あなたはこういうことでお困りではありませんか?
親が高齢になった。弱っているので自分の家で引き取るか,施設に入所してもらう予定だ。となると親の家はいらなくなるので売却処分しないといけない。売却して現金化しないと,これから親の生活費や施設の費用を支払うことができない。ということで,不動産仲介業者に親の家を査定してもらって売却の依頼を出そうと考えた。
そこでこう言われた。「親は認知症でいらっしゃるのでこのままでは契約できません。司法書士等に相談して子成年後見人を選んでもらってください。成年後見人がついたら契約を進めます」
なんだかよく分からない。確かに親はボケている。数年前から認知症でいまではかなりすすんでいる。なんとか身の回りのことはやっているが,記憶はめちゃくちゃで,不動産を売る話は理解できないだろう。とはいえ親の家を処分しないと諸々困るし,親も昔から「お前に任せる」と言っていた。必要なことなんだから,問題なく自分のほうで売買契約を進められると思っていたのに,,,困った。どうしたらいいのだろう。
はい。今日はこの問題に御託抜きでお答えします。前置きは短めに,具体的にどうしたらいいのかを端的に説明します。
不動産仲介業者のいう「後見人をつけてください」は本当か
本当です。
不動産の売却は法律行為です。法律行為とは意思表示をともなう行為です。「確かにこの不動産を金○円で売りますよ」という意思表示です。意思表示をするためには,前提として意思がはっきりしてないといけません。つまり表示するための意思がしっかりしてないとだめです。要は,母に確かな判断能力がないといけません。判断能力がない人には確かな意思がない>意思がないと意思表示はできない>意思表示ができないと当然売買契約もできない,という次第です。
つまり認知症が進んで判断能力がない母が自分で売買契約をすることはできませんし,売買契約をする権限をあなたに委任するための委任契約をすることもできません。よってこのままでは不動産を売ることができないから,冒頭不動産業者の指摘するとおりとなります。
ではどうしたらいいか
母に自分で自分の財産管理や法律行為をする権能が欠けているのであれば,これを法律上補ってやる必要があります。そうしないと母の財産や権利義務を守れないからです。今回の場合は,母のために,成年後見人という法定代理人を選んでもらいます。選んでくれるのは家庭裁判所です。成年後見人が選ばれたら,成年後見人が母に代わって不動産の売買契約に判を押します。
あと,それだけでは不足です。後見人には広範な財産管理権と法律行為の代理権があるものの,重要財産である居住用の不動産の処分については,別途監督機関である家庭裁判所が都度チェックをかけます。つまり,別途,居住用不動産の処分の許可をもらわないと,後見人は母の家を売ることができません。なのでこの手続きも必要です。
以上まとめると,やらないといけないのは,管轄の家庭裁判所に対する,,,
- 成年後見開始の審判申立て
- 居住用不動産の処分許可審判の申立て
という2件の裁判手続きです。
(後見開始の審判)
民法7条 精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある者については、家庭裁判所は、本人、配偶者、四親等内の親族、未成年後見人、未成年後見監督人、保佐人、保佐監督人、補助人、補助監督人又は検察官の請求により、後見開始の審判をすることができる。(成年被後見人及び成年後見人)
同8条 後見開始の審判を受けた者は、成年被後見人とし、これに成年後見人を付する。(成年被後見人の居住用不動産の処分についての許可)
同859条の3 成年後見人は、成年被後見人に代わって、その居住の用に供する建物又はその敷地について、売却、賃貸、賃貸借の解除又は抵当権の設定その他これらに準ずる処分をするには、家庭裁判所の許可を得なければならない。
家庭裁判所に後見開始審判の申請をする具体的な方法と手順
2件の裁判手続きが必要と分かったところで,じっさいのやり方・仕方を具体的に説明します。ややこしいと思った人は司法書士に全部任せてください。一応知っておこうと思われる方は以下ご一読ください。
誰が成年後見開始の申立てをするのか
後見開始の審判の申立て,つまり成年後見の手続きを開始すると家庭裁判所に決定してもらう申請ができるのは,以下の人です。
- 本人
- 配偶者
- 4親等内の親族(あなた!!)
