共同相続人で遺産をどう分けるか話合いがまとまらない場合,仕方がないので家庭裁判所に場所を移して再度話合いをします。このまま相続人だけでやっていても進展せず,したがっていつまで経っても相続財産は自分のものにならないからです。
遺産分割の方法の再確認
確認しておきますが,遺産分割は,まずもって共同相続人で話合いをし,どうにも話合いが着かない場合に家庭裁判所に調停を申し込みます。裁判所の援助のもと,裁判所の中で話合いをしてもやはり話合いがまとまらないときは,もはやどうしようもないので,家庭裁判所が遺産分割を決めてくれます。結論を出してくれます。なので,順番を追ってやっていけば,必ず遺産分割の問題は結論まで到達します。そうでなければ被相続人の相続財産が宙ぶらりんになって困るからです。
遺産分割協議(協議分割)=相続人だけで話合い
↓できなければ
遺産分割調停(調停分割)=裁判所を交えて話し合い
↓できなければ
遺産分割審判(審判分割)=裁判所が決める
じっさいに家庭裁判所に遺産分割調停の申立てをする方法
では早速ですが,遺産分割調停の具体的な開始方法等を説明します。
なぜ遺産分割調停の申立てをするか
これは先ほども言ったとおり,遺産分割の問題を決着するためです。共同相続人で話合いができないんですから,このまま放置しておいても前に進みません。なので,次のステップとして,裁判所に場所を移して話合いにチャレンジするのです。
(遺産の分割の協議又は審判等)
民法907条 共同相続人は、次条の規定により被相続人が遺言で禁じた場合を除き、いつでも、その協議で、遺産の分割をすることができる。
2 遺産の分割について、共同相続人間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、各共同相続人は、その分割を家庭裁判所に請求することができる。
3 前項の場合において特別の事由があるときは、家庭裁判所は、期間を定めて、遺産の全部又は一部について、その分割を禁ずることができる。
いつ,いつまでに申立てするか
いつまでという期限があるわけでありません。相続人で話合いができないと判断したときは申立てをしてください。ただし,相続税がかかるような遺産がある場合,相続税の申告期限である10か月以内(現実的にはさらに前に)に遺産分割が成立していないと申告上不利になります。また,決着しないまま財産を放置したり遺産の管理者に管理を任せるのは望ましくありません。なので相続人で決着がつきそうかどうかの判断をきっぱり行って,無理だと思ったら速やかに申立てをしてください。
(遺産の分割の協議又は審判等)
民法907条1項 共同相続人は、次条の規定により被相続人が遺言で禁じた場合を除き、いつでも、その協議で、遺産の分割をすることができる。
どこの裁判所に申立てをするか
共同相続人のうちの誰か1名の住所地を管轄する家庭裁判所です。共同相続人がたくさんいる場合は,その誰の住所地の裁判所に申立てをしてもかまいません。しかし今後の調停の進行を考えると,申立人及び共同相続人の多くが通いやすい裁判所などを選ぶことになるでしょう。
(管轄等)
家事事件手続法245条1項 家事調停事件は、相手方の住所地を管轄する家庭裁判所又は当事者が合意で定める家庭裁判所の管轄に属する。
誰が申立てをするか
誰でもよいです。今回の相続にについての共同相続人(包括受遺者や相続分の譲受人を含む)のうちの誰かが申立てをしてください。あなたが遺産分割を早く進めたいなら,あなたが申立てをしてください。
なお,遺産分割は共同相続人の全員でしないといけませんので,遺産分割調停の相手方も共同相続人等の全員になります。もっとも,申立ては管轄裁判所にだけすればよいです。書類も基本的には1件分で,相手方として相続人等の全員を書いていくだけです。ただし,申立書の写しは,相手方に送る全員分が必要です。じっさいに送るのは家庭裁判所です。家庭裁判所が,あなたが準備した遺産分割調停申立書の写しを相手方全員に郵送して,皆を遺産分割調停の期日に呼び出してくれます。
(家事調停の申立て)
