相続大全集

遺産分け(遺産分割)したら絶対に書面化しなければならない理由

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お父さんが亡くなって,配偶者であるお母さんと,兄弟3人が相続人になりました。遺産は住宅と,預貯金と,株式でした。

相続人の取り分,つまり法定相続分はお母さんが3/6,兄弟3人がそれぞれ1/6ずつということが分かりました。ちょっと相続分とは違うことになるけど,遺産分けは相続分と違っても問題ないということを聞いたので,住宅はお母さんが,預貯金と株の半分以上を長男が,残りの半分を兄弟2人で分けることになりました。

この遺産分けの話合いは,ほとんど長男がし切ってしました。いろいろ細かい話もあったけど,まあまあ最終的にはみんなそれでいいということで,この前の寄り合いの時に話合いがついたように思います。今から話がぶり返すことはないと思っています。

奈良県北葛城郡王寺町の司法書士中尾哲也

さて,こんな場合に,話合いの結果を書類にまとめておかないといけないでしょうか。それともややこしいので,口約束だけで問題ないでしょうか。あなたの立場が長男だとしたら,又は兄弟のうちの1人だとしたらどうでしょうか。

答えは,あなたが誰の立場でも同じです。話合いの結果は,ちゃんと正式に書面にしておかなないといけません。これは絶対です。ではなぜ書面にしておかないといけないのか?それをここでは説明します。

 

そもそもどういう書面が必要か

まず,遺産分けのことを法律では,「遺産分割」といいます。遺産分割とは,相続分に合うように具体的な遺産の割り振りをすることですが,相続分と違うような割り振りをする話合いもでき,それも同じ遺産分割に変わりありません。

遺産分割はまず相続人全員の話合いでするのが普通です。全員でしないと無効です。今回もそうしましたはずです。この,遺産分けの遺産分割の話合いのことを,「遺産分割協議」といいます。そして,どんな遺産分割協議がまとまったかという結果を残しておくために作る書類のことを,「遺産分割協議書」といいます。

遺産分割協議書には,最低限書いておかないといけないことがあります。ある人が亡くなったことによる遺産相続の問題を相続人全員で話合った書類なので,その内容が漏れなく伝わるような項目を書かないといけません。

具体的には次のような項目です。

  • 亡くなった人の最後の本籍
  • 亡くなった人の最後の住所
  • 亡くなった人の氏名
  • 相続人全員で話合いをしたこと。
  • 誰が,どの財産を相続したかということ
  • 財産をちゃんと特定できる事柄(財産の種類,内容,数など)
  • 相続人全員の住所と氏名
  • 相続人全員の実印を押すこと
  • 相続人全員の印鑑証明書をひっつけておくこと

どうですか?準備できそうでしょうか。

ある人が亡くなって,その相続人の全員が話し合いをし,具体的にどういう遺産の相続をするのかを,財産をちゃんと特定できるように書くこと。そして,相続人全員が話し合いに参加していることを証明するために,全員の住所氏名を書いて,実印を押すこと。そして,その実印の印鑑証明書を用意していっしょにしておくこと。これをしてはじめて,正式な「遺産分割協議書」を準備したことになります。

相続人の全員で遺産分割協議がまとまったら,こういう書類を残しておかないといけません。それは必ずです。ではそれはなぜかを,次から説明していきます。

 

あとで揉めたときの証拠として

一つ目の理由は,あとでもめたときの証拠になるからです。これは,想像がつきやすい理由です。想像はつきやすいですが,その本当の意味を理解している人は少ないと思いますので,少し説明しておきます。

あとから,相続人の誰かが,「そんなことは言っていない」とか,「あの時はそう言ったが本当は納得してなかった。勘違いしていた。やっぱりこうしたい」とか,言い出すことがないとは限りません。もう一度話合いをしてまとまればいいですが,まったく折り合いがつかなくなって,話合いが決裂してしまうこともあります。こうなると,最終的な解決は,裁判所に持ち込まれることになります。

そのとき,遺産分割協議書がなかったらどうなるでしょうか。遺産分割協議がまとまったことを証明する書類がないので,おそらく,もう一度家庭裁判所遺産分割調停遺産分割審判をすることになるでしょう。つまり,せっかく遺産分割協議の話合いがまとまったのに,もう一度最初から遺産分割のし直しになる可能性が高くなります。