- 未成年後見人
- 保佐人
- 保佐監督人
- 補助人
- 補助監督人
- 検察官
- 市町村長
- 任意後見受任者
- 任意後見人
- 任意後見監督人
(後見開始の審判)
民法7条 精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある者については、家庭裁判所は、本人、配偶者、四親等内の親族、未成年後見人、未成年後見監督人、保佐人、保佐監督人、補助人、補助監督人又は検察官の請求により、後見開始の審判をすることができる。
(成年被後見人及び成年後見人)
第八条 後見開始の審判を受けた者は、成年被後見人とし、これに成年後見人を付する。(審判の請求)
精神保健及び精神障害者福祉に関する法律51条の11の2
市町村長は、精神障害者につき、その福祉を図るため特に必要があると認めるときは、民法 (明治二十九年法律第八十九号)第七条 、第十一条、第十三条第二項、第十五条第一項、第十七条第一項、第八百七十六条の四第一項又は第八百七十六条の九第一項に規定する審判の請求をすることができる。(審判の請求)
知的障害者福祉法28条 市町村長は、知的障害者につき、その福祉を図るため特に必要があると認めるときは、民法第七条 、第十一条、第十三条第二項、第十五条第一項、第十七条第一項、第八百七十六条の四第一項又は第八百七十六条の九第一項に規定する審判の請求をすることができる。(審判の請求)
老人福祉法32条 市町村長は、六十五歳以上の者につき、その福祉を図るため特に必要があると認めるときは、民法第七条 、第十一条、第十三条第二項、第十五条第一項、第十七条第一項、第八百七十六条の四第一項又は第八百七十六条の九第一項に規定する審判の請求をすることができる。(後見、保佐及び補助との関係)
任意後見契約に関する法律10条 任意後見契約が登記されている場合には、家庭裁判所は、本人の利益のため特に必要があると認めるときに限り、後見開始の審判等をすることができる。
2 前項の場合における後見開始の審判等の請求は、任意後見受任者、任意後見人又は任意後見監督人もすることができる。
3 第四条第一項の規定により任意後見監督人が選任された後において本人が後見開始の審判等を受けたときは、任意後見契約は終了する。
今回申立てをすべきは4親等内の親族のうち,子供であるあなたです。いままさに遺産分割協議ができなくて困っているあなたです。子であるあなたが,家庭裁判所に,母親の後見開始審判の申立てをすべきですし,また民法による申立権者としてそれをすることができます(母親は判断能力がないので,本件関係なく,直ちに後見人を付けるべきです)。
どこの裁判所に申立てをするか
判断能力のない本人の住所地を管轄する家庭裁判所に申請をします。
(管轄)
家事事件手続法117条1項 後見開始の審判事件(別表第一の一の項の事項についての審判事件をいう。次項及び次条第一号において同じ。)は、成年被後見人となるべき者の住所地を管轄する家庭裁判所の管轄に属する。
何をどのように準備して家庭裁判所に申請するのか
書類を作成したり収集したりして,これを揃えて裁判所に書面申請します。いきなり裁判所に行ったり,電話で申請しようとしても無理です。
(申立ての方式等)
家事事件手続法49条1項2項 家事審判の申立ては、申立書(以下「家事審判の申立書」という。)を家庭裁判所に提出してしなければならない。
2 家事審判の申立書には、次に掲げる事項を記載しなければならない。
一 当事者及び法定代理人
二 申立ての趣旨及び理由
後見開始審判の申立てに必要な書類は次のとおりです。
- 申立書
- 申立書に関連し,各家庭裁判所が独自に用意している書式の書類
- 添付書類
申立書の書式見本はこんな感じです。
なお,申立書には,裁判手数料として800円の収入印紙を貼ります。そして,裁判所が関係者に書類を郵送するための郵便切手(予納郵券)をいくらか準備して裁判所に預けます。金額と組み合わせは各家庭裁判所に事前確認します。
その他,後見開始の審判が出たら後見登記という登記が裁判所から法務局に嘱託(申請)されるので,登記手数料として2600円の収入印紙を別途納めます。あらかじめ裁判所に収入印紙を提出しておきます。
申立書に関連し,各家庭裁判所が独自に用意している書式の書類
