- 生命保険の契約内容
- 生命保険と遺産相続の権利関係(相続財産か?遺産分割の対象か?)
- 生命保険と相続税
これらのことを正確に理解している方は少ないのでは?それぞれが難しい内容ですし,もう一つ難しいのは,それらが複雑に絡み合って,その関係性や整合性がよく分からなくなりがちなところです。よって次のようなことをごくごく簡単にまとめておきたいと思います。これをお読みになると,これらを取り巻く問題について頭が整理できるはずです。
- 生命保険契約の基礎知識
- 生命保険金や生命保険契約は,民法上(相続の権利と義務)どのように考えられるか。相続財産になるか。遺産分割の対象になるか。
- 生命保険金や生命保険契約は,税法上(相続税法)どのように取り扱われるか
生命保険(死亡保険)の種類
生命保険は,死んだときにお金をもらえる死亡保険と,生きているときにお金をもらえる生存保険と,その組み合わせでできている生死混合型の保険があります。その保険の基本的なモデルと,じっさいに民間保険会社で販売されている保険の商品名を組み合わせたのが以下です。ほかにも保険商品はいっぱいいっぱいありますが,ややこしいのでばっさりいきます。イメージできますか?
- 死亡保険(保険の種類・モデル)
定期保険(商品名)
終身保険 - 生存保険
個人年金保険 - 生死混合型保険
養老保険
そして,いま問題になっているのは生命保険と相続一般の関係ですから,死亡保険のみ考えればよいです。死亡保険には,定期,終身,養老とありますが,商品名は一切無視して結構。人の死亡を保険事故として保険金をもらえる保険なら何でもいいので,そのことだけお話していきます。
以降,「人が死んだらお金がもらえる保険」のことを話します。
生命保険(死亡保険)の登場人物・関係者
ここは大事です。死亡保険の登場人物を押さえてください。3名(三者)登場します。
- 契約者=保険会社と契約して保険金を支払っている人
- 被保険者=保険事故の対象となって保険をかけられている人
- 受取人=保険金を受け取ることができる人
ここまでよいしょうか。ここは大変大事なので必ず押さえてください。登場人物は三者,保険契約者,被保険者及び保険金の受取人です。
生命保険(死亡保険)と遺産相続の関係は,二つに分けて考える!
さて,生命保険(死亡保険)と遺産相続の関係がややこしいのは,法律の問題と,税金の問題(税金も税法という法律ですが,,)がごっちゃになって語られるからです。
法律の問題というのは,民法上の権利義務の問題。つまり,何が相続財産で,誰が相続人となり,法定相続分はどうで,どうやって遺産分割をするのか,,とかいうあれです。要は,遺産相続に関する権利や義務がどうなるのかという問題です。
もう一つは税金の問題です。相続税ですね。相続税を考えるうえで生命保険は課税対象にになるのかとか,非課税枠はあるのかとか,そういうこと。
権利義務の問題と相続税の問題。これを分けて考えることが大事です。民法と問題と税法の問題。このように明確に分けて考えていきます。一旦分けて考えたうえで,その関係性や取扱いの相違点を整理するのです。
生命保険(死亡保険)と民法(相続の権利と義務)の関係
考えないといけない保険契約を限定する
契約者が誰で,被保険者が誰で,受取人は誰で,そしてその組み合わせは何通りで,,,など考えていると混乱します。
まず最初に押さえるのは,契約者=被相続人の契約であること
保険契約者が保険料を払って契約をし,その結果として保険金というお金がもらえるから相続財産かどうか問題になるのであって,亡くなった人が契約者ではない保険はまず議論の対象になりません。なので,以降は,契約者=被相続人(亡くなった人)という括りでパターンを考えていきます。保険料を支払って保険契約をしている契約者が死亡してこそ遺産相続や相続税との関係が問題になるからです。
確認。契約者=被相続人ではない場合の保険金は全部相続財産ではない
重要なのでもう一度。死亡した人がお金を払ってない死亡保険金は,その全部が,相続とは関係ありません。
では,契約者=被相続人の括りで話を進めます。
亡くなった人が「契約者」のみになっている
契約者が死んだら,その保険契約者としての地位が相続されます。保険は解約したら解約返戻金をもらえるはずなので,その解約金返戻金の請求権が相続されると考えてください。保険契約者としての地位は,別名,「生命保険契約に関する権利」と呼ばれます。
亡くなった人が「契約者」と「被保険者」になっている
生命保険契約に関すする権利の相続問題
契約者=被保険者の場合は,被保険者の死亡という保険事故によって保険契約は終了に向かうので,生命保険契約に関する権利はもはや存在せず,相続財産になりません。
死亡保険金の相続問題
- 受取人が「特定の人」に指定されている=死亡保険金は,相続財産になりません(保険契約によって特定の人が取得します)
