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必見!家業を遺産相続(後継ぎ)する人が絶対知っておくべきポイント

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事業をやっていた父親が亡くなって,今すぐ事業の引継ぎをしていかないといけない場合があります。また,事業をやっている父親がそろそろ弱ってきて,あなたがその後継ぎになる予定だということもあるでしょう。

さて,もう事業を引き継いだあなたは,これからどんな手続をしていったらいいか分かりますか?また,将来事業を相続する予定になっている人,近いうちに事業の跡継ぎに予定されている人が,気をつけておかないといけないこと,早めにやっておいたほうがいいことがどんなことか思いつきますか?

もしその答えがすぐに頭に思いつかなかったら,とりあえずここを読んでおいてください。これを読んでいただければ,あなたが事業を継いでいく場合に注意すべきポイントが分かります。注意すべきポイントが分かったら,それをまとめて司法書士に相談してください。

そうすることによって,家業を継いだと思ったら実は経営者が他人になっていた,などという失敗を防ぐことができます。

ところで,事業を引き継ぐといっても,その事業が会社法人組織になっているのか,個人事業になっているのかによって手続がまったく変わります。ですから,会社の場合と個人の場合とにわけて説明することにします。

では,会社からいきます。

 

 会社(法人)の場合

経営権を支配できるかに注意を!

父親=会社ではない

父親の事業が会社法人組織になっているときは,まず父親が会社に対してどういう立場にあるのかを正確に知っておかないといけません。会社というのは,個人とは切り離された別の組織で,父親=会社ではないのです。だから,父親が会社に対してどういう立場にあって,どういうふうにかかわりをもっているのか知る必要があるんです。

そもそも会社とは?

会社というのは個人とは別の人です。法律が人に似せて作った仕組みです。法律による人だから法人です。つまり経営上は,普通の人と,トヨタ自動車という会社法人は,同じような人として,同じレベルで取り扱います。独立しているんです。

なぜこういう仕組みがあるかというと,たくさんの人がお金を出し合って事業をするためです。たくさんの人がお金を出して,共同で会社のオーナーになります。オーナーが経営に詳しい役員を何人か選んでこの人たちに経営させるんです。そして商売をして,従業員に給料を払い,まだお金が余って儲かっていたら,オーナーに利益の配当をします。オーナーは喜びます。このオーナーのことを株主と呼びます。オーナーから選ばれた経営のプロを取締役といいます。取締役はオーナー自身の場合もあるし,まったく関係ない場合もあります。

さて,1人でお金を出したらオーナーは1人です。上場会社のようにたくさんの人がお金を出していたらオーナーもたくさんです。お金を出した割合で,オーナーの権利の強さが決まります。会社にとって重要なことはオーナー会議で決まります。たくさんお金をだしている人が強いわけです。このお金を出した割合とか,オーナーの地位のことを株式(株主)といいます。オーナー会議のことを株主総会といいます。

株主としての立場

家業というくらいですから,父親は会社の株式をもっている株主のはずです。まずは資料を見たり,税理士に聞いたりして,父親の株式の割合を調べましょう。80%とか,95%とかそいういう具合にです。ほかにも株主がいるのかいないのか,それぞれの割合を調べましょう。

役員(代表取締役)としての立場

家業の場合は,父親は,会社の株式を持っているだけではなく,きっと経営者である取締役になっていて,さらに会社を代表して行動できる代表取締役にもなっているはずです。会社の登記簿が家にあったら見てみましょう。無かったら法務局で登記簿を調べましょう。

経営権を支配せよ

いよいよ本題です。父親の持株の割合はどれくらいでしたか?父親は代表取締役になっていましたか?

