相続大全集

未成年者と親では遺産分割できないので家庭裁判所に特別代理人を申請する

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奈良県北葛城郡王寺町の司法書士中尾哲也

そのままでは遺産分割協議ができないケース その2

 

今日も,相続が開始して共同相続人で遺産分割協議をしたいが「そのままでは遺産分割協議ができない」という事案を紹介します。遺産分割協議がでいないと相続の手続きがストップします。遺産分割協議をして協議書を作らないと不動産の相続登記や預貯金の解約払い戻し,証券口座の相続手続きができません。よって当然,遺産はあなたのものになりません。なので困ります。

困っているだけではそれこそ困りますので笑,そういうときにどうしたらいいのかを具体的に説明します。これを読んでいただければ,「そのままでは遺産分割協議ができない」事案において,遺産分割ができるようになり,遺産相続の手続きを前に進めることができます。

 

共同相続人の中に「未成年者」がいると,そのままでは遺産分割協議ができない

こういう事例を考えてみて下さい。

年上の夫が死んだ。妻であるあなたと,小学生の子供が残された。遺産として,住宅及び預貯金がある。妻であるあなたは,夫の死後,住宅と預貯金をとりあえず自分の名義にしようと考えた。住宅は夫婦の家だし,子供の養育費に教育費と,子供が成長して独立するまでに多額のお金がかかる。そのお金は親権者であるあなたが責任を持って支払っていかないといけないので,預貯金についても自分の名義にするのが当然だと考えたから。

こういう風に考えたあなたが不動産や預貯金の名義変更の手続きをするとします。不動産の相続登記をするには法律にしたがって法務局で登記の手続きをする必要がある。預貯金の相続手続き(解約と払戻し)をするには民間の金融機関である銀行に指定された手続きを踏んで処理する必要がある。

調べてみると,手続きには,遺産分割協議書というのが必要らしい。夫の相続に関しては,配偶者であるあなたと,子供が相続人になる。子供は第1順位の法定相続人なので,あなたとともに,半分ずつの法定相続分がある。なのであなたは,夫の相続に関する遺産分割協議書を作り,あなたと子供が話合いをして,あなたが全部相続すると決めればよいのだな,と考える。もっとも,子供は未成年者なので,単独で法律行為をすることができない。遺産分割協議は当然法律行為なので,親権者であるあなたが代理して遺産分割をすればいいのか。ということは,あなたは,夫の配偶者として,そして夫の子の法定代理人親権者として,自分独りで遺産分割協議をして協議書を作れば手続きができるのだな,と結論するに至った,,,

果たしてそれでいいんでしょうか。夫の相続に関して,あなたは,配偶者としての立場と,子の法定代理人親権者としての立場を兼用して,結局のところ自分独りで遺産分割協議(決定)をしてしまえるのでしょうか。

NOです。

 

そのままでは遺産分割協議ができない理由

現実問題,夫の財産を妻が相続するのに違和感は少ないとして,ただ,常にこのように配偶者の独断で遺産分割ができるのなら,法律上,子供が法定相続人になっている意味がほとんどないじゃないか,と考えられたあなたは勘のいい人です。

いやもちろん,未成年者については,当然に親が親権者になりますし

(親権者)
民法818条  成年に達しない子は、父母の親権に服する。
2  子が養子であるときは、養親の親権に服する。
3  親権は、父母の婚姻中は、父母が共同して行う。ただし、父母の一方が親権を行うことができないときは、他の一方が行う。

親権者である親には子の財産の管理権と法律行為の代理権があります。遺産分割協議だって法律行為には違いありません。

(財産の管理及び代表)
民法824条  親権を行う者は、子の財産を管理し、かつ、その財産に関する法律行為についてその子を代表する。ただし、その子の行為を目的とする債務を生ずべき場合には、本人の同意を得なければならない。

もっとも,親権者の子の法律行為の代理権(代表権)は,いつでも使える訳ではないのです。法律で,「親権者である父母と,その子の利益が相反する行為」については,親権者が子を代理することができないと決められているのです。