これは,各地の家庭裁判所が独自に書式を準備しているので,管轄の家庭裁判所に確認して書類をもらい,それに書きます。成年後見に関する家事審判事件は毎年事件数が増えていて,裁判所も日々業務の効率化と適正化に努力しています。なので,この独自の書類も,日々更新されていきます。なるべく最新のものを利用して作成するようにしてください。
なお,この記事作成日現在の奈良家庭裁判所管内(奈良家裁本庁,葛城支部,五條支部,吉野出張所)の当該書類は次のとおりです。
- 事情説明書
- 診断書及び鑑定についてのお尋ね
- 本人の状況説明書
- 後見人候補者事情説明書
- 親族関係図
- 親族同意書
- 財産目録
- 定期収支一覧表
事情説明書
事情説明書とは,後見開始申立ての目的(動機),申立てについての本人の認識,現在の財産管理状況及び親族の協力体制について申立人に説明させ,裁判所が大まかな事実関係をつかみ,事件の処理方針の目途をつけるために提出する書類です。
診断書及び鑑定についてのお尋ね
診断書及び鑑定についてのお尋ねとは,あらかじめ裁判所が定めた形式の診断書の書式で医師に診断書を提出させることにより判断能力の認定をやりやすくするための書類です。医師に書いてもらう診断書の書式とその説明書です。また診断書だけでは判断能力の認定ができないときは,精神鑑定を受けてくれるか当該医師に事前確認をするものです。当該医師が精神鑑定をしない場合,裁判所が別途鑑定医を手配します。
本人の状況説明書
本人の状況説明書とは,本人の生活状況,健康状態,経歴を申立人に説明させ,本人がどういう人かを裁判所が把握するための書類です。
後見人候補者事情説明書
後見人候補者事情説明書とは,申立人が後見人候補者して申立書に記載した人について,その生活状況,健康状態,収入,財産,負債の有無,後見人としての活動方針等を確認して,候補者に後見人としての適性があるかどうか判断するための参考資料とするものです。
親族説明図
親族説明図とは,文字どおり,本人や申立人を取り巻く親族関係者がどうなっているか裁判所が把握するために提出するものです。本人の財産について利害関係の強い親族の身分関係や同意状況を判断するときの参考にします。
親族同意書
親族同意書とは,これも文字どおり,親族の方が当該後見開始申立てや後見制度の利用に同意しているかどうかを親族の方に署名押印してもらう同意書によりあらかじめ確認するものです。これにより,後見人を誰にしたらいいのかということの判断資料とし,事件にどういう問題が潜んでいるのかといった事情を知るための参考資料とします。なお,親族同意書が得られない場合,裁判所は基本的に申立人等の親族を成年後見人に選びません。その場合司法書士や弁護士等の専門職後見人が選ばれます。申立人が後見人になりたければ,必ず一定の範囲の親族に,親族同意書を出してもらわないといけません。
財産目録
財産目録とは,本人の財産状況を把握するための書類です。成年後見制度は判断能力のない本人の財産を後見人が管理するためのものなので,本人がどういう財産を持っているのかあらかじめ提出させるのです。財産の種類や額等により,誰に後見人にしたらいいのか等の判断資料にもします。財産目録には,預貯金,株式・有価証券・投資信託,保険,不動産,債権債務等,主要な資産や負債を記載していきます。
定期収支一覧表
定期収支一覧表とは,本人の収入と支出を一覧にして記載し,収支の状況を把握するための書類です。収入がどの程度あるのか,支出がどの程度あるのか,また毎月毎年の収支はプラスになるのかマイナスになるのかは,後見人の財産管理にとってとても重要な事実です。
添付書類は次のとおりです。
本人確認の資料
- 戸籍謄本
- 住所を証する住民票又は戸籍附票
- 登記されていないことの証明書(法務局に申請して取得します。後見登記の証明書です)
成年後見人の候補者の確認資料
- 住所を証する住民票又は戸籍附票
財産関係の資料
- 不動産があれば,登記簿謄本や固定資産評価証明書
- 預貯金があれば,預貯金通帳や証書
- 株式や投資信託などがあれば,取引報告書や残高証明書
- 生命保険契約があれば,保険証券
- 債権債務があれば,借用書(金銭消費貸借契約書)や返済明細など
など
収入関係の資料
- 年金額決定通知書
