
夏はビール。
この言葉は酒を飲むものにとっての真理だ。そうだ、と万人を頷かせる力を持っている。日本を見て回った外国人が、日本で夏場に一番飲まれる飲み物はビールであり、一番人気のある銘柄は「とりあえずビール」であるらしくほとんどの日本人はお店でまずこれを飲んでいる、なんて報告した笑い話があるが、それほどに夏にビールは売れ、飲まれ、楽しまれる。
日本のビールはほとんどピルスナーだ。お酒好きならピルスナーがビールの製造方法の一つであって、世界中、とりわけドイツやベルギーには他にもたくさんのビールがあるということを知っているが、その他大方のものは知らない。ピルスナーのあのすっきりとした苦味がビールを定義し尽くしている。
さて日本人の不思議なところはやたらと西欧人に劣等感や憧れを持つかと思えば、一方で盲目に日本の一部に世界一の名を与えて封蝋をすることで、日本の自動車に勝るものはないとか(これは一面的な事実である)、日本の先端科学は多くの分野で一番であるとか(これは全く事実誤認である)、少し考えたり実践をすればそれが有り得ないことがわかるような思い込みをする。事実と異なる悲観や、事実と異なる楽観が、そこらじゅうに溢れている。
この点日本のビールは世界一旨いと言っている人はそうそういないから、事情としては少し異なるのかもしれないが、ピルスナービール以外におよそよく飲まれるビールはないと信じきっているところはそういった事情に少し近いような気がする。ビールの発祥国でもないのに、ビールはこれしかないと信じきっているところ。積極的に本物を辿らないところ(ピルスナーはもちろん美味しいが)。
前置きはよし、さあ、今年は、ドイツビール、ヴァイスビール(ヴァイスビア、ヴァイス、ヴァイツェン、呼び方色々)で一夏中を乗り切ろうと思う。
少し残っているプレミアムモルツは基本的にはお休みにする。
私はドイツビールが好きだ。中でもヘーフェヴァイツェンが一番好きである。ここでビールのうん蓄を披露するほど詳しくはないが、ヘーフェとは酵母をろ過していないもののことであり、ヴァイツェン、ヴァイス、ヴァイスビアとは醸造方法等ビールの性質を規定する一番の大分類の名称で、上面発酵、小麦50パーセント以上使用等を要件とする白ビールのことである。
東京は知らないが、関西ではいたるところで各種ヴァイツェンを飲めるということにはなっていないので、好きではあっても特定の店に飲みに行った際のひそかな楽しみのレベルにとどまっていたところ、最近ネットで色々と手軽に注文できるようになっているのを知って思い切って数を頼んだ。インポートなので、またビールなので、商品によって賞味期限が読めずあまりまとめ買いもできないが、それでも一夏十分に酔い通せるだけの量である。
今回は、最近ミュンヘンで絶大な人気というフランツィスカーナー、森鴎外愛飲という物語つきのアンデックス、日本に著明なエルディンガー、渋いところでシュナイダーの四種類。すべてヘーフェヴァイツェン(後からホフブロイ、パウラーナー、ヴァイエンシュテファンも追加)。
早速自宅でゆっくり飲んでみるという初めての経験をしている。バナナフレーバー。フルーティー。やっぱりどれも美味しい。1リットルくらいはすぐに空けてしまうが、煙立ち上るごとくゆるやかに徐々に体全体を侵してゆく酔いのシステムは、どうもピルスナーと異なるように仕組まれているらしい。大量に買い込んだことは今まで無かったので、一夏通して飲み比べて、酔いの中にその確かな違いを見極めてみたい。
それにしてもお酒は楽しい。スコッチも、ヴァイツェンも、日本酒も。とはいえ私のような素人がこれを見極めようとあまり深入りすると危険である。蒸留所、醸造所、、、和洋の中世(時代、文化、思想等)にまで思いは飛んで、認識欲は喚起され、これらはどれも生理学的な酔いを超えて、毎日の現実生活に色を失わせる類の魅力を匂わせている。体の自愛は無論、社会生活的に酔わない自制心が大切である。
ところでお酒好きの友達へ。上記、少し買い込みすぎた嫌いがあるので、今ならうちでヴァイツェンが飲めます。フリーです。帰りはタクシー等の条件にて、宜しかったらどうぞ。