父親の株式の持株割合 ○%
取締役や代表取締役になっているかどうか

さてこのうち,会社の経営者である取締役や代表取締役としての立場のほうは,とりあえず気にすることはありません。というのも,取締役や代表取締役の立場というのは引き継げないからです。取締役などというのは,会社のオーナー,つまり株主から選ばれて,会社と経営に関する委任契約をしているのですが,委任契約は取締役とか,会社とか,どっちかが死んだら契約が終了するんです。父親が取締役や代表取締役になっていても,死亡したらその立場も終わりなので,あとはそれを登記するだけです。

問題は株式のほうです。これは会社のオーナーとしての権利の問題です。とても重要です。このオーナーとしての地位である株式というのは,取引や相続の対象になるんです。生前に株式を人に譲渡することもできるし,亡くなったら相続人に相続されます。だから重要です。

なぜ重要なのかもっと詳しくいうと,それは,これから,誰がオーナーとして,会社に関する重要なことを決めていくのかに関わるからです。さっき父親が死んだら取締役とか代表取締役じゃなくなると言いました。だから,次に取締役や代表取締役になる人を決めていかないといけないのですが,これを決めるのもオーナーが集まったオーナー会議,つまり株主総会なんです。普段会社を経営するのは経営者である取締役ですが,会社にとって超重要なことは,全部株主総会が決めることになっているのです。

だからとにかく大事なことは,この株式の相続を誰がするかということです。家業を継ぐあなたは,できるだけこの株式の多くを相続するように遺産分け,つまり遺産分割協議をしなければいけないんです。家業を継ぎたければ,とにかく株式だけは多く相続することです。ほかは二の次です。

会社にとって超重要なことは株主総会で決まるといいました。超重要なことの中でも,優先順位があって,重要さによって,何割の賛成で決められるかが変わってきます。さっきの取締役を選んだり,辞めさせたりするのは,株主総会の過半数の賛成で決まります。だから,自分が絶対に役員になりたかったら,最低でも過半数を株式を相続しないといけないわけです。

株主総会で決めないといけないと法律で決まっていること(株主総会の決議事項)のうち,それぞれどれだけの割合の賛成がないと決められないのかを整理しておきます。あなたが相続する株式の割合を決めるときの参考にしてください。

普通決議) 株式の過半数が出席し,その株式の過半数の賛成で決める
役員の選任とか解任
剰余金の配当
株主総会で決めることのうち,以下の決議以外のこと全部

特別決議) 株式の過半数が主席し,その株式の2/3以上の賛成で決める
新株を発行する内容の決定
資本の減少
定款の変更
重要な事業の譲渡
事業の全部の賃貸
事情の全部の譲受
会社の解散
解散した会社の継続
吸収合併・会社分割・株式交換移転
など

特殊決議1) 株主の半数以上かつ株式の2/3以上の賛成で決める(出席要件なし)
定款を変更して公開会社から非公開会社にすること
吸収合併して公開会社から非公開会社にすること
株式交換して公開会社から非公開会社にすること
新設合併
など

特殊決議2) 総株主の半数以上かつ総株式の3/4以上の賛成で決める(同上)
株式を譲渡できない会社で,お金の分け方などについて株主を不平等に扱うこと

株主全員の同意がいる決議)
役員の法的責任の免除
組織変更
新設合併して持分会社にすること
など

※会社の法律(会社法)はややこしいのでかなり省略しています。細かいことは司法書士に相談してください。

経営権以外は考えなくていい

会社って,経営権以外のこともたくさんあるけど,それは大丈夫なのか?という声が聞こえてきました。例えばこのようなことです。

  • 事業用の財産(事務所・店舗・工場・機械設備・商品など)
  • 借入れなどの負債
  • 従業員との契約
  • その他のいろんな契約
  • 許認可権
  • 特許権・実用新案権・意匠権・商標権
  • 著作権

これらはとても重要なことばかりです。重要なことなのですが,それほど大事に考えることはありません。なぜでしょうか。

それは,これらのものは全部,会社の名義でしているからです。権利をもっているのは会社です。父親という個人ではありません。会社は,最初に説明したとおり,父親とは別の組織です。父親が亡くなっても,会社は無くなっていません。継続しています。家業を継いでから,会社代表者の登録変更などという手続的なことをやっていけばいいんです。分からなければ専門家に頼めばいいのです。

だからこそ,今あなたが考えないといけないのは,これらの権利を持っている会社の経営権を支配することなのです。会社の経営権を支配すれば,これらのことは全部会社といっしょに付いてきます。

税金などのこと

以上のとおり,家業が会社法人になっていたら,父親から引き継ぐのは株式だけだと説明しました。株式だけを引き継ぐのです。株式だけを引き継ぐことが分かったら,今度は税金などのお金の問題を考えておきましょう。