- 受取人が「相続人」と指定されている=死亡保険金は,相続財産になりません(保険契約によって法定相続人が取得します。取得割合は法定相続分に従います)
- 受取人が「被保険者本人」と指定されている=死亡保険金は,相続財産になります
- 受取人が指定されていない=死亡保険金は,相続財産になりませません(保険約款に決まりがあればそれに従い,決まりがなければ保険法の規定により相続人が取得します)
繰り返します。死亡保険金が民法上の相続財産になるのは次の場合です。
- 受取人が「被保険者本人」と指定されている場合
なお,死亡保険金が相続財産になったら,他の遺産と同じように,死亡保険金(請求権)も遺産分割(遺産分け)の対象になります。
ちなみに,亡くなった人が「受取人」のみになっている場合は,,,
受取人が死亡した場合に,受取人としての地位(将来被保険者が死亡したときに死亡保険金を請求する権利)が相続されるかどうか問題になります。受取人としての地位は相続財産か。これは次のとおり考えます。
- 保険契約約款で決まっていればそのとおりになるので相続財産にならない
- 保険契約約款で決まっていなけければ保険法46条により処理されるので相続財産にならない
保険法
(保険金受取人の死亡)
第46条 保険金受取人が保険事故の発生前に死亡したときは、その相続人の全員が保険金受取人となる。
つまり,受取人の法定相続人が頭割りで保険金を受け取ります。法定相続分の割合ではなく頭割りでです。民法上の法定相続の規定よって受け取るのではなく,保険法の規定によって受け取るのであるが,その受取人を選定する基準に民法上の概念である法定相続人を用いているだけです。よって法定相続分は関係ありません。
もっとも,受取人の死亡後,契約者と保険会社と間で,早期に受取人の指定をし直すのが望ましいです。
生命保険(死亡保険)と税法(相続税)の関係
相続税の課税対象になるかどうか
以上,生命保険契約にかかわる権利義務が民法上の相続財産になるのかならないのかを確認しました。これがそのまま相続税の課税対象財産になる,そしてならない,ということに直結していればいいのですが,そうではありません。民法上の相続財産になるか否かということと,相続税法の課税対象財産になるかどうかということは違います。民法上の相続財産=相続税の課税対象財産 及び 民法上相続財産ではない=相続税の課税対象ではない,ということにはならないのです。
ややこしいようですが,実は簡単です。以下,両方とも,相続税の課税財産になります。
- 生命保険契約に関する権利
- 死亡保険金
※もちろん,ここでも,契約者=被相続人の生命保険に限られることに注意する!
理屈は次のとおり。
生命保険契約に関する権利
これは民法上の相続財産なので,問題なく相続税の課税財産になる。
(相続税の課税財産の範囲)
相続税法2条 第一条の三第一項第一号又は第二号の規定に該当する者については、その者が相続又は遺贈により取得した財産の全部に対し、相続税を課する。
死亡保険金
◎民法上の相続財産になるもの
問題なく相続税の課税財産になる。
◎民法上の相続財産にならないもの
「みなし相続財産」として,相続税の課税財産になる。
(相続又は遺贈により取得したものとみなす場合)
相続税法3条 次の各号のいずれかに該当する場合においては、当該各号に掲げる者が、当該各号に掲げる財産を相続又は遺贈により取得したものとみなす。この場合において、その者が相続人(相続を放棄した者及び相続権を失つた者を含まない。第十五条、第十六条、第十九条の二第一項、第十九条の三第一項、第十九条の四第一項及び第六十三条の場合並びに「第十九条第二項に規定する相続人の数」という場合を除き、以下同じ。)であるときは当該財産を相続により取得したものとみなし、その者が相続人以外の者であるときは当該財産を遺贈により取得したものとみなす。
一 被相続人の死亡により相続人その他の者が生命保険契約(保険業法(平成七年法律第百五号)第二条第三項(定義)に規定する生命保険会社と締結した保険契約(これに類する共済に係る契約を含む。以下同じ。)その他の政令で定める契約をいう。以下同じ。)の保険金(共済金を含む。以下同じ。)又は損害保険契約(同条第四項に規定する損害保険会社と締結した保険契約その他の政令で定める契約をいう。以下同じ。)の保険金(偶然な事故に基因する死亡に伴い支払われるものに限る。)を取得した場合においては、当該保険金受取人(共済金受取人を含む。以下同じ。)について、当該保険金(次号に掲げる給与及び第五号又は第六号に掲げる権利に該当するものを除く。)のうち被相続人が負担した保険料(共済掛金を含む。以下同じ。)の金額の当該契約に係る保険料で被相続人の死亡の時までに払い込まれたものの全額に対する割合に相当する部分
みなし相続財産とは???