家事事件手続法255条 家事調停の申立ては、申立書(次項及び次条において「家事調停の申立書」という。)を家庭裁判所に提出してしなければならない。
2 家事調停の申立書には、次に掲げる事項を記載しなければならない。
一 当事者及び法定代理人
二 申立ての趣旨及び理由
3 家事調停の申立てを不適法として却下する審判に対しては、即時抗告をすることができる。
4 第四十九条第三項から第六項まで及び第五十条(第一項ただし書を除く。)の規定は、家事調停の申立てについて準用する。この場合において、第四十九条第四項中「第二項」とあるのは、「第二百五十五条第二項」と読み替えるものとする。(家事調停の申立書の写しの送付等)
同256条 家事調停の申立てがあった場合には、家庭裁判所は、申立てが不適法であるとき又は家事調停の手続の期日を経ないで第二百七十一条の規定により家事調停事件を終了させるときを除き、家事調停の申立書の写しを相手方に送付しなければならない。ただし、家事調停の手続の円滑な進行を妨げるおそれがあると認められるときは、家事調停の申立てがあったことを通知することをもって、家事調停の申立書の写しの送付に代えることができる。
2 第四十九条第四項から第六項までの規定は前項の規定による家事調停の申立書の写しの送付又はこれに代わる通知をすることができない場合について、第六十七条第三項及び第四項の規定は前項の規定による家事調停の申立書の写しの送付又はこれに代わる通知の費用の予納について準用する。
何を,どのように準備して申立てをするか
遺産分割調停の申立ては書面でしなければいけません。遺産分割調停を開始してくれとお願いする文書を管轄家庭裁判所に提出するのです。提出する文書は次のとおりです。
- 遺産分割調停申立書
- 添付書類
遺産分割調停申立書
まさに,「遺産分割調停を始めておくれ」と裁判所に申請をする書類です。申立書には,裁判所の手数料として,1200円の収入印紙を貼ります。また,裁判所から相手方等に文書を送るための郵便切手(予納郵券という)のセットを申立人が裁判所に預けておきます。金額と組み合わせは管轄家庭裁判所に電話確認します。
申立書の書式見本です。
添付書類
まず最初に準備すべき添付書類は以下のようなものです。書類を裁判所に提出した後,家庭裁判所の書記官からさらに書類の提出を求められたら,これに従うようにしてください。
相続関係を証する戸籍謄本等や住所証明書一式
- 被相続人の出生から死亡まで全部つながった戸籍謄本,除籍謄本,原戸籍の謄本
- 相続人全員の現行の戸籍謄本
- 被相続人の最後の住所を証する住民票又は戸籍附票
- 相続人の住所を証する住民票又は戸籍附票
- 法定相続の第2順位,第3順位の直系尊属や兄弟姉妹等が相続人になる場合は,それらの者
- 相続人になることを証するのに必要な関係者の戸籍謄本等一式
参考)戸籍謄本等の取り寄せ方について詳しく知りたい方はこちら
遺産(相続財産)の存在と内容が確認できる書類
- 不動産の登記簿謄本(登記事項証明書)と固定資産評価証明書
- 預貯金通帳の写しや残高証明書
- 証券会社の取引報告書の写しや残高証明書
など
遺産分割調停はどのように進むか
申立書が受け付けられたら調停が始まります。家庭裁判所の書記官が相続人全員(相手方全員)に申立書の写しと呼び出し状を送って第1回目の調停期日を迎えます。
調停はあくまで話し合い
遺産分割調停はあくまで家庭裁判所で行われる相続人同士の話合いです。調停は,家庭裁判所の裁判官と調停委員(これを調停委員会と呼びます)という仲介役を交えて行われますが,裁判所が独断でこうしろ!と説得する手続きではありません。裁判所(調停委員会)は,あくまで相続人が合意できるようにいわば援助をする役割です。この基本的な仕組みを忘れないようにしてください。もっとも,調停委員会を組織する家庭裁判所の裁判官や家事調停員は,法律や社会常識のプロですから,いろいろ分からないことを聞いたり,参考意見を求めたりして,話合いの助けとしていただけます。
相続人は基本的に同席しない
