相続大全集

相続税が払えないケースの対策と手続き

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奈良県北葛城郡王寺町の司法書士中尾哲也

相続又は遺贈によって相続税がかかる財産を相続した相続人は,申告期限内に相続税の申告と納税をしなければいけません。

相続税申告の準備(ステップ)と,期限(いつまでに)について説明します

しかし,相続税の納税(支払い)をしようにも,どうにも払えないケースがあります。相続税がかかるくらいの財産を相続しておいて変な話ですが,そういうことがあるのです。

 

相続税が払えないケース

例えば次のようなケースが考えられます。

相続財産が不動産ばっかりで,預貯金等の金融資産が少ない又はほとんどない

故人が商業地や一等地の不動産ばかり持っていて,納税資金対策を十分にしてくれていない場合,遺産に現預金や金融商品が少ないかほとんどない場合があります。

確かに莫大な相続税評価の不動産を相続したが,その分相続税の税額も大きくなる。不動産はたくさんあるが,相続税は現金で支払わないといけない。少なくともすぐに市場で換金できる金融商品等がないと,とても相続税を支払えそうにない。バカみたいな話ですが,1番多いのはこのパターンです。

共同相続人の遺産分割協議がまとまらない

遺産分割協議が決着しないと銀行口座が凍結されたまま出金できない

共同相続人の遺産分割ができないと銀行口座の凍結が解けません。したがって口座の解約払戻しができず,現金が準備できません。現金が出せないと相続税が支払えない,とそういうわけです。

金融機関によっては法定相続分のみの引出しを認めるところもありましたが,最近最高裁の判決が出て,「銀行預金が遺産分割の対象になる」ことがはっきりしましたので,今後は法定相続分の引出しは不可となるはずです。

遺産分割協議のやり方と遺産分割協議書の作り方

預貯金の相続手続きをして解約払戻しする(遺産整理業務)

遺産分割協議が決着しないと相続登記できないから不動産が売れない

とりあえず売れそうな不動産を売ってしまって納税資金を確保しようにも,遺産分割が終わってないと相続登記ができません。相続登記ができないと買主名義に売買登記ができないので,売買契約を進められません。登記できない物件を買う人はいないからです。なお,相続人は,各自法定相続による所有権移転登記をすることができますが,共有で登記すると今度売却するときに売主が共有となり,結局全員の判子がないと売れません。それができるくらいなら遺産分割が決着しているでしょう。持分のみでは不動産売却はできません。

 

ではどうしたらいいのか

以上のようなケースで取り得る手段をいくつかお知らせします。なお,何も対策をしないで相続税の申告期限を過ぎたら,延滞税や無申告加算税がかかり経済的に大損です。場合によっては重加算税を課されます。

とにかく不動産を売る

別に共同相続人で揉めているわけではないが,とにかく遺産が不動産ばかりで現金等がないなら,不動産を売ればいいだけです。遺産の中に評価の高い不動産があれば,市場性があるからきっと売れます。ただし,そういう不動産は売りたくないものですが,,,

不動産を売却するためには,とにかく以下のことをしてください。

相続登記をする

前述のとおり,相続登記(相続による所有権移転登記)を済ましていないと不動産は売れません。なので,直ちに司法書士に依頼して相続登記の準備をしてください。登記の状態や戸籍収集状況により,相続登記に時間がかかる場合もあります。速やかに着手してください。

自分でする場合はこちら。

相続登記(名義変更・名義書換)の手続きを自分で法務局に申請する方法

同時に不動産仲介業者と媒介契約をする

素早く動いてくれそうな不動産仲介業者に依頼して買主を探してください。最悪,不動産業者に買い取ってもらうことも検討してください。買い取ってもらうと相場より安くなりますが,この選択をしたなら仕方ありません。

納税資金を銀行から借りる

不動産を売りたくない場合は銀行から納税資金を借りる方法もあります。物件の価値や収益性などにより,借り方や金利等条件が変わるでしょう。銀行等金融機関に相談して,どういうやり方があるか提案をしてもらいます。

不動産をぜったいに売りたくない場合のほか,不動産を好条件で売るために時間がかかる場合にもこの方法が使えます。

弁護士に遺産分割交渉を委任する

遺産分割ができないと相続税の申告ができないので困ります。そういうときは,弁護士に分割交渉を依頼するのも一つの方法です。弁護士が法的(客観的)な見通しを示し,「このまま揉めていても結局このようになりますよ」と伝えて交渉すれば,もしかすると共同相続人の合意が得られるかもしれません。法的な理解が不足していたり,遺産分割について勘違いしているケースならば,案外すんなり遺産分割協議が成立するかもしれません。協議が成立したら預貯金口座の凍結を解いて,納税資金を出金できます。

家裁に遺産分割審判を申し立てる

まだ少し時間がある場合は,家庭裁判所「遺産分割審判」を申し立てることができます。通常,審判の前に,遺産分割「調停」を申し立てて,調停が不調になってはじめて審判に移行するのですが(法律上最初から審判申立てできるものの,同じ法律上裁判所が調停に付する権限があるから),事情を裁判所に伝えて最初から審判の手続きをお願いしてはいかがでしょうか。それができるかどうかは,家庭裁判所の実務,つまり管轄裁判所の判断になります。

