お父さんが死んだ。遺言書があった。その遺言書,,,こういう内容だったらどうだ?
「私の遺産の全部を,愛田深子(愛人)さんに遺贈する」
とか
「私の遺産の全部を,次男に相続させる(ちなみにあなたは長男)」
何!!そんなことは許さない!!私は長男だし,法定相続人だし,法定相続分ってものがあるだろう。相続人は長男と次男の2名だけだから,当然遺産の半分は相続できると思っていたのに。こんなの違法だ!つまり無効だ!
愛人に遺産の全部を遺贈する遺言は無効か
それがいいことかそうではないかはともかくとして,遺言者がその遺産を相続人以外の愛人に全部遺贈する遺言書は原則として有効です。ただし,その遺贈が将来に向かって愛人関係を維持するためのものだったり,残された法定相続人の庇護の必要性が高かったりすると,総合判断により無効になります(公序良俗違反)。
相続人の1人に遺産の全部を相続させる遺言は無効か
遺言者がその遺産を法定相続人の1人に相続させる遺言は問題なく有効です。愛人に全部遺贈しても必ずしも無効にならないんだからこれは当然ですね。ちなみに,住宅は長男,預貯金は次男というふうに,遺産分け(遺産分割)の方法を指定する遺言書も有効です。俺は住宅が欲しかったのにといってもダメです。遺言書は有効。
遺言相続と法定相続の関係
いま見てきたことからわかるように,遺言相続(遺言書による相続)と法定相続の力関係は原則としてこうです。
遺言相続>法定相続
遺言相続が法定相続に優先します。法定相続という言葉からは,いかにもこちらが原則であって,それ以外は例外だというような印象を持ちますが,実はそうではありません。逆です。遺言相続のほうが優先です。被相続人が遺言書で遺産の引き継ぎについて定めていない場合に,はじめて民法の法定相続の規定が登場します。遺言書があれば基本そっちで。言葉は正確ではないですが,法定相続は補充的なものだと思ってください。
遺言相続が優先する理由
なぜだ?どうしてなんだ?よく理解できないな,,という方のためにもう少しだけ掘り下げて説明しておきます。
そもそも遺産相続って何のためにあるか
遺産相続や相続が何のためにあるのか。このことについてはいろんな説がありますが,およそこのように考えられます。
- 残された遺族の生活保障
- 国が遺産を把握・管理・手続して歳入に入れ,国民に再分配するのは手間だから
(再分配するとしても,亡くなった人に関係する人に分配するのが合理的だから)
残された遺族の生活保障っていうのなら,法定相続を優先してくれないと困るよ,,遺言書を優先する理由がないじゃないか,,と考えられそうですが,法律の理屈はこれだけではありません。
遺産の所有者であった「遺言者の意思」を優先する
遺言書や法定相続を定めているのは民法ですが,民法には,細かい理屈以前の大きな大きな理屈として,三つの大原則があります。この大原則にもとづいて細かい権利義務の規定が作られています。三つの大原則とは,,
- 権利能力平等の原則
- 私的自治(意思自治)の原則(→契約自由の原則,過失責任の原則)
- 所有権絶対の原則(→物権法定主義)
この三つ。それぞれもうちょっと咀嚼するとこうなります。
- 人間誰しも平等。身分等によって基本的な権利に差はない。ベースは平等だ。
- 自分のことは自分で決めて生きていける。自分が望んだときにだけ権利を有し義務を負うのだ。何も悪くないのに法的責任を負わされることなどない。自由に活動できる。
- 物の所有権は不可侵で理由なく国に侵されることがない。なので安心して取引して儲けたりできる。取引が活発になって経済が発展する。
話を進めます。いまは2の原則だけ見てください。相続や遺言のことを定めている民法は,私的自治の原則にもとづいて作られている。法律関係は自分の意思にもとづいて作っていけるという基本的な考え方にもとづいて作られているんです。
そもそも遺産というものは,人が死んだときにその人が所有していた財産的権利のことです。被相続人,亡くなった人,遺言をした人が所有していた財産権。私的自治の原則によれば,財産の所有者が,その財産をどう処分しようと自由ですよね?生前なら当然に自分の意思で財産を処分できます。この理屈が亡くなったときの財産処分にも当てはまります。亡くなったときに財産を処分する法律行為が遺言です。遺言書を書くというのは,遺産の所有者が,自分の意思で財産を処分することに他なりません。
つまり,,遺言書による相続も,法定相続も,民法が人の死亡による財産の承継について定めたルールですが,そのルールを作成するにあたって,私的自治の原則,意思自治の原則がやはり強く意識されている。なので,遺産の所有者が遺言書で自由に自分の財産を処分できるようにしている。ただし,先にも見たように,相続には遺族の生活保障といった面もあるから,そこはそこで最低限の調整をする(遺留分制度)。そういう法律の仕組みになっているのです。
財産の所有者が自分の意思で遺産を処分できる権利 > 一定の範囲の親族が故人の財産を引き継ぐ権利(財産を引き継げるだろうと期待する権利)
です。まあ,それはそうだろうという感じがします。
まとめ
「遺言は法律より優先する」というのは事実。
つまり,いま見てきたように,遺言相続が法定相続より優先するとうのが日本の法律(民法)の相続ルールなのです。
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