原則として相続人は同じ部屋で同席しません。そもそも何かしら揉めているから家庭裁判所で調停をしているのであって,いきなり直接顔をあわせたら余計に紛争が盛り上がってしまう?かもしれないからです。調停をする部屋が決めてあって,あと控室がいくつかあります。申立人や,相手方は,順番に調停の部屋に呼び出されて,意見を言います。終わったら今度は別の相手方が呼び出されて意見を言います。裁判官や調停員は,各相続人の言い分や考え方をうまく伝えて,なるべく調停が成立するように導きます。繰り返しますが,裁判官や調停員は申立人の味方でもなければ相手方の味方でもありません。あくまで中立です。
いつまでも続けられない
調停の期日で話合いがまとまらないときは,2回目,3回目,4回目と調停の期日が指定され,手続きが繰り返されます。しかし,いつまでも遺産分割調停を続けられるわけではありません。事実関係が整理できて問題点が詰まっているのに相続人の意見が平行線のときは,これ以上調停を続けても調停が成立する見込みがありませんから,裁判所が調停を打ち切ります。明確に何回までという制限はありません。事案によって異なります。とにかく,裁判所が,「見込みなし」と判断したら調停は終わります。
(調停の不成立の場合の事件の終了)
家事事件手続法272条 調停委員会は、当事者間に合意(第二百七十七条第一項第一号の合意を含む。)が成立する見込みがない場合又は成立した合意が相当でないと認める場合には、調停が成立しないものとして、家事調停事件を終了させることができる。ただし、家庭裁判所が第二百八十四条第一項の規定による調停に代わる審判をしたときは、この限りでない。
遺産分割調停が終わるとき
最後に,遺産分割調停が終了する場合をまとめておきます。
調停が成立したとき
めでたく話合いがついて,調停が成立したら,当然調停が終わります。調停が終わる際,家庭裁判所は,調書にその旨を記載してくれます。これが調停調書と言われる書類になります。調停調書は確定した判決と同一の効力があります。よって,これをもって,不動産の相続登記や,預貯金株式等の名義変更の手続きを進めることができます。今後,相続手続きをするのに,相手方相続人の同意は要りません。この調書がその代わりになります。
(調書の作成)
家事事件手続法253条 裁判所書記官は、家事調停の手続の期日について、調書を作成しなければならない。ただし、裁判長においてその必要がないと認めるときは、この限りでない。(調停の成立及び効力)
同268条 調停において当事者間に合意が成立し、これを調書に記載したときは、調停が成立したものとし、その記載は、確定判決(別表第二に掲げる事項にあっては、確定した第三十九条の規定による審判)と同一の効力を有する。
調整が成立する見込みがないとき
うえで説明したとおり,調停が成立する見込みがないときにも調停は終わります。いつまでも続けるわけにいかないからです。裁判所も忙しく,国の税金で運営されているので,見込のないことを続けることはできません。
そんな,,,じゃあどうしたらいいのか,,,
遺産分割審判への移行
自動的に審判手続きに移行する
心配ありません。調停の手続きから,自動的に遺産分割審判の手続きに移行します。正確に言うと,裁判所が見込みなしとして強制的に遺産分割調停の手続きを終了させたときは,法律上,自動的に,「遺産分割審判の申立てがあったものとみなして」くれます。つまり,これから遺産分割審判の手続きが始まります。そして,遅かれ早かれ家庭裁判所の遺産分割審判が出て遺産分割争いは終わります。
(調停の不成立の場合の事件の終了)
家事事件手続法272条 調停委員会は、当事者間に合意(第二百七十七条第一項第一号の合意を含む。)が成立する見込みがない場合又は成立した合意が相当でないと認める場合には、調停が成立しないものとして、家事調停事件を終了させることができる。ただし、家庭裁判所が第二百八十四条第一項の規定による調停に代わる審判をしたときは、この限りでない。
2 前項の規定により家事調停事件が終了したときは、家庭裁判所は、当事者に対し、その旨を通知しなければならない。
