前々から遺言書を書いてくれと頼んでいたんだけど伸び伸びになっていて気が付いたら両親は認知症になってしまった。時折「遺言書を書くよ~」と言ってくれてるんだけど本心かどうかわからない。というより認知症になっているので遺言書を書いてもらっても有効になるのかよく分からない。認知症の両親に遺言書を書いてもらうことができるんでしょうか。
こういう相談を受けることがあります。
遺言の様式性
さて,死後に自分の財産の行方を決める遺言書は,要式行為と言って,民法という法律で決まっている厳格な方法にしたがって作らないと法的な効力がありません。つまり無効です。もう少し突っ込んでみると,遺言書たるものは,,,
- 遺言能力とは遺言書を書く(作成する)ことができる人はどんな人かという問題です。
- 一定の方式というのは,自分で書く自筆証書遺言や,公証人役場で作成する公正証書遺言という遺言書の種類ごとに,なにをどうすればいいかという具体的な手順が決まっているそのことです。
- 遺言事項というのは,遺言書に書いて法的効力が認められる事項のことです。遺言書には何でも書けますが,そのうち法的効力が認められるのは,「遺言書に書くと法的効力があるよ」と法律に書いてあることだけです。
少し脱線しました。明らかに認知症になってしまった両親は有効に遺言書を作成することができるか,両親に遺言書を書いてもらうことができるか,というのが主題でした。
遺言能力の問題
この問題,上に書いた遺言能力に関係ありそうです。では遺言能力とは何かということですが,一つは年齢制限です。遺言は一般の法律行為の例外として,未成年でも単独でできます。ただし満15歳以上であればですが。そう法律で決まっています。もう一つは,意思能力,判断能力の問題です。意思能力,判断能力とは,要は自分で何をやっているか分かる,自分のやったことの結果がどうなるか分かる,というような意味です。法律の世界は,自分の意思でやったことだから効力を生じさせ本人に責任を負わせてよい,という根本的な理屈でできあがっているので,意思能力,判断能力がない人は,遺言書を作成できません。
認知症の人の遺言能力に関する民法の規定
これに関する法律の規定を見てみます。
民法963条
遺言者は,遺言をする時においてその能力を有しなければならない。同966条
被後見人が,後見の計算の終了前に,後見人又はその配偶者若しくは直系卑属の利益となるべき遺言をしたときは,その遺言は,無効とする。
2 前項の規定は,直系血族,配偶者又は兄弟姉妹が後見人である場合には,適用しない。同973条
成年被後見人が事理を弁識する能力を一時回復した時において遺言をするには,医師二人以上の立会いがなければならない。
2 遺言に立ち会った医師は,遺言者が遺言をする時において精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く状態になかった旨を遺言書に付記して,これに署名し,印を押さなければならない。ただし,秘密証書による遺言書にあっては,その封紙にその旨を記載をし,署名し,印を押さなければならない。
認知症の親に遺言書を書いてもらえるか
ちょっとややこしいですね,,,まとめます。
家庭裁判所で後見開始の審判を受ける前
認知症にも程度があります。認知症の程度が軽く,両親に意思能力,判断能力が残っているようなら有効に遺言書を作成できます。ただし,認知症が進行して,遺言書を書いた時に意思能力や判断能力があったのか紛争になるようでは困ります。なので,間違いなく遺言書を書いた時に判断能力があったのだと証明できるような手段を講じておく必要があるでしょう。司法書士に相談するといいです。
家庭裁判所で後見開始の審判を受けて後見人がついているとき
認知症が進行して,家庭裁判所によって法定の成年後見人が選ばれて,後見人が両親の財産を管理しているようなケースにおいては,両親が判断能力を一時回復した時にだけ遺言書を書いてもらうことができます。ただし,主治医等お医者さん二名の立会いが必要です。どうしても必要なら,主治医に相談することになりますが,司法書士などの援助も必要でしょう。少々ハードルが高いです。
まとめ
このように,両親が認知症になっても,遺言書を書いてもらう方法はあります。絶対に遺言書を書いてもらうことができないわけではありません。ただし,後々紛争が生じる可能性もありますし,手続きも煩雑になりますので,遺言書は両親が元気なうちに書いてもらうのがいいですね。
「まだまだ元気だからそのうち」
と言われたら
「元気な時しか遺言書は書けないよ」
と伝えてみましょう。
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