両親などの遺言者が遺言書を書いてくれたが,「財産を相続させる代わりに○○してください」とか「財産を相続する条件として○○すること」とか書かれていた場合にどう考えたらいいのか,どうしたらいいのか判断に困る場合があります。
遺言書の文言を抜粋して,具体例を挙げてみます。
- 喪主として一般的な葬儀をしてくれることを条件に,預貯金を長男に相続させる。
- 今後も先祖の土地を守っていく代わりに,不動産の全部を長男に相続させる。
- 全財産を長男に相続させるが,お母さんの面倒を見ることを条件とする。
負担付・条件付遺贈(遺言)
こういった内容の遺言を,負担付遺贈(遺言)とか条件付遺贈(遺言)と呼びます。遺言者としては,ちゃんとやることをやってくれるなら財産をあげます,とそういう意味です。言いたいことはよく分かりますよね?もうちょっと堅苦しくいうと,「受遺者に対して一定の法律上の義務を課した遺贈(遺言)」のように定義できます。
受遺者の法的な責任と義務
負担付・条件付の遺言については,法律がいくつか規定を置いて,取扱いを定めています。代表的なものを見ておきます。
(負担付遺贈)
民法1002条 負担付遺贈を受けた者は、遺贈の目的の価額を超えない限度においてのみ、負担した義務を履行する責任を負う。
2 受遺者が遺贈の放棄をしたときは、負担の利益を受けるべき者は、自ら受遺者となることができる。ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。
受遺者であるあなたは,もらった財産の価値よりも多くの負担をする必要はないよ,という条文です。あくまで負担を財産評価したうえでです。まあそれはそうですよね。もらう財産より多くの義務を押しつけられたのではたまりません。
受遺者が責任を果たさないとどうなるか
(負担付遺贈に係る遺言の取消し)
民法1027条 負担付遺贈を受けた者がその負担した義務を履行しないときは、相続人は、相当の期間を定めてその履行の催告をすることができる。この場合において、その期間内に履行がないときは、その負担付遺贈に係る遺言の取消しを家庭裁判所に請求することができる。
この条文は重要です。あなたが財産だけもらっておいて,負担の部分を行わないときは,他の相続人や遺言執行者は,「財産もらったんだから,ちゃんと,年月日に負担もやってよね」と催促できます。その期限までに負担を履行しなかったら,それらの者から,遺言の取消しを家庭裁判所に請求される可能性があります。
「あなた先祖の土地守っていかないといけないんでしょ?親の遺言書に書いてあったよ?収益マンションばっかり管理して,先祖の土地は荒れ放題じゃない!それどころか不動産屋さんに売却依頼までしてるそうじゃない!!年月日までに草刈りをして,不動産屋さんとの媒介契約を解除しなさいよ!そうじゃないと遺言の取消しを家庭裁判所に申し立てるから!!」
と,もしあなたが他の相続人から催告されたら?
ちゃんと先祖の土地を守らないといけないですね。遺言に付けられた負担や条件は「お願い事項」ではなくて「法律上の義務」です。あくまで財産を相続することとセットです。いいとこ取りはできません。
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