相続税の「延納制度」を利用する

以上が駄目なら国にすがるしかありません。要するに,相続税法に定められた,正規の手段によって,国に救済をお願いするほかありません。

一つ目は延納です。延納とは,要するに納税の先延ばしです(具体的には分割払い)。先延ばしした部分について国からお金を借りているような形になるので,この部分について利子税がかかります。つまり,最初に一括で納税するのと比べ,総額で割増金額を納めないといけません。

なお,延納制度は,希望すれば必ず適用を受けられるような届出制ではなく許可制です。つまり,要件を揃えて国に申請し,さらに許可を得られるかどうかは国次第のそんな制度です。

延納の適用を受ける要件はこうです。

次のすべてを満たすこと。

(1)相続税額が10万円を超えること。
(2)金銭で納付することを困難とする事由があり、かつ、その納付を困難とする金額の範囲内であること。
(3)延納税額及び利子税の額に相当する担保を提供すること。
ただし、延納税額が100万円以下で、かつ、延納期間が3年以下である場合には担保を提供する必要はありません。
(4)延納申請に係る相続税の納期限又は納付すべき日(延納申請期限)までに、延納申請書に担保提供関係書類を添付して税務署長に提出すること。

(2)の要件の意味は,相続財産以外の自分の財産を加えても納付が困難だという意味です。相続財産には現金がないが,自分はたくさん現金を持っているという場合,この要件を満たさずに延納はできません。国からすれば,「自分の金でとりあえず払えよ」ということです。

担保に出せるのは次の財産限定です。ただし,担保は相続財産じゃなくてもOKです。

(1)国債及び地方債
(2)社債その他の有価証券で税務署長が確実と認めるもの
(3)土地
(4)建物、立木、登記される船舶などで、保険に附したもの
(5)鉄道財団、工場財団など
(6)税務署長が確実と認める保証人の保証

※税務署長が延納の許可をする場合において、延納申請者の提供する担保が適当でないと認めるときには、その変更を求めることとなります。

ほか,詳しくはこちらをご覧ください。

ホーム>税について調べる>タックスアンサー>相続税>相続税の申告と納税>No.4211 相続税の延納

相続税の「物納制度」を利用する

最後に物納の制度について少し説明します。読んで字のごとく,物納制度とは,相続税を現金ではなく「物」で納める制度です。

こちらも許可制であって,何でも間でも代物で支払えるものではありません。厳格な要件を満たした一定の財産しか国は取ってくれません。また,査定は相続税評価額となるので時価より不利ですし,相続税の特例を利用して評価した宅地はその特例による評価でしかとってくれません。質屋に取られるようなもので,かなり買い叩かれる?というわけです。

物納の要件は,以下をすべて満たすこと。

(1)延納によっても金銭で納付することを困難とする事由があり、かつ、その納付を困難とする金額を限度としていること。
(2)物納申請財産は、納付すべき相続税額の課税価格計算の基礎となった相続財産のうち、次に掲げる財産及び順位で、その所在が日本国内にあること。
第1順位 不動産、船舶、国債証券、地方債証券、上場株式等※1
第2順位 非上場株式等※2
第3順位 動産
※1 特別の法律により法人の発行する債券及び出資証券を含み、短期社債等を除きます。
※2 特別の法律により法人の発行する債券及び出資証券を含み、短期社債等を除きます。
(注)
1 後順位の財産は、税務署長が特別の事情があると認める場合及び先順位の財産に適当な価額のものがない場合に限って物納に充てることができます。
2 特定登録美術品(美術品の美術館における公開の促進に関する法律第2条第3号に規定する登録美術品で相続開始の時において既に登録を受けているものをいいます。)については、上記の順序にかかわらず一定の書類を提出することにより物納に充てることができます。
(3)物納に充てることができる財産は、管理処分不適格財産に該当しないものであること及び物納劣後財産に該当する場合には、他に物納に充てるべき適当な財産がないこと。
(注)
自然公園法の国立公園特別保護地区等内の土地(平成23年4月1日から平成26年3月31日までの間に環境大臣と風景地保護協定を締結していることその他一定の要件を満たすものに限ります。)は、物納劣後財産に該当する場合であっても、これを物納劣後財産に該当しないものとみなします。
(4)物納しようとする相続税の納期限又は納付すべき日(物納申請期限)までに、物納申請書に物納手続関係書類を添付して税務署長に提出すること。

(1)を見ると分かるように,延納ができない場合にはじめて物納ができます。つまり物納は最後の手段だということです。

物納についての詳しい情報は以下をご覧ください。

ホーム>税について調べる>タックスアンサー>相続税>相続税の申告と納税>No.4214 相続税の物納

延納や物納の具体的な手続きについてはこちらに書いてあります。もっとも,手続きは相当複雑ですから,相続税専門の税理士に依頼して行います。

ホーム>申告・納税手続>延納・物納申請等

遺産相続が専門で得意分野とのことですが、どんな相談や依頼ができますか?

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