先週,シネ・リーブル梅田に,「ウルトラミラクルラブストーリー」を観に行きました。脚本,監督は,1978年生まれ(今年で31歳)の新人,横浜聡子さん。2006年の自主制作映画「ジャーマン+雨」で,第48回日本映画監督協会新人賞を受賞され,今回の「ウルトラミラクルラブストーリー」は,商業映画初作品となるのですが,主演が松山ケンイチさんでヒロインが麻生久美子さんという豪華メンバー!きっとすごい映画に違いない!と思って以前から興味を持っていました。しかし,上映されるのは全国でたった26スクリーンと,さすがに小規模でした。たぶんお客さんは,松山さんファンの若い女性が多いんだろうなと思うと,ちょっと恥ずかしかったので,いつも映画は1人で行くのですが,今回は友人を誘って2人で鑑賞してきました(以下,映画のネタがばれます)。
青森の田舎で,農業を営む変わり者の青年,陽人(ようじん)(松山ケンイチさん)。落ち着きがなく,子供のような行動をする彼は,キャベツに付いた青虫と日々格闘しています。そんなある日,東京から保育士の美しい女性,町子(麻生久美子さん)が引っ越してきました。町子が青森にやってきたのは,亡き彼氏のことについて,有名な占い師「三上のカミサマ」に話を聞いてもらうためでした。元彼の要(かなめ)は,浮気相手を車の助手席に乗せて運転中,事故で亡くなったのですが,その際に首が飛んでしまい(!),まだその首が見つかっていないため,町子は彼の死を受け止めきれておらず,また,要が自分のことを一体どう思っていたのか,それが知りたくてずっと悩んでいたのです。
かねしろ幼稚園に勤務することになった町子は,祖母と一緒に幼稚園に野菜を売りに来た陽人と出会います。町子に一目ぼれした陽人は,町子に猛アタックを開始,町子が嫌がってもお構いなしです。迷惑そうにする町子先生。騒動ばかり起こす陽人を見かねた陽人の祖母は,外出禁止令を出します。暇つぶしに,通りすがりの子供に手伝ってもらい,他人のキャベツ畑に首だけ出して埋まってみる陽人。子供はそばに置いてあった噴霧器で,農薬を畑一面に散布して帰っていってしまいました。陽人は畑に取り残されて,夜を迎えます。次に気が付くとそこはかかりつけの三沢医院のベッドの上でした。「静かじゃ」とつぶやく陽人。農薬を撒かれたことがきっかけで,どういうわけか性格が大人しくなった陽人は,次の日,幼稚園に行って,町子に今までの振る舞いを謝ります。「なんか陽人さん,人が変わったみたい」とびっくりする町子。陽人は,前よりも今の陽人の方がいいと言う町子先生に好かれるため,なんと,自ら農薬を浴びるというとんでもない行動を始めるのでした…。
セリフは全て津軽弁(町子だけは東京から来たので標準語),物語は田舎の風景の中で,すごくリアルな描写で始まるのですが,陽人が農薬を浴びてからは,話は一気に,絶対に有り得ないようなファンタジーな展開(まさにウルトラミラクルな状況)と変化していきます。私は意外とすんなり受け止めて鑑賞することができましたが,違和感を覚えて「どうして?」「意味が分からない」と拒否反応を起こしてしまう人も多くいるようで,この映画の感想はどうも賛否両論が激しいようです。
そんなふうに感想が分かれるのは,おそらく,ことごとく観客の予想を裏切っていく表現方法をとっているからなのだと思います。物語には,都会(東京)と田舎(青森),大人と子供,生と死,フィクションと現実,など,対比できる要素がたくさん出てくるにもかかわらず,これらを比較して描くのではなく,逆に,境界線を無くしてしまう描き方をしているのが,観客にとっては未知との遭遇で,付いていけなくなる人が出るのではないかと思いました。のんびりした田舎の風景に癒されるかな?と期待していると…,あれ?おばあちゃんは携帯電話を使っているし,国道は交通量が多く,道沿いには大きなホームセンターなどが立ち並んでいるではないですか。