「忘れられる権利」とは何か?
今日はこれだけにポイントを絞って書きます。
「忘れられる権利」とは何かという問いに対する答え
「GoogleやYahoo!といった検索サイトの検索結果その他WEBサイトに表示された個人情報の削除を請求する権利」
と一応言うことができます。しかしそれがどういう権利かといった細かいことは,,
「わかりません」
以上が答えです。
どうしてそういうことを議論するのか
ネット社会の高度発展によって,プライバシー侵害など,個人情報が危険にさらされることが増えているから」です。また,被害の回復をするのが難しくなっているからです。
昔から,表現をすれば誰かを傷つける危険はありました。際どく鋭利な表現には,プライバシー侵害や名誉権侵害が付き物と言っていいくらいです。表現(言論,出版,報道)も大事,でも個人のプライバシー権も大事。よって裁判所はいろんな基準をつくって権利の調整をしていました。
表現の自由 VS プライバシー権
※表現の自由には「知る権利」も含まれます。情報の受け手としての権利です。いろんな情報を知ることは人間を賢くし民主主義社会発展の基礎を築きます。表現の自由は表現者だけの権利じゃありません。
しかしネットが発達すると状況がかわります。ネットは簡単に情報発信ができ,どんどん拡散し,記録がずっと残る特徴があります。ある情報が拡散してプライバシー侵害が起こると,この被害を回復するのが大変難しいです。簡単に情報発信ができるのでプライバシー侵害情報を発信段階で規制するのが難しいし,拡散スピードが速いので止められないし,いろんなWEBサイトに散らばった情報を一つずつ削除してもらうのは大変(不可能?)だからです。
ネット社会の発展によって,個人情報を守ることが難しくなった。従来の法的な枠組みでは被害を回復するのも難しくなった。よって何か別の仕組みでもってこの状況を改善しないといけない。そこででてきたのが「忘れられる権利」の議論です。
Googleなど検索サイトに特有の問題
世界中のWEBサイト
↓
Googleの検索結果
グーグルのロボット(コンピュータプログラム)が世界中のWEBサイトを巡回して情報を拾う。そして有益な情報から順番に検索結果に並ぶようする。検索サイトのサービスはこういうものです。検索エンジンで何か検索すると,検索結果の画面に移動し,関連するWEBサイトのタイトルとスニペット(WEBサイトから一部情報を転記したテキスト)そしてそのWEBサイトへのリンクが表示されます。
グーグルの検索結果の表示に個人情報が記載されていて,これを削除してほしい場合があります。もちろんリンク先(発信元)のWEBサイトが1番の問題でそっちはそっちで消してもらいたいんですが,みんな普通はグーグル検索をしてWEBサイトを見るけるので,グーグル検索の結果さえ消してもらえば世間に知られる危険はかなり減ります。それに情報がすでに何万,何十万というWEBサイトに拡散してしまっている場合がある。こんなとき,検索エンジンにひっかからないようにしてもらうのが1番の対策でしょう。とにかくグーグルの検索結果にあがらないようにと願うのが普通です。
しかしこのグーグルに対する請求はいままで認められませんでした。グーグルの言い分はこうです。
- 検索結果は公開情報をロボットが自動的に拾ったもの。グーグルのサーバーには情報がないから削除する義務はない。
- 情報自体は元のWEBサイトにあるんだから,まずそっちに削除依頼すべきでしょ。
- 明らかにヤバイ情報は我が社の削除ポリシーにもとづいて消してるから。そんなおかしなことやってないと思うよ。いや,依頼あったら全部消せなんていわれてもね。不法かどうか判断できないよ。対応する人も金も持ち合わせないし。
裁判所もそれを認めてきました。なのでこういう問題が残ります。
- グーグル検索の影響力こそ1番大きい。これを消さないと被害回復しない。
- 発信元のWEBマスターとあれこれやってる間にグーグル検索でみんなに知られちゃう。
さてこれを放置していいか?それとも法的(政策的)に何らかの対処をすべきか?
「忘れられる権利」を議論する価値がありそうです。
参考)
グーグルではないがYahoo!JAPANの考え方はこちらのページを読むと分かります。
WEBサイト一般の問題
今度は一般のWEBサイト(コンテンツプロバイダ)でも問題になること。
WEBサイトに掲載された情報でプライバシーを侵害されたら,従来からの法的な枠組みの中で解決できます。まず,掲載されているWEBサイトの管理者に削除の依頼をして,応じてくれなければ民事訴訟を提起します。プロバイダ責任制限法が施行されてやりやすくなったはず。WEB管理者に削除申請をすれば,以下にもとづいて対処してくれます。権利侵害が明らかなものであれば,民事訴訟までやらないですむはず。
ここまではいいのですが,,次のようなものはどうでしょう?
◎ WEBサイトに掲載された時点ではプライバシー権侵害・名誉毀損にはならないが,時の経過によって事実関係が変化し,いまとなっては正当性がなくなっていたり,これによって事実上報道された人の更生が妨げられていたり,場合によってはその人の人格権を侵害していると評価できるかもしれないもの
- 15年以上前に債務の支払不能によって所有不動産が競売になったという情報がネットに載っているが,その後債務を弁済して競売を止め,いまはそこに住んでいる場合
- 5年前に器物損壊(物を壊す)で逮捕された記事がニュースサイトのアーカイブに残っているが,いま更生しようと就職活動している場合
- 10年前に就寝中の人妻を強姦し懲役5年の実刑判決を受けた報道がWEB掲載されているが,刑期を終えてすっかり更生し婚活をしている場合
◎ 自分でアップしたのでプライバシー侵害ではないもの
- かなり前,若気の至りで,自分のヌード写真をネットにアップしてしまったが,いまになって激しく後悔している場合のそのヌード写真
これらは難しくないですか??ケースバイケースですかね,,
WEB空間に載った時点では正当な報道として適法だったり,自分でアップしたものだったりして文句がつけられなかったが,時間が経つとちょっと事情が変わりることがある。デジタル情報がずっと残るネットに独自の問題と言えそうです。こういうのは掲載当時適法なのでアップ時点で規制ができない。とすると,どんどん同じような情報が増えていくし,同じような問題が拡大していきますよね,,
上記の中には,こんな風に評価できるケースがありませんか?
- 本人にとって不利益,嫌だ
- 社会にとって需要がない
- もし需要があっても正当な需要とは言えない
EU司法裁判所は,以下のような情報は,削除されるべきと判断しています。こちらが参考になります。※「忘れられる権利」はEUで活発に議論され法律化が進行中。
「不適切,関連性がない,データ処理の目的との関連で過度,時間が経過して最新でない」
↓
そうであれば,こうすべきだと思いませんか?
- 削除されるべき
↓
しかし削除されるためには次のような社会的な条件が必要です。
- 削除される情報とされない情報の基準が明確になってること(どういう社会がいいかの議論を詰める)
- 安定した法的枠組み(手続き)
- 削除するためのネット会社の人的経済的コストを誰が負担するのか決まってること
これらが決まってないから,,
「忘れられる権利」の議論がやっぱり必要です。
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つづきにどうぞ
もうちょっと詳しい説明と,じっさいにネットの個人情報を削除してもらうにはどうしたらいいかについて書いています。
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