子供が第三者と取引を行うときに,親が親権者として,子を代理するのは何ら問題ありません。親は子供を代理して第三者との間で契約等の法律行為を行い,子供の利益を保護することができます。しかし,親が子供と直接取引するときはどうでしょうか。例えば,親が子供の不動産を買い取る売買契約をする,又は子供が親の不動産を買い取る売買契約をする。こういうとき,売買条件をちゃんと適切に決められるでしょうか。またこんなのはどうでしょうか。親が子供の財産の贈与を受ける,,こちらは明らかにまずそうですよね,,だって,子供から親に財産を贈与する贈与契約について,親が子を代理できるとしたら,子供の財産を事由に親に移せてしまいます。これができるとしたら,子供の財産という概念は有って無いも同然です。

つまり,親権者と子が直接取引の当事者になるような,「親と子の利益が相反する行為」については,親の財産管理権は行使できない。そして,今回の遺産分割協議は,夫の財産を法定相続人である親と子が分けるというまさに親と子の利害が相反する行為にあたるので,「そのままでは遺産分割協議ができない」ケースに該当するのです。

こういう管理者や保護者と被管理者や被保護者の利益が相反する行為のことを「利益相反行為」と呼びます。

(利益相反行為)
民法826条  親権を行う父又は母とその子との利益が相反する行為については、親権を行う者は、その子のために特別代理人を選任することを家庭裁判所に請求しなければならない。
2  親権を行う者が数人の子に対して親権を行う場合において、その一人と他の子との利益が相反する行為については、親権を行う者は、その一方のために特別代理人を選任することを家庭裁判所に請求しなければならない。

 

どうしたら問題を解決できるか

ではどうしたらいいでしょうか。うえの条文に答えが書いてあります。

(利益相反行為)
民法826条1項  親権を行う父又は母とその子との利益が相反する行為については、親権を行う者は、その子のために特別代理人を選任することを家庭裁判所に請求しなければならない。

そういうときは,親は子の法律行為の代理人になれないので,この遺産分割協議をするという法律行為についてだけ,特別に,家庭裁判所に子の代理人を選んでもらえばよいのです。すなわち,遺産分割協議という法律行為について,子の代理人となる特別代理人の選任を家庭裁判所に請求して,特別代理人を選んでもらい,この特別代理人と親権者が遺産分割協議をすればよいのです。この場合,子に代わって,特別代理人が遺産分割協議書に押印します。

夫の遺産に関する遺産分割協議は,配偶者であるあなたと,家庭裁判所が選んだ特別代理人が行います。そうすることで遺産分割協議ができるようになります。

 

未成年者の特別代理人を選任する(付けてもらう)具体的な方法

では,その解決策に向けて,未成年である子のために家庭裁判所に特別代理人を選任してもらう手続きを考えていきます。どうやって特別代理人を選任してもらうか,その具体的な方法ややり方です。

誰が特別代理人選任の申立てをするのか

利益相反行為の特別代理人は誰かが家庭裁判所に申請しないと選任されません。誰かといっても当然申立てをするのはあなたです。なお,以下のような人が申立人になりえます。

  • 親権者
  • 利害関係人(も申立てができると解されています)
  • 後見人(親権者がいなくて子供に未成年後見人が付いている場合)

どこの裁判所に申立てをするか

子供の住所地を管轄する家庭裁判所です。小さい子の場合は通常同居しているので親権者と住所地は同じでしょう。高校生や大学生で遠方で一人暮らしをしている子供のために申請するときは,子供の住所地の家庭裁判所に書類を出す必要があります。

(管轄)
家事事件手続法167条  親権に関する審判事件(別表第一の六十五の項から六十九の項まで並びに別表第二の七の項及び八の項の事項についての審判事件をいう。)は、子(父又は母を同じくする数人の子についての親権者の指定若しくは変更又は第三者が子に与えた財産の管理に関する処分の申立てに係るものにあっては、そのうちの一人)の住所地を管轄する家庭裁判所の管轄に属する。

何をどのように準備したら特別代理人を選んでもらえるのか

管轄の家庭裁判所に,申立書(申請書)と,添付書類を出して申請し,裁判官が認めてくれたら特別代理人選任審判を出してくれます。

必要書類)

  • 申立書(収入印紙を貼って,郵券添付)
  • その他添付書類

申立書には収入印紙800円を貼って,予納郵券を付けます。予納郵券とは切手です。いくらか組み合わせで提出します。金額等は管轄裁判所に事前確認します。なお,収入印紙は裁判費用です。国の手数料のことです。