現代の田舎なのです(東京についてはテレビに映っているだけです)。主人公の陽人は,まさに大人と子供の間にいる存在です。医学的に見ると脳に障害があることになるのですが,監督は「病気が重要なポイントではなくて陽人の性質が重要」と,雑誌のインタビューでおっしゃっていました(ただ,子供のように原始的な性格でわがままに生きている人を描きたかったのだそうです)。変わった行動ばかりする陽人ですが,村の人々も町子も陽人のことを「病気の人」としてではなく,ありのままの存在で受け止めて接しています。また,陽人は農薬を浴び続けた影響で一度心臓が止まりますが,でもなぜか起き上がり(!)心臓が止まったままで,生きているのだけど死んでいるような,不思議な状態が何日間か続きます。さらに,その状態のときに,陽人は町子の元彼,要の亡霊と出会います。首のない要と普通に会話する陽人,ここまでなら陽人の夢なのかなあと解釈できますが,なんと陽人は,要から靴をもらうのです!要が去って行った後でも,陽人はちゃんと靴を履いているので,この部分に関しては確かに現実なのです。
このように,一見,どう解釈すればいいのか分からないアプローチをしてくる,斬新な作りの作品なのですが,監督は,決して観客に解釈を丸投げしていい加減に作っているのではなく,既成概念,思い込みの枠をはずすことで,本質的なことを追求する,そんな映画作りを目指しておられるのだと思います。
例えば,人と人との関係についてです。恋人とか,友達とか,人間関係を表す言葉はいろいろありますが,最後に陽人と町子との間には,どんな言葉でも形容できないような,暖かな関係が生まれます。私たちが通常考えている「ラブストーリー」ではないけれども,お互いかけがえのない存在となったことは確かなのです。心が通い合っている,信頼関係があるという意味で「両思い」なのではないでしょうか?そのように考えると,親子関係や,恋愛関係でも真に「両思い」でないかもしれませんし,反対に,ただの隣人であっても,「両思い」であることもあるのだ,と見ることができると,私は思いました。映画では,陽人,町子,陽人のおばあちゃんをはじめとする村の人々,幼稚園の子供たち…全ての人間関係がとても暖かく,全員が「両思い」の関係になっていると思いました。
衝撃のラストシーン(ぜひ,劇場でご確認ください!)に監督が込めた思いは「希望」だそうです。陽人が農薬を浴びていることを知った町子は,陽人に「そんなのに頼ったってしょうがないじゃない!」と言うのですが,町子も最初は元彼についての悩みを解決しようと,「三上のカミサマ」に頼ろうとしていました。そのトラウマが森に消えていって,爽快な気持ちに包まれる町子。客観的に見ると,悲しい出来事も起こっているのですが,それよりも,人の持つ生命力,人と人との心がぶつかり合って,化学反応のようなものを起こし,お互い変化していくエネルギー,そして何よりも,登場人物たちの「愛」を強く感じて,観終わってしばらくしてからじわじわと,幸福感が湧いてくる,とっても不思議な映画でした。賛否両論あれども,誰もが同じ解釈,感想を持つ映画ってつまらないと思います。人の心を動かして,10人が鑑賞すれば10通りの解釈が生まれる,そんなパワーのある映画を,横浜監督にはこれからも作り続けていっていただきたいと思いました。今後の作品がとても楽しみになってきました。
最後に…。客層は予想通り,若い女性ばっかりで(カップルも数組いました),友人と一緒で良かったです。さらに,彼女はまったく予備知識無しで鑑賞しましたが「風変わりだったけど,心が温まる,よい映画でした」という感想だったので,ダブルで良かったです(ホッ)。それから,俳優さんたちは全員,素晴らしい演技でした。現地でオーディションを行って採用したという子役のみんなも,演技が初めてとは思えない,いい味を出していました。