- 確定申告書控え
- 給与明細
など
支出関係の資料
- 税金の納税通知書
- 健康保険・年金,介護保険といった社会保険料の決定通知書
- 家賃や施設費の領収書など
- 医療費の領収書
など
上記の診断書等「各家庭裁判所が独自に用意している書式の書類」一式全部
申請後,成年後見人が選ばれるまでの流れ
申立書と添付書類を管轄の家庭裁判所に提出したら裁判所書記官が書類をチェックします。不足や補足書類があれば提出を求められます。一通り書類が揃っていると判断されたら次のステップに進みます。成年後見制度は本人の財産管理権に制限を加える重大な結果をもたらすので,書類を出したらすぐ決定というわけにはいきません。家庭裁判所が慎重に審査します。つまり,家裁に申請書類を出して申請しても,後見人が選ばれるまでにはステップと時間を経る必要があります。
なお,基本的に,申立てをしたら家庭裁判所の指示にしたがってください。後見開始をするのか,後見人を誰にするのかを決めるのは家庭裁判所の裁判官です。申立人ではありません。また事務の責任者は担当の裁判所書記官ですから,裁判所書記官から指示があったら速やかに対応します。なお,関係者と面談して事情を聴いたりするのは,裁判所が指定した家庭裁判所調査官という専門職です。調査官の調査にも積極的に協力してください。
(家庭裁判所調査官による事実の調査)
家事事件手続法58条 家庭裁判所は、家庭裁判所調査官に事実の調査をさせることができる。
2 急迫の事情があるときは、裁判長が、家庭裁判所調査官に事実の調査をさせることができる。
3 家庭裁判所調査官は、事実の調査の結果を書面又は口頭で家庭裁判所に報告するものとする。
4 家庭裁判所調査官は、前項の規定による報告に意見を付することができる。(家庭裁判所調査官)
裁判所法61条の2 各家庭裁判所及び各高等裁判所に家庭裁判所調査官を置く。
2 家庭裁判所調査官は、各家庭裁判所においては、第三十一条の三第一項第一号の審判及び調停、同項第二号の裁判(人事訴訟法第三十二条第一項 の附帯処分についての裁判及び同条第三項 の親権者の指定についての裁判(以下この項において「附帯処分等の裁判」という。)に限る。)並びに第三十一条の三第一項第三号の審判に必要な調査その他他の法律において定める事務を掌り、各高等裁判所においては、同項第一号の審判に係る抗告審の審理及び附帯処分等の裁判に係る控訴審の審理に必要な調査その他他の法律において定める事務を掌る。
3 最高裁判所は、家庭裁判所調査官の中から、首席家庭裁判所調査官を命じ、調査事務の監督、関係行政機関その他の機関との連絡調整等の事務を掌らせることができる。
4 家庭裁判所調査官は、その職務を行うについては、裁判官の命令に従う。
精神鑑定をする
本人に本当に判断能力がないかどうか専門家に鑑定させます。もっとも,申立書と一緒に提出した診断書の内容によっては,鑑定は省略されます。
(精神の状況に関する鑑定及び意見の聴取)
家事事件手続法119条 家庭裁判所は、成年被後見人となるべき者の精神の状況につき鑑定をしなければ、後見開始の審判をすることができない。ただし、明らかにその必要がないと認めるときは、この限りでない。
2 家庭裁判所は、成年被後見人の精神の状況につき医師の意見を聴かなければ、民法第十条 の規定による後見開始の審判の取消しの審判をすることができない。ただし、明らかにその必要がないと認めるときは、この限りでない。
↓
本人や後見人候補者の意見を聞く
次に裁判所は,本人や後見人候補者の意見を聞きます。本人に明らかに判断能力がなく意見を聞けないときは,本人の意見聴取は省略されます。
(陳述及び意見の聴取)
家事事件手続法120条 家庭裁判所は、次の各号に掲げる審判をする場合には、当該各号に定める者(第一号から第三号までにあっては、申立人を除く。)の陳述を聴かなければならない。ただし、成年被後見人となるべき者及び成年被後見人については、その者の心身の障害によりその者の陳述を聴くことができないときは、この限りでない。
一 後見開始の審判 成年被後見人となるべき者
二 後見開始の審判の取消しの審判(民法第十条 の規定による場合に限る。) 成年被後見人及び成年後見人
三 成年後見人又は成年後見監督人の選任の審判 成年被後見人となるべき者又は成年被後見人
