どんな遺産があるか分かって,誰が相続人になるのかと,それぞれの相続人の相続分も計算できたら,次にしないといけないのは,具体的な遺産分けです。この具体的な遺産分けのことを法律では「遺産分割」と呼びます。「いさんぶんかつ」です。
さて,相続分というのは,遺産に対して,それぞれの相続人が,どれだけの取り分を持っているかということでしたね。例えば,配偶者は1/2,子供が1/2というように。でもこれだけでは相続の手続は前に進みません。遺産は金銭のようにすぱっと分数で割り切れるものだけじゃないからです。
ここでは,遺産分割とはいったい何かということを簡単に説明してから,ではどうやってその遺産分割を進めたらいいのかを説明します。この,「どうやって遺産分割を進めたらいいのか」ということを,法律では,「遺産分割の方法」といいます。
では早速いきましょう。
遺産分割とは何か
さっきも少し言いましたが,相続分とは1/2とか,1/3とかいうように,相続人が遺産に対して持っている取り分の割合のことなので,これが分かっただけでは遺産相続の手続を前に進めることができません。お金なら半分とか1/3とかにわければ済みますが,遺産はお金だけではないからです。
つまり遺産分割とは,いろんな遺産を,1/2とか,1/3とかいう相続の割合にあうように,相続人に割り振っていくことです。個別の遺産を,相続分に合うように,具体的に割り振ることです。
例えばこういうことです。分かりやすくするために,簡単な事例を出してみます。
遺産)
住宅の土地と建物 2000万円
預金 2000万円
相続人)
配偶者と子供1人
相続分)
配偶者 1/2
子供 1/2
遺産分割の例)
住宅の全部を配偶者が相続する
預金の全部を子供が相続する
どうですか?分かりましたか?今回の場合,相続人は配偶者と子供1人なので,相続分はそれぞれに1/2になります。家と預金がそれぞれ同じ価値なので,家を預金を配偶者と子供に割り振ったら,相続分とぴったりに合う遺産分け,つまり遺産分割ができたことになります。
このように,遺産分割とは,相続人の相続分に合うように,具体的な遺産の割り振りをすることなのです。
※じっさいの遺産分割では,そんなに厳密に相続分に合うような遺産分割をしません。場合によっては1人の相続人が全部相続する遺産分割をすることもあります。このようなことも許されています。ただし,本来の意味での遺産分割とは,相続分に合わせて遺産を割り振ることだと覚えておいてください。
遺産分割の方法
遺産分割ということの意味が分かりました。では続いて,じっさいにどうやって,その遺産分割を進めていくのかについて説明します。
説明の順番はこうです。普通は,最初に書いてある手続から優先して進めます。書いてある手続ができないときに,初めて次の順番の遺産分割の方法を試します。これを覚えておいてください。
指定分割
指定分割というのは,そもそも,亡くなった人が遺言をしていて,その遺言書の中で,遺産分割の方法が決めてある場合です。相続人が決めるのではなくて,亡くなった人が,もう遺言で指定してあった場合です。遺言ではこういうこともできます。具体的には次ような感じです。
「長男には家を,次男には預貯金を,長女には株を相続させる」
どうですか?この遺言書の文章を読むと,もう具体的に遺産の割り振りが決められています。こういう遺言書の文書は,法律では,「遺産分割の方法の指定」があったものと解釈されています。
亡くなった人が遺言書で遺産分割の方法を指定している場合は,遺産分割はもう終わっているわけですから,相続人で遺産分割をする必要がありません。何もしなくても,そのように決まっているのです。相続人は,このとおりに相続の手続を進めればよいのです。
協議分割
しかし遺言書で遺産分割の方法の指定がされているのはめずらしいことです。そもそも遺言書がある場合というのは,すべての相続の中では一部です。多くの場合は遺言書がありません。では,遺言書がないときは,どうやって遺産分割を進めるのでしょうか。
その答えは,「話合い」です。相続人全員で,誰が何を相続するのか,誰が何を取るのか,あなたは何が欲しいのかを話し合うんです。この話合いのことを,法律では,「遺産分割協議」と呼んでいます。
例えば親と同居していた長男がいて,今後もその家に引き続き住んでいきたいときは,長男は,住宅の土地や建物を相続したいはずです。その代わりに,ほかの相続人に,預貯金や株式を分けてあげるのです。相続人の生活環境はみなそれぞれ違います。だから,相続人ごとにどんな遺産をもらえたら助かるのかが違います。そこはまず,相続人が寄り合って,どんなふうに遺産を割り振ったらいいのか話合いをするのです。
遺産分割は,まずは話合いで決まるということです。話合いがまとまったら,「遺産分割協議書」という書類を作成してください。話合いの結果がどうなったのかを書いた書類を作成するのです。
さて,遺産分割は,まず話合いの方法ですると説明しました。ただ,いつも話し合いがスムーズにいくとは限りません。兄弟の仲が悪くて,感情的になって,遺産分けどこではないケースもあるし,相続人の誰かが,遺産を管理していて,ぜんぜん何があるのか分からないケースもあります。長男が昔ながらの考えを出して,全部自分が相続するといって聞かないケースもあるでしょう。
つまり話合いができない場合はどうするのか,これが問題になります。
協議分割のマニュアル
調停分割
相続人で話合いができないときは,話合いの場所を家庭裁判所に移して,もう一回「話合い」をします。「何だ?話合いができないと言っているのに,また話合いをするのか?無意味じゃないか?」と思われるかもしれません。しかしいちがいにそうとは言えません。
相続人で話合いができないときは,家庭裁判所で,「遺産分割調停」という話合いをします。遺産分割調停はどうやってやるかといいますと,簡単にいうと,裁判官と,調停委員と,相続人の全員で,家庭裁判所の中で話合いをするんです。
まず相続人だけでの話合いとは違って,家庭裁判所の中でするので,相続人の本気度が変わってきます。やる気にならざるを得ないわけです。また,調停は,調停委員が間に入って,いろんな参考意見やアドバイスをくれます。つまり仲介してくれます。相続人だけで考えているときは知らなかった知識とか,世の中の一般常識とか,考え方を調停委員は教えてくれます。こういう第三者的なアドバイスを聞きながら話し合うことで,思い違いに気づいたり,譲り合いの気持ちが出てきたりするのです。
裁判所で話合いがまとまったら,調停調書という書類が作成されます。この書類には法的な効力がありますので,これを使って相続の手続を前に進めることができます。
ともかく,相続人で話合いがつかないときは,家庭裁判所で遺産分割調停をします。家庭裁判所の遺産分割調停は,待っていても始まりません。相続人のうちの誰かが,勇気を出して,家庭裁判所に手続を始めてもらう書類を提出しないといけません。書類の書き方などが分からない場合は,司法書士に相談してください。
調停分割のマニュアル
審判分割
調停をしても,結局相続人の全員が納得するところまでいかないケースもあります。そんな場合は,最終的に,家庭裁判所の裁判官が,遺産分割をどうするか決めてくれます。相続人の話合いができないんですから仕方ありません。ほうっておくことはできないからです。
裁判官は,「遺産に属する物又は権利の種類及び性質,各相続人の年齢,職業,心身の状態及び生活の状況その他一切の事情を考慮」して,遺産分割の審判という決定を出してくれます。
相続人で遺産分割の話合いをしてもまとまらない,家庭裁判所で調停をしてもまだまとまらない場合は,最終的に,家庭裁判所の裁判官がどうするか決めます。最終的には裁判官が決めてしまうんだ,ということを覚えておいてください。それが嫌なら,その前のどこかの段階で,相続人の折り合いをつけることです。
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