公的年金を受け取っている親などが死亡したら,この年金に関する手続きもしなければいけません。市町村役場に死亡届を提出したら,あとは役場が勝手にやってくるという仕組みはありませんので注意してください。
年金受給者が死亡したときに遺族がやらなければいけないことは次の三つ。この三つの項目を処理しなければいけないんだ,ということを覚えておいてください。
- もらっている年金をとめる手続き
- 受給日の〆の関係で受け取れていない年金の端数分を受け取る手続き
- 遺族年金をもらうための手続き(もらえる人だけ)
年金をとめる。端数をもらう。そして今後遺族が遺族年金をもらう(遺族年金はもらえる人だけ)。この三つの手続きが必要です。
さて,
- 年金をとめる具体的な手続きは,年金受給権者死亡届を提出して行います
- 端数をもらう手続きは,未支給年金請求書を提出して行います
- 遺族年金をもらう手続きは,年金請求書(裁定請求書)を提出して行います。
ということで,この三つの手続きを簡単に確認しておきます。
年金受給権者死亡届を提出して年金をとめる
提出する書類等
死んだら本人は年金をもらえません。当然です。でも死んだことを知らせないと年金をストップできません。なので死亡の届出をします。具体的には「年金受給者死亡届」という書類を提出すればよいです。
さて,亡くなった被相続人が受給していた公的年金はどの年金でしょうか。
- 国民年金(自営業をしていた)
- 厚生年金(会社員をしていた)
- 共済年金(公務員だった)
など
年金にはいくつかの種類がありますが,提出する書類はみな同じ。この年金受給者死亡届です。年金受給者死亡届に,以下の添付書類を付けて,次に説明する役所に提出します。
- 死亡を証する書類(住民票除票or戸籍謄本or死亡診断書などから1点)
- 年金証書
国民年金の場合は死亡後14日以内,厚生年金の場合は10日以内に提出します。
提出する場所
書類を提出する場所は,年金の種類によって違います。
国民年金だけの人
市町村役場に提出します。
厚生年金の人
日本年金機構の窓口である年金事務所(サムネイル画像にある,「社会保険事務所」という役所はもうありません)に提出します。
共済年金の人
組合員となっていた共済組合に提出します。
年金受給権者死亡届の見本
未支給年金請求書を提出して年金の端数をもらう
年金の受取りに未支給の端数が出る仕組み
年金に端数が生じてしまう理由は,年金が次のようなルールで支払われるようになっているからです。
「偶数月の15日に後払いで支給。ただし亡くなった月の分までは全額支給」
- 例えば,8月15日に支給される年金は,6月7月の分です。
- それでは,8月1日に年金受給者が死んだらどうなるでしょうか。
- この点,死亡届をすぐ提出すると,8月1日以降,新規に年金の送金処理はされません。
- しかし,6月分と7月分は,当然後払いでもらわないといけない年金です。
- さらに,死亡月である8月分も,法律上もらえるはずです。
↓ - このうち,6月分と7月分については,年金機構の送金処理と,被相続人の受取口座の死亡凍結との関係で,8月15日に振り込まれていれば問題ありませんが,振り込まれていなければこれが未支給年金になります。
- このうち,8月分については,本来10月15日にもらえるはずが,もう新規に送金処理はされないので,必ず未支給年金になります。
この点に関する国民年金法の規定(他の年金もほぼ同じ)
国民年金法18条
年金給付の支給は、これを支給すべき事由が生じた日の属する月の翌月から始め、権利が消滅した日の属する月で終るものとする。
2 年金給付は、その支給を停止すべき事由が生じたときは、その事由が生じた日の属する月の翌月からその事由が消滅した日の属する月までの分の支給を停止する。ただし、これらの日が同じ月に属する場合は、支給を停止しない。
3 年金給付は、毎年二月、四月、六月、八月、十月及び十二月の六期に、それぞれの前月までの分を支払う。ただし、前支払期月に支払うべきであつた年金又は権利が消滅した場合若しくは年金の支給を停止した場合におけるその期の年金は、その支払期月でない月であつても、支払うものとする。同19条1項