四 成年後見人の解任の審判 成年後見人
五 成年後見監督人の解任の審判 成年後見監督人
六 成年被後見人に宛てた郵便物等の配達の嘱託の審判 成年被後見人
2 家庭裁判所は、次の各号に掲げる審判をする場合には、当該各号に定める者の意見を聴かなければならない。
一 成年後見人の選任の審判 成年後見人となるべき者
二 成年後見監督人の選任の審判 成年後見監督人となるべき者
↓
後見開始と後見人選任の審判
精神状態を認定し,本人や候補者の意見を聞いたうえで結論が出されます。結論は,家事審判という家庭裁判所の決定の形式です。審判が出たら審判書が作られます。
(審判)
家事事件手続法73条 家庭裁判所は、家事審判事件が裁判をするのに熟したときは、審判をする。
2 家庭裁判所は、家事審判事件の一部が裁判をするのに熟したときは、その一部について審判をすることができる。手続の併合を命じた数個の家事審判事件中その一が裁判をするのに熟したときも、同様とする。(審判の方式及び審判書)
同76条 審判は、審判書を作成してしなければならない。ただし、即時抗告をすることができない審判については、家事審判の申立書又は調書に主文を記載することをもって、審判書の作成に代えることができる。
2 審判書には、次に掲げる事項を記載しなければならない。
一 主文
二 理由の要旨
三 当事者及び法定代理人
四 裁判所
↓
本人(成年被後見人)や成年後見人に対して審判の告知(「審判が出ましたよ」と連絡する)をする
審判書という裁判所の文書が関係人に郵送されてきます。これにより正式決定が出されたことが分かります。
(審判の告知等)
家事事件手続法122条 次の各号に掲げる審判は、当該各号に定める者に通知しなければならない。この場合においては、成年被後見人となるべき者及び成年被後見人については、第七十四条第一項の規定は、適用しない。
一 後見開始の審判 成年被後見人となるべき者
二 成年被後見人に宛てた郵便物等の配達の嘱託の審判 成年被後見人
2 成年被後見人に宛てた郵便物等の配達の嘱託及びその嘱託の取消し又は変更の審判は、信書の送達の事業を行う者に告知することを要しない。この場合においては、その審判が効力を生じた時に、信書の送達の事業を行う者に通知しなければならない。
3 次の各号に掲げる審判は、第七十四条第一項に規定する者のほか、当該各号に定める者に告知しなければならない。
一 後見開始の審判 民法第八百四十三条第一項 の規定により成年後見人に選任される者並びに任意後見契約に関する法律 (平成十一年法律第百五十号。以下「任意後見契約法」という。)第十条第三項 の規定により終了する任意後見契約に係る任意後見人及び任意後見監督人
二 後見開始の審判の取消しの審判 成年後見人及び成年後見監督人
三 成年被後見人に宛てた郵便物等の配達の嘱託の取消し又は変更の審判 成年後見人
↓
審判の確定と,後見登記の嘱託(申請)
後見開始の審判は,即時抗告ができる2週間の期間が経過すると確定します(細かい話ですが,後見開始の審判と同時にされる成年後見人選任審判には即時抗告ができません)。
(審判の告知及び効力の発生等)
家事事件手続法74条 審判は、特別の定めがある場合を除き、当事者及び利害関係参加人並びにこれらの者以外の審判を受ける者に対し、相当と認める方法で告知しなければならない。
2 審判(申立てを却下する審判を除く。)は、特別の定めがある場合を除き、審判を受ける者(審判を受ける者が数人あるときは、そのうちの一人)に告知することによってその効力を生ずる。ただし、即時抗告をすることができる審判は、確定しなければその効力を生じない。
3 申立てを却下する審判は、申立人に告知することによってその効力を生ずる。
4 審判は、即時抗告の期間の満了前には確定しないものとする。
5 審判の確定は、前項の期間内にした即時抗告の提起により、遮断される。(即時抗告)
同123条 次の各号に掲げる審判に対しては、当該各号に定める者(第一号にあっては、申立人を除く。)は、即時抗告をすることができる。
一 後見開始の審判 民法第七条 及び任意後見契約法第十条第二項 に規定する者
二 後見開始の申立てを却下する審判 申立人
三号以下及び2項略
