父親が死んで家の片付けをしていたら,テレビボードの中から1通,タンスの中から1通,全部で2通の自筆証書遺言が出てきました。両方父親が書いたものに間違いありません。確かに父親の自書したものです。日付も氏名も印鑑も押してあって,自筆証書遺言として無効になるようなところはありません。大変なことに,この遺言書の内容が全然違うものでして,兄弟の相続する遺産がまったく違っているんです。まるであべこべで。悪いことに私達兄弟は兄弟仲が悪くて,どっちも俺が預貯金をもらうと言って譲りません。私もそのほうが都合がよくて,,,遺言書が2通ある場合,どっちが父親の遺言書になるんですか?話合いで決めるんですか?家庭裁判所が決めるんですか?それとも両方無効になっちゃうんでしょうか?
これは簡単です。次のように考えてください。
- 作成日付の新しい遺言書が有効になります。
- 2通の遺言書の内容に齟齬があれば,齟齬している部分は新しい遺言書で古い遺言書を撤回したことになります。重なっていない部分は古い遺言書のままです。今回は内容があべこべでまったく違うらしいので,新しい遺言書のみが有効になるでしょう(古いほうの遺言書は撤回されて無効)。
この点,法律にはこのように書かれています。
(前の遺言と後の遺言との抵触等)
民法1023条 前の遺言が後の遺言と抵触するときは、その抵触する部分については、後の遺言で前の遺言を撤回したものとみなす。
2 前項の規定は、遺言が遺言後の生前処分その他の法律行為と抵触する場合について準用する。
さて,自筆証書遺言も公正証書遺言も,かならず遺言書には日付が書かれます。この日付が非常に大切でして,この事例のように遺言書が複数出てきたときに,どちらが有効かを決める決定打になるんですね。
なお,教科書事例(じっさいにはあまりないケース)ではありますが,同一日付の遺言書が二つ出てきて,内容が齟齬する場合どうするか?
2通の遺言書のどちらが先の時刻に書かれたか判明するようであれば,前記と同様に考えることができます。2通の遺言書のどちらが先に書かれたか明らかでないときは,受遺者で話合いをするしかないと思います。どちらも相続人であれば,事実上の遺産分割協議です。協議が決裂したら,これら遺言書は,遺言書としては,どちらも無効だと解さざるを得ないでしょう。
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