年金給付の受給権者が死亡した場合において、その死亡した者に支給すべき年金給付でまだその者に支給しなかつたものがあるときは、その者の配偶者、子、父母、孫、祖父母、兄弟姉妹又はこれらの者以外の三親等内の親族であつて、その者の死亡の当時その者と生計を同じくしていたものは、自己の名で、その未支給の年金の支給を請求することができる。
未支給年金は請求しないともらえない
本来であれば,これらの未支給年金は,自動的(積極的)に年金機構が払ってくれてしかるべきです。しかしながら,現在の法律ではそうはなっておらず,一定の地位にある人が自ら請求しないともらえないのです。
ですので,この当然支給されるべき未支給の年金をもらうために,未支給年金の請求書を提出します。
未支給年金請求書の提出先
年金受給権者死亡届と同じく,年金の種類によって提出先を選択して,「未支給年金請求書」を提出します。
- 国民年金の未支給年金請求書は市町村役場へ,
- 厚生年金の未支給年金請求書は年金事務所へ,
- 共済年金の未支給年金請求書は共済組合へ宛て,それぞれ提出します。
未支給年金請求書の見本
国民年金法施行規則25条
法第十九条 の規定による未支給の年金の支給の請求は、次の各号に掲げる事項を記載した請求書を機構に提出することによつて行わなければならない。この場合において、当該請求が法第十九条第三項 の規定に該当することに係るものであるときは、併せて、第十六条、第十六条の二第三項又は第十六条の三の例により、老齢基礎年金の裁定請求書及びこれに添えるべき書類を提出しなければならない。
一 請求者の氏名及び住所並びに請求者と受給権者との身分関係
二 受給権者の氏名、生年月日及び住所
二の二 受給権者の基礎年金番号
三 受給権者の老齢基礎年金の年金証書の年金コード
四 受給権者の死亡の年月日
五 請求者以外に法第十九条第一項 の規定に該当する者があるときは、その者と受給権者との身分関係
六 次のイ及びロに掲げる者の区分に応じ、当該イ及びロに定める事項
イ 第十六条第一項第八号イに規定する者 払渡希望金融機関の名称及び預金口座の口座番号
ロ 第十六条第一項第八号ロに規定する者 払渡希望郵便貯金銀行の営業所等の名称及び所在地
2 前項の請求書には、次の各号に掲げる書類を添えなければならない。
一 受給権者の死亡の当時における受給権者及び請求者の相互の身分関係を明らかにすることができる書類
二 受給権者の死亡の当時、受給権者が請求者と生計を同じくしていたことを明らかにすることができる書類
三 前項第六号イに掲げる者にあつては、預金口座の口座番号についての当該払渡希望金融機関の証明書、預金通帳の写しその他の預金口座の口座番号を明らかにすることができる書類
四 法第百五条第四項 ただし書に該当するときは、受給権者の老齢基礎年金の年金証書(年金証書を添えることができないときは、その事由書)
3 第一項の請求は、老齢基礎年金の受給権者が同時に老齢厚生年金の受給権を有していた場合であつて同項の請求を行う者が当該受給権者の死亡について厚生年金保険法第三十七条第一項 の請求を行うことができる者であるときは、当該請求に併せて行わなければならない。この場合において、第一項の請求書に記載することとされた事項及び前項の規定により第一項の請求書に添えなければならないこととされた書類のうち厚生年金保険法施行規則第四十二条第一項 の請求書に記載し、又は添えたものについては、前二項の規定にかかわらず、第一項の請求書に記載し、又は添えることを要しないものとする。同26条
この款の規定(第十八条の二を除く。)によつて提出する請求書、申請書又は届書には、請求、申請又は届出の年月日を記載し、記名押印又は自ら署名しなければならない。
未支給年金を請求できる人(請求権者)
未支給年金を請求できる人の範囲とその順位は法律で決まっています。次のとおりです。注意すべきは,こらの人であっても,被相続人と「生計を同じくしていたもの」でないといけないことです。「生計を同じくする」とは「生活上の家計を同じくする」こと。このことは,提出する添付書類によって明らかにします。