民法上は遺産相続ではなく契約等によって取得したものや,相続開始時に被相続人が所有していなかった財産でも,相続税法における課税財産として取り扱いをする,つまり相続税法上は相続財産・遺贈財産とみなされるもののことです。これらのみなし相続財産は,相続税法上,相続人が受け取った場合は相続によって,相続人以外の人が受け取った場合は遺贈によって取得したものとみなされます。
- 生命保険金等(被相続人が保険料を負担し,その死亡によって相続人等が取得するもの)
- 死亡退職金等(死亡後3年内に権利が確定したもの)
- 定期金に関する権利(被相続人が掛金を負担し,被相続人以外の者が契約者であるもの・相続開始時までに給付事由が発生していないもの)
- 相続開始前3年以内に、被相続人から暦年課税にかかる贈与を受けた財産
- 生前に、被相続人から相続時精算課税にかかる贈与を受けた財産(相続時精算課税適用財産)
ちなみに,「所得税や住民税」の課税対象になる死亡保険金
次のような契約にもとづく死亡保険金は,所得税等の課税対象になります。Bは契約者ではないのでBの相続財産になる余地はありません(AがBの法定相続人であったとしても)。Aは自分で保険金を払って自分で死亡保険金を受け取ったので,死亡保険金はAの所得になります。
- 契約者=A
- 被保険者=B
- 受取人=A
さらに,「贈与税」の課税対象になる死亡保険金
次のような契約の場合は,贈与税の課税対象になります。Bは契約者ではないのでBの相続財産になる余地はありません(CがBの法定相続人であったとしても)。Cは保険料を支払わずして,死亡保険金を受け取ったので,AからCに死亡保険金の贈与があったことになります。よってCには贈与税が課税されます。
- 契約者=A
- 被保険者=B
- 受取人=C
生命保険の非課税枠を利用できるかどうか
そしてもう一段ややこしいのは,死亡保険金が相続税の課税対象になるかということと,課税対象になった死亡保険金について相続税の非課税枠の適用を受けられるかということは,これまた別問題であることです。
死亡保険金に相続税の非課税枠が適用されるのは次の場合だけです。
- 契約者=被相続人
- 被保険者=被相続人
- 受取人=相続人
生命保険金(死亡保険金)の非課税枠とは?
被相続人の死亡によって取得した生命保険金や損害保険金で、その保険料の全部又は一部を被相続人が負担していたものは、相続税の課税対象となります。この死亡保険金の受取人が相続人(相続を放棄した人や相続権を失った人は含まれません。)である場合、全ての相続人が受け取った保険金の合計額が次の算式によって計算した非課税限度額を超えるとき、その超える部分が相続税の課税対象になります。
500万円 × 法定相続人の数 = 非課税限度額
なお、相続人以外の人が取得した死亡保険金には非課税の適用はありません。
国税庁WEBより
まとめ
生命保険(死亡保険)と遺産相続の関係を理解するには次のとおり問題をはっきり切り分けることです。
- 生命保険の登場人物三者とは何か
- 生命保険と民法の関係はどうなっているか
- 生命保険と相続税法の関係はどうなっているか
- 生命保険金が相続税の非課税枠の適用を受けられるものかどうか
こちらでは遺産分割協議(書)の具体的なやり方や作り方を全部説明します!
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