「節税」
節税とは節税対策のこと。ここでは特に,相続税の節税対策のこと。相続税の節税対策をして,相続税を支払わなくてよくしたり,相続税の支払負担を軽減しようとすることですね。このページを見られたあなたは,両親の遺産相続を将来に控えて,うちも「節税対策が必要なんじゃないか?」と考えておられるのかもしれません。
さて,今日のこの記事のタイトルは,「節税のスタート!親の財産を把握するのが一番大切である理由」となっています。読んで字のごとく,相続税の節税対策のスタートを切るには,親の財産を把握するのが肝心だということです。今日は,その理由について,簡単に説明してみます
まずもって節税対策とは何か
節税対策には大きく分けて二つの方法があります。それはすなわち,以下の二つです。
- 相続税の課税財産を減らすこと
- 相続税の基礎控除額を増やすこと
うち,より重要で,対策のし甲斐があるのが,相続税の課税財産を減らすことです。これには次のような方法があります。
- 法定相続人や孫に生前贈与する
- 生命保険契約をして保険料を支払う(生命保険金の非課税枠を活用)
- キャッシュを不動産にかえて計算上の財産的価値(相続税評価)を下げる
- 生前にお墓を買う(祭祀財産は相続税の非課税財産)
などなど
親の財産を把握するのが一番大切である理由
親,両親の相続税の課税財産を減らしていくのが節税対策の中心になることが分かったところで,今日の本題に入ります。親の財産を把握するのが,なぜその節税対策,すなわち両親の課税財産を減らしていくために重要なのかということについてです。
相続税が試算できないから
これは当たり前の話ですが,親の財産がいくらあるのか把握しないと,相続税がかかるのかかからないのか皆目判断がつきません。相続税は,相続又は遺贈によって取得した財産をベースに課税される資産税だから,相続・遺贈される財産が分からないと相続税だって計算できるわけがないからです。
また親の財産の種類や内容を特定することも大事です。財産の種類と内容を特定することによって,その財産は,いったいどれほどの財産的価値があるのか調べることができ,相続税の試算に役立つからです。この財産的価値というのはあくまで相続税の計算上の財産的価値です。一般に「おいくら?」というのとは,基本的には別です。相続税を計算するための財産の評価は,財務省が決めている財産評価基本通達にもとづいて算定します。親の財産を把握し,その種類と内容が分かれば,この財産評価基本通達によって相続税評価できます。
どの程度対策すればいいかわからないから
以上のとおり,親の財産が分からないと,相続税の試算がまったくできず,したがって節税対策ができないと言いました。さらには,親の財産の種類や内容等,その詳細が分からなければ,いったいどの程度の節税対策が必要なのかも分かりません。つまり節税対策が必要か否かのみならず,仮に必要であるとして,そのレベルはいかほどかという検討もできないのです。親の財産を把握することは,節税対策の必要か否か,そして節税対策の程度や内容の検討に大きな影響を及ぼします。
節税対策のための贈与契約等の法律行為ができないから(準備できないから)
親の財産がいったいどんな種類や内容であるのか,そのことが分からないと,節税対策の具体的手続に進めません。例えば,親の財産の生前贈与による節税対策を検討するとします。生前贈与は民法上の贈与契約という法律行為です。贈与契約をするには,「何を」贈与するのか,という物件の特定が必要です。親の財産が分からないと,この贈与契約の内容を確定できないので,当然節税対策が進みません。
さらに,親の財産の生前贈与を受けたら,その契約行為をきちんと贈与契約書にするほか,財産ごとに,ちゃんと対抗要件を具備するための手続きをしなければいけません。贈与契約によって親からあなたに財産権が移ったことを,第三者に主張できるようにしておかないといけないのです。不動産であれば,不動産登記法という法律にもとづき,法務局という役所に,登記申請行為を行いますが,その手続きの仕方や必要書類は法律等で厳格に決まっています。ちゃんと準備して申請しないと手続きできません。とすれば,親の財産の種類と内容をきっちりつかまないことには,その役所等で行う対抗要件を具備するための法律手続きが準備できません。財産の内容によってやるべことが異なるので,財産内容が分からないと,手続きを調べたり,準備行為をしたりすることもできないからです。
優先すべき生前贈与が判断できないから