株式の評価

あなたは株式を引き継ぐので,株式の値段を計算しないといけません。生前に譲り受ける場合も,遺産分けの話合いをする場合も,いったい株式の値段,つまり価値はいくらなのかが分からないといろいろ計算ができないからです。株式の値段を出して,贈与税や相続税の計算をしたり,相続人と遺産分割の話合いをしたりします。

細かい値段の出し方は,財産評価基本通達というお国のお達しで決まっているんですが,だいたい次のような感じで計算します。参考にしてください。

上場株式
市場で取引されている値段で決めます。ただし,値段は毎日変わるので,相続税の計算では,次のうちの一番低い値段で決めます。
①評価する日の終値
②評価する月の終値の平均
③評価する月の前の月の終値の平均
④評価する月の前の前の月の終値の平均

気配相場のある株式(登録・店頭管理株や,公開準備中の株)
日本証券業協会の登録銘柄や店頭管理銘柄は,上場株式と同じやり方で。公開準備中の株式は,公開価格で決めます。

取引相場のない株式
遺産分けの話合いをする場合はだいたい次のように決めていけばいいです。ただし,相続税の計算をするときは,細かく厳密に会社を分類して,いろんな方式を組み合わせて評価します。
①ある程度大きくて儲かっている会社(お金があって,毎年儲かっていて,毎年株主に配当している会社)は,業種が似ている上場会社の株価を参考にして
②小さい会社は,決算書の純資産額を参考にして

小規模宅地等の特例

株式の値段を計算してみたら結構な評価になった。しかも,会社の店舗がある土地は父親の個人所有になっていて,これも結構な値段になっているらしい。株式と土地を全部足すと,かなりの相続税になって,とても支払えない。土地を取られてしまったら会社だってやっていけない。どうしたらいいのか悩んでいる,,

こういうケースがあります。こういうケースで会社や家業を継続していってもらうために,かなり相続税が軽減される制度が用意されています。

今のような会社の事業のために使われている父親の土地は,「特定同族会社事業用宅地」と呼ばれていて,ある程度の広さまでであれば,土地の値段を80%軽減して評価してもらえます。つまり財産の価値を二割にしてもらえるのです。そうすると,相続税の計算も大きく変わってきます。

土地の広さは400㎡までの部分であること,親族などが過半数の株式を持っていたこと,相続人が役員となって会社を継続していくことなどの決まりがありますが,これが使えれば,かなり有利ですので,早めに専門家に相談しておいてください。

事業承継税制

そのほかにも家業を引き継ぐときに税金が有利になる制度があります。それが「事業承継税制」と呼ばれるものです。

今度は不動産ではなくて,会社の株式についてです。株式に関する贈与税や相続税の納税が大幅に猶予されます。ただし,この制度を利用するには細かい要件を満たしていないといけません。また免除ではなくて猶予なので,要件を満たさなくなったら制度の適用が取消しになって,その時に猶予されていた税金を納めないといけません。詳しいことは専門家に相談してください。

 

個人事業の場合

事業用の財産や権利も全部相続手続がいる!

今度は家業が会社法人組織ではなくて,個人事業だった場合のことを説明します。話がまったく変わります。

個人事業の場合は,会社とは違って,父親=事業になります。もう少し詳しくいうと,事業に関するすべての財産,負債,権利とか義務は,父親という個人に引っ付いていたものなのです。

つまり,法律的には,事業用の財産であろうが,個人的な財産であろうが,すべて父親個人の遺産相続の問題として考えていかなければいけないということです。だから,すべての財産について,父親個人の遺産相続の手続をしていく必要があるんです。

次のような財産について,すべて相続手続をする必要があります。事業を引き継ぎながらこんなことを考えていくのは大変ですから,早めに専門家に相談しましょう。

  • 個人の財産
  • 事業用の財産(事務所・店舗・工場・機械設備・商品など)
  • 借入れなどの負債
  • 従業員との契約
  • その他のいろんな契約
  • 許認可権
  • 特許権・実用新案権・意匠権・商標権
  • 著作権

事業は引き継ぎできない??