- 配偶者
- 子
- 父母
- 孫
- 祖父母
- 兄弟姉妹
- その他3親等内の親族
国民年金法19条
年金給付の受給権者が死亡した場合において、その死亡した者に支給すべき年金給付でまだその者に支給しなかつたものがあるときは、その者の配偶者、子、父母、孫、祖父母、兄弟姉妹又はこれらの者以外の三親等内の親族であつて、その者の死亡の当時その者と生計を同じくしていたものは、自己の名で、その未支給の年金の支給を請求することができる。
2 前項の場合において、死亡した者が遺族基礎年金の受給権者であつたときは、その者の死亡の当時当該遺族基礎年金の支給の要件となり、又はその額の加算の対象となつていた被保険者又は被保険者であつた者の子は、同項に規定する子とみなす。
3 第一項の場合において、死亡した受給権者が死亡前にその年金を請求していなかつたときは、同項に規定する者は、自己の名で、その年金を請求することができる。
4 未支給の年金を受けるべき者の順位は、政令で定める。
5 未支給の年金を受けるべき同順位者が二人以上あるときは、その一人のした請求は、全員のためその全額につきしたものとみなし、その一人に対してした支給は、全員に対してしたものとみなす。国民年金法施行令4条の3の2
法第十九条第四項 に規定する未支給の年金を受けるべき者の順位は、死亡した者の配偶者、子、父母、孫、祖父母、兄弟姉妹及びこれらの者以外の三親等内の親族の順序とする。
未支給年金請求書の添付書類(必要書類)
請求書と一緒に持っていく書類等は次のとおりです。
- 認印
- 受取用の預貯金通帳写し
- 年金証書
- 死亡がわかる書類(住民票除票,戸籍謄本,死亡診断書写しなど)
- 関係がわかる書類(戸籍謄本)
- 生計同一を証する書類(住所が同じときは住民票,そうでないときは申立書,理由書,第三者の証明書など)
- 代理人がするときは代理権を証する書類(委任状と代理人の身分証明書)
生計同一証明書がちょっとややこしいです。
年金請求書(裁定請求書)を提出して遺族年金をもらう
亡くなった被相続人が国民年金や厚生年金の被保険者であって一定の要件を満たしている場合,被相続人によって生計を維持されていた一定の遺族が,今後,遺族年金をもらえる場合があります。
- 国民年金の被保険者が亡くなった場合にもらえる遺族年金を,遺族基礎年金といいます。
- 厚生年金の被保険者が亡くなった場合にもらえる遺族年金を,遺族厚生年金といいます。
- 公務員であった方の遺族にも遺族厚生年金が支給されます(年金制度の改革により,今後新規に支給されるべき遺族共済年金は,遺族厚生年金に統一されました)。
また,国民年金独自の制度として,寡婦年金や,死亡一時金を,それぞれにもらえるケースがあります。
なお,遺族年金については,年金機構のWEBサイトに詳しく説明が載っています。
年金のことを詳しく調べるには,,,
日本の年金制度は,年金の一元化などによって現在かなりややこしくなっています。年金のことを調べるには以下の方法があります。
公的年金のことを管轄している日本年金機構(厚生労働省)のWEBサイトを読む
日本年金機構の年金ダイヤルに電話して聞く
各地の年金事務所(日本年金機構の窓口機関)に行って聞く
各地の年金相談センター(年金機構と社会保険労務士会が一緒にやっているリアルの窓口)に行って聞く
年金のことが書いてある法律を読む
国民年金の法律
厚生年金の法律
共済年金の法律
- 国家公務員共済組合法,同施行令,同施行規則(財務省)
- 地方公務員共済組合法,同施行令,同施行規則(総務省)
- 私立学校教職員共済法,同施行令,同施行規則(文部科学省)
公的年金ではない「私的年金」について(蛇足)
生命保険会社や銀行窓口で購入した個人年金保険のことは,保険会社や販売代理店に直接連絡して確認ください。契約時の重要事項説明書,しおり,保険契約約款がお手元にある場合は,一通り目を通してから連絡すると分かりやすいはずです。
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