なお,後見開始の審判が効力を生じたら,家庭裁判所の書記官は,速やかに,東京法務局に対して,後見登記の嘱託(申請)を行います。
家事事件手続法116条 裁判所書記官は、次に掲げる場合には、最高裁判所規則で定めるところにより、遅滞なく、戸籍事務を管掌する者又は登記所に対し、戸籍の記載又は後見登記等に関する法律 (平成十一年法律第百五十二号)に定める登記を嘱託しなければならない。ただし、戸籍の記載又は同法 に定める登記の嘱託を要するものとして最高裁判所規則で定めるものに限る。
一 別表第一に掲げる事項についての審判又はこれに代わる裁判が効力を生じた場合
二 審判前の保全処分が効力を生じ、又は効力を失った場合
後見登記が完了したら,法務局で登記事項の証明書が取れるようになります。登記事項証明書を見れば,本人に後見が開始されていると分かるし,法定代理人である成年後見人が誰であるのかも分かります。この後見登記制度は,本人の権利保護,取引の安全,成年後見人の身分証明(法定代理権限の証明・資格証明)などの役割を担います。
参考)
続いて,居住用不動産の処分許可審判の申請をする具体的な方法と手順
後見開始の審判が出たら,今度は正式に選ばれた後見人から,居住用不動産の処分許可審判の申立てを行います。申立てをするのは後見人です。もう後見人が親の財産を管理しているのであり,親名義の不動産の売却を行うのは後見人だからです。
親の家はどんな場合でも売れるか?申立てすれば必ず許可はもらえるか?
これは,そうではありません。居住用不動産(いま現に住んでいる家だけではなく,過去に住んでいた家や,将来住む可能性のある家も含みます)を処分することは,本人の生活(身上面)に大きな影響を及ぼすので,どんな場合でも許可がでるわけではありません。許可をするについては,家庭裁判所は,およそ以下のようなことを総合的に勘案して決定するはずです。
- そもそもいますぐその不動産を売却処分等する必要性があるのか(生活費や療養看護費が足りない?施設入所の一時金に充てる?)
- 本人がどのように日常生活を送っているかという生活状況(いまどこにいる?施設?今後帰宅する可能性は?)
- 売買契約の売却条件はどうなっているか(不当に安くない?)
- 売却代金は誰がどうのように管理する予定か。(ちゃんと本人の口座に入金する?)
- 親族は反対していない?反対の理由は?(将来不動産を相続する可能性がある推定相続人はどう思ってる?)
要するに,成年後見人が(場合によっては一部の親族の意向を受けて),恣意的に不動産を処分するのではないか,必要性や合理性がある不動産処分なのかを家庭裁判所がチェックして許可決定するのです。なので,居住用不動産処分許可審判の申立てをするについては,このあたりの事情をできるだけ分かりやすく申立書に記載して,売却の必要性や合理性を裁判所に訴えなければいけません。
居住用不動産の処分許可の申立て
この申請に必要な書類は次のとおりです。
- 申立書
- 添付書類
申立書の見本は以下のとおり。後見開始とは別件の申請なので,収入印紙800円と予納郵券が必要です。
添付書類は,先に行った後見開始審判の申立てと重なるところがあるので,改めて何が必要になるか,管轄の家庭裁判所に事前確認してください。ただし,以下は必ず必要になります。
- 売却予定の不動産の登記簿謄本(登記事項証明書)
- 固定資産評価証明書
- 不動産業者の査定書(※)
- 不動産売買契約書(案)
※
当該不動産の鑑定評価に準じる詳しい査定書を不動産業者に作成してもらって添付します。成年後見人は成年被後見人の財産を守るのが仕事です。なので時価より安い価格で売るのは望ましくありません。もしそういうことがどうしても必要ならば,その必要性を説明書にまとめて裁判所に提出する必要があります。
ところで,成年後見人には誰が選ばれるのか(成年後見人になる人)
この記事のとおり申立てをすればやがて後見開始審判が出て,同時に成年後見人が選ばれます。では,成年後見人には誰が選ばれるんでしょうか。またケースにより誰が選ばれるかに違いはあるんでしょうか。
この点,成年後見人を誰にするかは家庭裁判所の専権です。なので最終的に誰が選ばれるかは裁判官が決めることです。つまり申立人が決められる問題ではなくあれこれ考えても無意味と言えます。もっとも,一定の基準のもとで実務は運用されていますので,ここではそれをお教えします。参考になさってください。
