから,死体からの臓器摘出に過ぎない」と考えるのか,否定説のように「脳死者は生きてはいるが,死に限りなく近づいており,移植の必要性と本人の同意があれば臓器を他人のために役立ててよい」とするのかの対立なのである,,後略

前田雅英(1995)『刑法各論講義(第2版)』東京大学出版会 15ページより

臓器移植法が成立する前は,医師は臓器職がやりたくてもなかなかできない。刑法の罪に問われるのか,それとも違法性が阻却されて罰せられないのかよくわからない(形式的には犯罪の構成要件に該当するけど,特別の必要性から正当化されて犯罪にならないのかどうか)極めて不安定な立場に立たされました。

当時は,脳死について,次のような考え方の対立がありました。

  • 脳死なんて認めない。臓器移植したら犯罪!
  • 脳死は人の死として認めない。だけど,必要性もあるから,場合によっては犯罪にしないことがあってもいい。個別に判断すりゃあいい。
  • 脳死は人の死だ。脳死で臓器移植しても殺人罪じゃない。死体損壊とかもいうべきじゃない。助かる命があるんだから!

臓器移植法(改正後のものを含む)が成立した後

以上のように学会やらマスコミやらがすったもんだしているうちに,国民の考え方も変わって来た。そしてついに,臓器移植法が成立し,平成9年に施行されました。法律ができたことによって,次のことがハッキリしました。

  • 臓器移植の場合に限って,「脳死」を,「人の死」とする

ん?臓器移植の場合に限って??
そうなんです,臓器移植の場合に限ってです。臓器移植法6条1項本文には次のように書いてあります。

「医師は,次の各号のいずれかに該当する場合には,移植術に使用されるための臓器を,死体(脳死した者の身体を含む。以下同じ。)から摘出することができる。」

なぜ臓器移植法の場合に限ってか。それは,臓器移植法に書いてある以外に,ほかのどんな法律にも,「人の死」の定義ついて書いてないからです。ほかの法律に書いていないということは,今までのとおり変わってないと考える(安倍総理を除くw)のが普通です(新しい判例もない)。ただ,多少の流れの変化はあります。こんな感じでしょうか。

  • 臓器移植法以外には人の死を定義してないんだから,基本的に,前のとおり,三徴候説でいくしかないよね,保守的に
  • ただ,臓器移植法が,臓器移植の場合に脳死を人の死と認めちゃってるので,ほかの場合もそっち方面に考え方変わるかーーもーーー(かもとしか言えない)

法律的な死についての小まとめ

  • 基本的に人の死は三徴候説で
  • 臓器移植の場合だけ脳死説で
  • 臓器移植法の趣旨を踏まえ,今後の流れに Check it out.

 

民法(私人間の権利義務)

死亡するとどうなるか(死亡の効果)

あくまで民法上は,死んだ人の権利とか義務を認める必要性がないので(だってもういないから),死んだら「権利能力」を失います。権利能力を失うとは,民法の世界の登場人物ではなくなるってことです。いないんですから。

死んだら民法上何が起きるか。それはこうです。

  • 配偶者があるときは,当然に,婚姻関係が解消します(「死んでも夫婦よ」というのは法律の問題ではないw)。
  • 相続が開始します。死んだとたんに財産が相続人に移ります。目に見えないけど,そうなります。法律効果は目に見えないのです。

死亡したとみなされる制度

生物的に死んだことが確認できなくても,法律上,あくまで法律上死んだとみなす制度があります。そうしないと,さっきいった婚姻の解消とか,相続の効果がでないので,残された人が困る(ことがある)からです。そういう制度は二つほどあります。

失踪宣告

一定期間(災害などのときは1年,普通に行方不明のときは7年)生死が分からない人を死んだとみなす制度です。裁判所に申し立てをして,認めてもらいます。認められたら死んだことになるので,再婚もできるし,財産を相続して処分できます。

認定死亡制度(厳密には戸籍法だけど)

災害(水害,火災等の事変)が起きて,残念ながら死体が確認できなくても,「明らかにこの災害で死んだでしょ」というとき,捜査機関と市町村に報告すれば,死亡を推定されます。死亡が推定されると,戸籍上死んだと取り扱うことができます。

豆知識(失踪宣告と認定死亡の違い)

どちらも生存が確認できない人を死んだことにする制度ですが,決定的な違いがあります。それは,死亡が「みなされる」「推定される」かの違いです。失踪宣告はみなされ,認定死亡では推定されます。

この違いは生きていたときに出てきます。行方不明の人が生きて帰ってきた場合,推定は,反証を挙げれば覆ります。つまり,役場に生存を言っていけば,戸籍の記載は訂正されます。しかし,みなされている場合は,反証を挙げても覆りません。生きているとみんなに認められてもダメです。失踪宣告を取り消すには,失踪宣告の取消しの裁判を家庭裁判所に申請して,新たな決定(審判)を出してもらわないといけないのです。これが違いです。失踪宣告は重い。

 

刑法

犯罪論

死者(脳死であろうと,従来の死であろうと)には犯罪の実行行為ができないので,加害者として,人の死が,問題になることはないでしょう。

被害者として問題になるのは,殺人罪とか,傷害致死罪とか,死体損壊罪など,生命や身体に対する罪の関係です。脳死説のところにも書きましたが,人の死亡時点と,犯罪の実行行為の時点の前後をどう考えるかによって,同じ行為の罪名が変わります。

さっきの医療行為の例。もう元には戻らない人の死亡時期を早めるのが何だか正義のように思えました。ところが,こういう場合はどうでしょう。

「脳死状態で人工呼吸器をつけてやさしく微笑んでいる母親の胸を,突然病室に入ってきた男がナイフで一突きにして心肺停止に追いやった」

人の死亡を脳死とすると,死体損壊罪です。三徴候説によると,おそらく殺人罪です。あなたは,脳死説を支持しますか?犯人を殺人罪に問いたいと思いませんか?

人の死亡時期って難しいですね。

刑罰論

刑罰論では言うまでもなく「死刑」の問題が最重要論点です。これは大変大きな問題なので,改めて真面目に書いてみたいと思います。

 

おまけ

あ,冒頭「死の種類」についてひとつ言い忘れました。それは「漫画的」な死です。お前はもう死んでいると言われると例外なく死にます。恐ろしいですね。

奈良県北葛城郡王寺町の司法書中尾哲也の写真楕円形

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