少しややこしい話になりますが,個人事業の場合は,会社法人と違って,事業をしていくための別の組織がないので,「事業そのもの・事業自体」を一括して相続する手続はないと思ってください。

だから,事業を譲渡したり,相続したりするには,細々とした事業用の財産をすべて,一つずつ,後継者に引き継いでいく手続が必要になるんです。

遺産相続のときに,遺産分けの話合いがつかずに,事業用の財産が共有になると,普通は事業をスムーズに続けていくことができません。一つ一つの事業用の財産について,今後ずっと,事業をしていない相続人と使い方を決めていくなどということはできないからです。

つまり,家業をちゃんと継いで,事業を続けていくためには,家業を継ぐ人が,事業用の財産を全部1人で相続しないといけないんです。そうでないと,会社のところで説明したのと同じように,個人事業で経営権を支配することができないからです。

このように,個人事業では,事業自体をそのまま引き継ぐ仕組みはありません。家業を相続したときは,後継者が事業用の財産を全部1人で相続できるような遺産分割協議をしてください。

税金のこと

開業届など

今説明したように,事業そのものを引き継ぐという手続はありません。法律的には,事業を引き継いだ人が,新しく事業を始めたことになります。

だから,あなたが事業を引き継いだら,新しく個人事業を始めた人がしないといけない書類を関係各所に提出しないといけません。例えば次のような書類です。

税務署)

  • 個人事業の開業届
  • 所得税の青色申告承認申請書
  • 青色事業専従者給与に関する届出書
  • 所得税の棚卸資産の評価方法・減価償却資産の償却方法の届出書
  • 給与支払事務所等の開設・移転・廃止届出書
    など

※その他,都道府県税事務所,市町村,労働基準監督署,ハローワークなどにも書類を出します。

小規模宅地等の特例

個人事業の場合も,会社のところで説明した,事業用の土地の相続税の特例を受けることができます。事業を継続してもらうために,国が,事業に使われている土地の値段を低く計算してくれるものです。

個人事業のために使われている土地のことを,「特定事業用宅地」といいます。このような宅地は,400㎡まで,80%割引で評価することができます。土地の値段を二割で計算して,相続税を納めればいいのです。この制度を使えば,そもそも相続税がかからなくなる場合もありますから,大変有利です。

 

うまく家業を引き継ぐための対策

さてここまで説明してきて,事業を引き継いでいくために問題になることが分かっていただけたと思います。事業を引き継ぐというのは,やっぱり大変なことですね。トラブルになりそうなことがたくさんあります。

問題点は分かった,じゃあどうしたらいいのか,それこそが重要になります。そこで最後に,あなたが事業をスムーズに引き継いでいくためにおすすめできる対策を説明したいと思います。

とにかく法人化する

個人事業はそのまま引き継げないのでややこしいという説明をしました。だから,やっぱり,家業はある程度儲かっていたら,法人化しておくのが大事です。

しかしただ法人にしておいても芸がありません。先代が元気なうちに法人化するならば,将来の相続に備えて,あなたが経営権を支配するための仕組みを作っておきましょう。例えば次のようなことですが,会社の法律はかなり技術的なので,細かいことは司法書士に相談しましょう。

  • 会社を非公開会社(株式を他人に譲渡することを制限する)にしておく
  • 会社が株主の相続人から株式を買取れるようにしておく
  • オーナー会議(株主総会)で物が言えない株式(議決権制限株式)を発行しておく
  • オーナー会議(株主総会)で拒否権が使える株式(黄金株)を発行しておく
    など

生前贈与する

先代が元気なうちに,次のような財産を,あなたに生前贈与してもらいましょう。普通にやると贈与税がかかるので,相続税で清算する「相続時精算課税制度」を利用するのも一つの方法です。これによって,家業の支配権をあなたに移しておきます。

  • 会社の場合は,先代の持っている株式
  • 個人事業の場合は,事業用の財産のすべて

遺言する

先代が「自分の目の黒いうちは家業は譲らん」と言っているときは,先代が亡くなってからあなたが確実に家業の支配権を握れるように,次のものをあなたが相続する遺言書を作成してもらいましょう。トラブルを防止するために,公正証書がよいです。司法書士に相談しましょう。

  • 会社の場合は,先代の持っている株式
  • 個人事業の場合は,事業用の財産のすべて

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