添付書類は次のとおりです。

戸籍謄本や住所証明書

  • 未成年者の戸籍謄本
  • 親権者(後見人)の戸籍謄本
  • 特別代理人候補者の住所を証する住民票又は戸籍附票

利益相反行為に関する資料

  • 遺産分割協議書(案)
  • 契約書(案)
  • 不動産の登記簿謄本
    など

申立書の書式見本

奈良王寺で家庭裁判所に特別代理人申請1

奈良王寺で家庭裁判所に特別代理人申請2

 

誰が特別代理人(候補者)になれるのか

どういう人を特別代理人に選ばないといけないという法律はありません。ただ,未成年者と親権者の利益対立を避けるために特別代理人を選ぶのですから,その趣旨を踏まえ,客観的に未成年者の権利を保護できると考えられる人を立てるべきでしょう。

特別代理人の選任申立書には,選んでほしい特別代理人の候補者を立てて書いていきます。裁判所は,「この人なら問題なかろう」と考えれば,その人を特別代理人に選任してくれます。通常,この特別代理人の選任申立てをするのは,不動産の遺産分割協議をして相続登記をする必要性がある等のときなので,財産処理の手続きを依頼している司法書士や弁護士を特別代理人候補者として立て,そのまま司法書士等が一括して手続きを進めることが多いです。

後述のとおり,特別代理人になると,遺産分割協議に参加して書類に判を押す必要がありますから,手続きを依頼している司法書士等に特別代理人になってもらったほうが何かとスムーズだからです(そもそも特別代理人選任の裁判所への申立書や遺産分割協議書(案)等も司法書士が作成することが多いため)。

 

特別代理人が選ばれたらどんな内容の遺産分割協議ができるか

どんな内容の遺産分割協議でも認められるわけではない!

ここで注意すべきポイントをお話しなければいけません。つまり,親権者であるあなたは財産を全部自分名義にしようとしたらできなかったので特別代理人の選任を申し立てた。特別代理人さえ選んでもらえば希望どおりの遺産分割協議ができるはずだ。そうお考えながら,それは少し違います。

未成年者である子の利益を考え,その権利を保護し,確保する

未成年者の特別代理人はあくまで未成年者である子の代理人です。親権者の代理人ではありません。どういうことかと言えば,この特別代理人の使命や仕事は,未成年者の権利を守ることにある,ということです。今回の件に当てはめて具体的にいうと,夫の遺産に係る遺産分割協議に関して,未成年者の特別代理人には,法定相続人である子の代理人として,この子の法定相続分に相当する財産権を確保する要請が働いているのです。つまり特別代理人は,基本的には,未成年者の法定相続分を確保する遺産分割をする義務があります。したがって,特別代理人を選んでもらったからといって,あなたが夫の遺産全部を相続する遺産分割協議ができるようにはなりません。

それでは不都合!それでは意味がない?

いやそれでは困る!住宅は夫婦のものだし,預貯金は私の名義にしておかないと子育て費用が足りないじゃないか!と思われるかもしれませんが,心配は要りません。

仮に夫の単独所有だった不動産を,妻子で各1/2名義に相続登記をしたとしても,何も困ることはありません。子供と共有名義になったからといって,あなたと子供が引き続きその家に住むのに何ら障害になりません。

預貯金はどうか。預貯金の半分を子供の名義にして管理しないといけなくなったら不都合はあるか?これも不都合はありません。最初に言ったとおり,親権者は子の財産管理権と法律行為の代理権があります。今後預貯金を管理していくのは親権者であるあなたです。また教育費等の支出をしたり,子供のために何等か契約をして,その代金を支払っていくのもあなたです。子供のための契約と子供のための支出であれば,親権者の法律行為の代理権でもって契約をし代金を支払えばいいのです。もちろん子供名義の預貯金からです。

このとおり一般的には何ら困ることはありません。それでも例えばもし仮に,家の名義を1回で自分名義にしたいと考えるなら,子供が成人(通常二十歳)になるまで待ってください。成人になったら子供単独で遺産分割協議できます。遺産分割協議はいつでもできます。そのときに子供が納得して書類に実印を押してくれたら,1回であなた名義することができます。