本人の子供など親族が選ばれるケース
本人の財産が少なく,司法書士や弁護士等の専門職後見人の報酬を支払うのが厳しい状態であり,身の回りのお世話をするのが主たる仕事となるようなケースにおいて,親族が後見人に選ばれます。なので,以下のような場合には,親族は,単独で成年後見人に選ばれることはありません。
- 他の親族(推定相続人)との仲が悪い場合
- すでに紛争状態にあって訴訟等が予想される
- 財産を狙っている人がいる
- 財産が多額又は複雑
- 高齢で健康面に不安がある
- 候補者に多額の借金がある
- 学歴職歴等から判断して財産管理能力に疑問がある
など
司法書士や弁護士等の専門職が選ばれるケース
親族を後見人に選ぶことができないときは,司法書士や弁護士等の専門職が後見人に選任されます。裁判所は司法書士や弁護士等の名簿を持っているので,その中から適宜選任します。なお,
- 一定の財産がある人の場合,通常,司法書士又は弁護士が選ばれます。
- 財産がない人の場合,社会福祉士等が選ばれます。
その他いろんなパターン
後見人を誰にするかは,以上の2パターンだけではありません。成年後見制度は過渡期の制度であり,裁判所も,どうやったら本人の財産をよりよく守れるか試行錯誤しています。現在,以上のほかに,以下のようなパターンで後見人等が選ばれることがあります。
- 親族と司法書士等専門職が共同で(複数で)後見人に選ばれるケース
- 親族が後見人になり,司法書士等が後見監督人に選ばれるケース
- 親族が後見人になり,大きな財産は信託銀行に信託するケース(後見制度支援信託 ※ )
※
極めて大ざっぱにいうと,後見制度支援信託とは,本人の財産を守るために,大きな財産を信託銀行に預けてしまって,生活に必要な小口のお金だけを親族後見人に管理させる仕組みです。最初に信託契約を締結するところまでを司法書士等専門職後見人が行い,信託契約をして信託銀行にお金が渡ったら専門職後見人から親族後見人にバトンタッチします。その後,本人の財産は,信託銀行と親族後見人が管理します。
家裁の手続きが終わったら売買契約を進める
後見開始審判が出て,成年後見人が選ばれ,居住用不動産処分許可審判が降りて,ようやく裁判所の手続き一式が終わったら,後見人によって不動産売買の手続きを前に進め,代金決済まで完了させます。契約から決済までの手続きは通常の不動産売買契約と変わるところはありません。
ただし,,
売買代金は親の財産として親の口座に入金する
売却した不動産の代金は親の口座に入金し,親の財産として取り扱う必要があります。親の所有名義の不動産を売却したんですから,代金は親のものになって当然です。売却代金を子供であるあなたのもの(所有するとか,贈与するとか)としたり,あなたの預貯金口座に入金することはできませんから注意してください。
その後の後見人の仕事は続く
なお,こうして親の口座に入金された不動産の売却代金は,後見人によって引き続き管理されます。後見人は,基本的に,親が死んで財産管理の必要性が亡くなるまで仕事を継続します。不動産売却が済んだ後見人の任務が終了するわけじゃないのでこの点も注意が必要です。
繰り返します。後見人は,今回の売却代金を継続して管理するほか,親のその他の財産を管理する仕事と引き続き行います。例えばあなたが後見人になっている場合はあなたが,司法書士等専門職後見人がついている場合はその司法書士等がずっと後見人を続けます。不動産の売買代金が入金された親の預貯金は,親のために使用する必要があるときに,口座から出金して使用できます。もちろん施設入所等の費用の支払いは,親のために必要な支出ですから,後見人において適宜支出を行えます。後見人は親の財産を適切に管理し,定期的に家庭裁判所に報告書を出して期間内の管理と現状を報告します。後見人の仕事等についてここで全部説明することはできませんから,分からないことは司法書士に相談してください。
なお,裁判所が後見ポータルサイトというのを作っており,いろいろ情報が見られます(ややこしいので司法書士に聞くのが早いと思いますが参考まで)。
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