これに対して,遺産分割協議書があったらどうでしょうか。正式な遺産分割協議書があるんですから,今度は遺産分割協議のし直しではなくて,前にやった遺産分割協議が有効か,無効かというような問題なります。そして,遺産分割協議が無効だとしてやり直しをしたいのであれば,文句のある相続人の方が,積極的に行動しないといけません。その人の方が,前に作った遺産分割協議書に書いてある協議が成立していないことを認めてもらう手続をしないといけないのです。ここで問題になってくるのが,どっちの言い分が認めてもらいやすいかです。裁判になったら,どっちの言い分が正しいか,証拠によって判断されます。そして証拠のうち,私文書(遺産分割協議書も民間人同士が作った書類なので私文書です)については,民事訴訟法228条に次のように書いてあります。

「私文書は,本人又はその代理人の署名又は押印があるときは,真正に成立したものと推定する」

民事裁判に文書を証拠として出すには,まず最初に,文書が偽造などじゃなくて一応ちゃんと作られたことを証明しないといけません。ただしこれを証明するのは難しいので,推定の規定が置かれているのです。

本人が署名をしていれば偽造などじゃなくて本人が関与したと推定します。当然ですね。そして押印がある場合もそうだと書いてあります。ただし,この押印というのは,「本人の意思で」押印したものだと解釈されています。しかし本人の意思で押印したものと証明することもまた難しそうです。なので裁判所の判例は,「本人の印鑑」が押してあれば,「本人の意思で」押印したと「事実上推定」すると判断しました。

つまり,「本人の印鑑」が押されていれば,「本人の意思で」押したと「事実上推定」され,「本人の意思」で押されたのであれば,「真正に成立」したと「法律上推定」されるのです。これを二段の推定といいます。

実印というのは印鑑証明書が出ます。だから印影が合致すれば「本人の印鑑」で押されていることが明らかなのです。

さて遺産分割協議書には相続人全員が実印を押しているので,二段の推定によって,「真正に成立したもの」と推定されます。このことを,法律では,文書に「形式的証拠力」があると表現します。形式的証拠力がある場合,ほかに何か特別な事情(詐欺脅迫によって作られたとか)がなければ,裁判所はそのとおりの遺産分割協議があったとの心証を持つはずです。これを「実質的証拠力」といいます。ちゃんと作られた遺産分割協議書は,実質的証拠力も高いといえます。これを覆すのは相手の相続人にとっては大変なことです

遺産分割協議書を作っておけば証拠になるから安心だというのはこういう意味です。契約をしたら契約書を作成するのも同じ理屈です。法律的な約束をしたら,必ず書類を作って実印を押してもらいましょう。万が一のとき,これが大変役立つからです。

 

財産の相続手続をするときの必要書類として

もう一つの大きな理由は,そもそも遺産相続の手続を進めるのに遺産分割協議書が必要だからです。これは単純な理由ですが,一番大事な理由です。

遺産のうち,不動産の相続登記の手続は,法務局という国の役所でします。不動産という財産は重要な財産なので,名義変更の手続の仕方も法律などに書いてあり,そのとおりにしないと受け付けられません。長男だけが相続したように名義変更するには,そういうふに決まったことを証明するために遺産分割協議書を法務局に提出しないといけません。そうしないと手続できません。

預貯金は,銀行や郵便局で手続します。この手続も大変重要です。金融機関は,相続人の全員で話合いがついていることを証明するため,遺産分割協議書を出してくれと求めてきます。あとで紛争になって,金融機関がトラブルに巻き込まれるのを避けるためです。法律どおりに預貯金を相続しないで,誰かが多めに相続したりするときは,必ず遺産分割協議書を出さないと手続できません。

株式も同じです。証券会社や信託銀行で相続手続をしますが,こちらにも遺産分割協議書を出して,株式を誰が相続するのかを証明しないといけません。

このように,重要な財産の相続手続をするには,財産を扱っている場所ごとに,遺産分割協議書を出して相続人が誰かを証明いていきます。そうしないと手続できません。手続がまったくできないのです。遺産分割協議がいくらまとまったと口で言っても駄目です。求めごとにならないしなったらあなたが責任をとると言っても駄目です。役所や金融機関は,書面でしっかり証明しないと手続を受け付けてくれません。だから,遺産分割協議書を作るしかないのです。

仕方がない,作るしかないか,でも具体的にどう書いたらいいか分からないというのが普通でしょう。心配ありません。そういうときは司法書士に相談してください。ちなみに司法書士が不動産の相続登記や預貯金の解約といった相続手続のお手伝いするときは,遺産分割協議書は司法書士が作成します。遺産分割協議書の作成もセットになっているのが普通です。

奈良県北葛城郡王寺町の司法書中尾哲也の写真楕円形

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