節税対策のメインは親からあなたへの生前贈与です。親からあなたに生前贈与をして,親が亡くなったとき,相続税の課税財産となる財産を減らしていくことが大切です。ただ,何でもかんでも生前贈与すればいいものではありません。贈与税のことも考えないといけないし,また節税対策に効率的な贈与の順番というのもあります。
例えば,キャッシュがあって,要件に合致れば,以下のような贈与税の特例や非課税制度をちゃんと使うのが重要です。
- 夫婦間贈与(夫婦の間で居住用の不動産を贈与したときの配偶者控除)
- 住宅取得資金贈与(直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の非課税)
- 教育資金贈与(直系尊属から教育資金の一括贈与を受けた場合の非課税)
- 結婚・子育資金贈与(直系尊属から結婚・子育て資金の一括贈与を受けた場合の非課税)
また,以下のようなルールをもって生前贈与すれば,相続税の課税財産の増加を予防できて効率的です。
- 値上がりしそうな財産を先に生前贈与する
- 収益不動産を先に生前贈与して家賃収入の入金先を変える
すなわち,親の財産の種類や内容を把握することにより,節税対策としての生前贈与をどこからどのようにスタートするのかを検討できます。親の財産が分からなければ,節税対策は非常に非効率になる可能性があります。
不動産の名義が違うと大変だから
親のものだと思っていた不動産の登記簿を調べてみたら,まだ先代等(祖父等)の名義になっていて,兄弟間の遺産分割協議が済んでいなかったり,あやふやになっていることがあります。こういうことがあるとやっかいです。早く相続人を確定して,遺産分割をしておかないといけません。揉めたら調停等になって長期戦です。
親のものだと思っていた不動産。実は全部が親のものではなかったってこともあります。そうなると,親の財産額は大きく変わり,節税対策を根本的に考え直さねばならないかもしれません。なので,親が不動産を持っていたら,ちゃんと登記簿謄本等をとって権利関係を調べ,誰の所有物なのか,はっきりとしておくことが重要です。むしろ,節税対策よりもそちらが先です。
へそくり口座は危険だから
親がもしものときにと思ってへそくり口座を持っているとします。もしものときの口座なので,親はこの口座のお金の出し入れなどをいっさいしていなかったとします。こういう長期間放置されている金融機関口座のことを「休眠口座」といいます。
そもそも,法律上,銀行預金は,親が銀行にお金を貸している預金債権だとされています。親が銀行にお金を貸していて,弁済の請求をすればいつでも引き出しという形で返してもらえるのが普通預金という貸付債権です。普通預金は貸付債権なので,それを放置しておくと,金融機関の法的性質によって,5年とか10年とかの消滅時効にかかります。なので,その期間経過後に,銀行が債権の消滅時効を援用して,「お金は返さない」「俺のものにする」と言えば,こちらは何も言えないわけです(普通銀行はそんなこと言いませんが)。
さて,親が亡くなると,このへそくり口座の存在を,あなたなど相続人に通知してくれると思いますか?そんな制度はありません。なので,へそくり口座の存在を聞いておかないと,節税対策はおろか,相続税の申告から漏らしてしまう危険性もあるんです。
また,最近は,この休眠口座にたまっているお金がとんでもない金額になってきて,年々増えているので,政府がこれを没収して財源として活用しよう,などという話があります。このことの是非はともかく,そのうち銀行が消滅時効を援用して親のお金を政府に回す,などということもないとはいえない昨今の事情です。
ということで,へそくり口座をそのままにするとよくないですから,節税対策をする際は,そんな銀行口座が眠っていないかどうか親から十分に聞き取りをしてください(親は隠しているかも?)。
子供(あなた)から節税対策を提案できないから
まとめになりますが,以上の内容を読まれてどう思われたでしょうか。節税対策もそうだが,その他にも親の財産を把握するメリットはありそうです。いや,ある程度親の財産を把握しておくのは必須とも言えるでしょう。
そうしておかねれば,あなたがいろいろ財産のこと,法律のこと,税金のことを調べても,あなたから何も親に具体的な提案ができないでしょう。あなたから,積極的に有効な提案をするために,まずは親の財産を把握することが大切でしょう。
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