いずれにしろ遺産分割協議書(案)を裁判所に認めてもらう必要がある

以上,特別代理人選任をお願いする申請書には,利益相反行為の内容を書面化して提出する必要があります。今回なら遺産分割協議書(案)がそれになります。この遺産分割協議書(案)の内容は,上記のとおり,この利益を確保するものでないといけません。そうでないと裁判所が認めてくれません。そして特別代理人が選ばれたら,特別代理人は,裁判所に提出した遺産分割協議書(案)のとおりに行為しなければいけません。特別代理人は,あらかじめ裁判所に提出した遺産分割協議書(案)と違う内容で子のために法律行為をすることはできません。

 

未成年者の特別代理人が選ばれた後の流れ

子供に代わって遺産分割協議に参加する

当該利益相反になる法律行為,すなわち今回であれば遺産分割協議について,特別代理人は子の代理人となります。なので,特別代理人が子に代わって,子に成り代わって振る舞います。つまり,子に代わって遺産分割協議に参加し,意思決定と意思表示を行い,遺産分割協議書に実印を押印して,印鑑証明書等(代理権を証する特別代理人選任審判書の謄本も裁判所で取り寄せる)必要書類を準備します。未成年者の特別代理人は,当該遺産分割協議の当事者となります。

特別代理人の任務(仕事)の終了

予定されている利益相反行為について特別代理人が子を代理して法律行為を済ませたら(遺産分割協議が終わったら),特別代理人の仕事は終わり,その法定代理権は当然に消滅します。特別代理人はあくまで利益相反行為に限定して特別に選ばれた法定代理人であり,子の財産管理一般を担う親権者とは違うからです。利益相反行為が終わったら,また親権者が従前どおり子供の財産管理権と法律行為の代理権を行使していきます。

遺産分割協議のやり方と遺産分割協議書の作り方

 

親と子の利益相反行為になって親権者が法律行為の代理権を失い家庭裁判所に特別代理人の選任申立てをしないといけない行為の一覧リスト

今回遺産分割協議についてお話ししました。もっとも,親権者と子の利益が相反する行為は遺産分割に限られません。利益相反行為に該当すると思われる行為のリストを一覧しておきます。このような行為をするには,今回と同じく,家庭裁判所に特別代理人の選任を申し立てるのが筋です。勝手にやると後から法的紛争に発展する可能性がありますのでくれぐれも注意してください。親だからといって何でも勝手にするのは危険です。

利益相反行為になる例)

  1. 親の借金(親が代表者をしている会社の借金も)の担保して子の不動産に抵当権を付けて担保に差し出す
  2. 子供を親の借金の連帯保証人にさせる
  3. 共同相続人になっている子供の相続放棄申述をする
  4. 複数いる未成年の子のうち特定の子だけ相続放棄の申述をさせる
  5. 兄弟複数の未成年者の代理人として遺産分割協議をする(今回と同じ遺産分割ですが一人ず
  6. 個別に特別代理人を立てる必要があることに注意する事例)
  7. 親と子の間で不動産の売買契約をする
  8. 親と子の間で債権譲渡契約をする
  9. 子から親に対して財産の贈与契約をする
  10. 親子間で訴訟を提起し,調停を申し立て,家事事件手続法の相手方として審判を申し立てる
    など

 

未成年者の子供の特別代理人には司法書士をご指名ください

以下のようなことでお困りなら司法書士にご相談ください。可能な限りあなたの希望に沿う形で相続問題の解決ができるよう相談に応じ手続きの援助をいたします。

  • 利益相反行為になるかどうかの判断
  • 家庭裁判所への特別代理人選任の申立書作成
  • 利益相反行為に該当する遺産分割協議書(案)の作成
  • 不動産の相続登記(名義変更・名義書換)の手続き
  • 預貯金や株式の相続による解約,払戻し,口座移管の手続き
    など

遺産相続が専門で得意分野とのことですが、どんな相談や依頼ができますか?

訴訟や裁判所関係の業務はやっていますか?相続放棄や成年後見の申立てはできますか?簡裁代理権の認定司法書士ですか?また,無料法律相談はやっていますか?

営業エリア・業務地域を教えてください。

奈良県北葛城郡王寺町の司法書中尾哲也の写真楕円形

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