3 当事者が前項の規定による通知を受けた日から二週間以内に家事調停の申立てがあった事件について訴えを提起したときは、家事調停の申立ての時に、その訴えの提起があったものとみなす。
4 第一項の規定により別表第二に掲げる事項についての調停事件が終了した場合には、家事調停の申立ての時に、当該事項についての家事審判の申立てがあったものとみなす。
審判手続きと調停手続きの違い
遺産分割審判は調停とは違います。今度は話合いではありません。判決を求める訴訟手続きと同じような手続きだと思ってください(厳密には違います)。つまり,当事者がそれぞれ自分の言い分を主張して,証拠で立証します。これらを踏まえて裁判所の裁判官が最終的に遺産分割審判という最終判断を下します。もはや調停とは違いますので,ここからは戦いです。言い分が認められるようにしっかり書面で主張し,立証しなければ負けます。必要であれば代理人の弁護士を立てたり,司法書士に書類作成を依頼せねばなりません。
遺産分割審判が出たら
審理をした結果家庭裁判所で遺産分割審判が出たら一応遺産分割の紛争解決手続きは終わりです。
審判は当事者に告知され,その審判には執行力ある債務名義と同一の効力が生じます。この審判の原本は裁判所に保管されますので,裁判所から審判書の謄本(この場合手続き上「正本」は必要ありません)と確定証明書をもらって遺産相続の手続きに使用します。なお,調停の場合と同じく,今後相続手続きに関し,相手方相続人に協力を求める必要はありません。審判書の謄本と確定証明書が遺産分割の結論を証する文書として関係機関に通用します。
(審判)
家事事件手続法73条 家庭裁判所は、家事審判事件が裁判をするのに熟したときは、審判をする。
2 家庭裁判所は、家事審判事件の一部が裁判をするのに熟したときは、その一部について審判をすることができる。手続の併合を命じた数個の家事審判事件中その一が裁判をするのに熟したときも、同様とする。(審判の執行力)
同75条 金銭の支払、物の引渡し、登記義務の履行その他の給付を命ずる審判は、執行力のある債務名義と同一の効力を有する。
審判に納得しないとき
なお,審判の内容に納得がいかないときは,これを争うことができます。つまり不服申立てをします。遺産分割の審判については即時抗告ができますので,2週間内に抗告状を裁判所に提出して即時抗告をします。抗告審は,家庭裁判所ではなく,高等裁判所で行われます。しかし,抗告状は,宛名を高等裁判所としたものを,遺産分割審判を出した(遺産分割調停を申し立てた)家庭裁判所に提出します。そうすると,裁判所が書類を回してくれる仕組みです。
最初から遺産分割審判ができないか
法律の仕組みとしては,最初から,調停ではなく遺産分割審判の申立てができます。しかし家庭裁判所としては,「やはりもう一度裁判所で話合いをしてほしい。裁判所に話合いの場を移せばまた気持ちも変わるかもしれない。話合いで解決できれば今後の人間関係のことを考えても望ましい。さらには,審判をするには厳格な手続きをして間違いなく判断しないといけないので,話合いで決着してくれると負担が減ってありがたい」と考えます。
なので,これまた法律上,いきなり遺産分割審判の申立てをしても,家庭裁判所は,その職権で,手続きを遺産分割調停に回すことができます。通常こういった運用がされるので,遺産分割はやはり以下のような順序でするようにします。
遺産分割協議(協議分割)=相続人だけで話合い
↓できなければ
遺産分割調停(調停分割)=裁判所を交えて話し合い
↓できなければ
遺産分割審判(審判分割)=裁判所が決める
(付調停)
家事事件手続法274条 第二百四十四条の規定により調停を行うことができる事件についての訴訟又は家事審判事件が係属している場合には、裁判所は、当事者(本案について被告又は相手方の陳述がされる前にあっては、原告又は申立人に限る。)の意見を聴いて、いつでも、職権で、事件を家事調停に付することができる。
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