私は司法書士である。司法書士であるから不動産の登記(名義変更)の仕事をする。不動産の登記の仕事をすると、一般の個人の方との仕事のほか、不動産屋と仕事をすることもある。すると不動産屋との付き合いもできてくる。ということで、友達の不動産屋が、本業と別途に経営するバーに昨年末から今年にかけてたまに飲みに行く。
不動産屋とバーはミスマッチだが、「不動産屋とお酒」と言い換えれば別に珍しくも何でもないので(少し失礼か、いや一定事実であるはずだ)、これはいい。
過日奈良市内のそのバーで飲んでいると、これまた常連らしい学生がマスターから茶色いお酒、すなわちウィスキーをすすめられて嬉しそうに飲んでいた。このあたりは近畿大学農学部の大学院があるのでおそらくそこの研究生らしく思われる。学生がウィスキーを飲んでいることや、夜遅くまで飲み歩いていることや、研究に全身全霊・全可処分時間を充当していないことについては人のことを言える立場にないのでこれまたいいとして、マスターとウィスキーのうん蓄を交わしたり、時には交戦したりするのが見物に飽きなかった。例えば蒸留所やスコットランドの風土などについて。農学の研究生は、やっぱりウィスキーへの興味も、麦芽や蒸留の仕組みの方面から分け入るのだろうか。
客の酒が回った。貰い酒をするマスターの酒も回る。係る夜更けに、明日京都大学で研究発表をするというその男が、おもむろにホールにノートパソコンを開いて予行演習を始めた。本人曰くにそれなりに際どいという大事な研究内容を、酒が必要以上に助けた弁舌と、全く必要のない大げさなアクションを伴って発表する。マスターにはわからない、農学に就いたことのない他のどの客にもわからないその研究の到達点が、しかしこの場にはどうしたってミスマッチで、決して妥当しないということだけは、研究者を除いた一同のうつろの表情がいかんともしがたく証明していた。
ただ、ミスマッチな肴もたまには悪くない。
そんな肴の将来もまた楽しみである。



