相続大全集

相続財産の遺留分(いりゅうぶん)が侵害されて取り戻したいなら遺留分減殺請求(げんさいせいきゅう)をする

»

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • LINEで送る

遺留分減殺請求をする

奈良県北葛城郡王寺町の司法書士中尾哲也

ここで説明するのは,あなたが遺言で財産をもらった場合じゃなく,親など被相続人が書いた遺言書であなたの相続に関する遺留分が奪われている場合。すなわち,親などの被相続人が遺言書で他の法定相続人や第三者に多くの財産をあげてしまったので,あなたが期待していた相続ができなくなってしまったというケース。しかも,その遺言は,あなたが持っている遺留分の権利まで侵害しているので,是非ともそれを法的に取り戻して,相続でいくらかの財産をもらいたいと望んでいる場合にするべきことが,ここで説明する内容です。

要するに,あなたが遺留分減殺請求権を行使して財産を取り戻す手続きを説明いたします。といっても,遺留分や遺留分減殺請求は法律的にかなり難しい問題を含むので,あまり立ち入った話はしません。そのあたりは司法書士や弁護士に相談して聞いてください。今日は,1番重要な,遺留分はいくら(どれだけ)請求できるのかということ及びじっさいに遺留分減殺請求権行使の手続きはどうやってすすめたらいいのかということ,そしてまた,遺留分減殺請求の手続きはどのように進んでいくのかということの,それぞれおよその内容を知っていただく記事といたします。

  1. 遺留分はいくら(どれだけ)請求できるのか
  2. 遺留分減殺請求権の行使の仕方と手続きの流れ

以上2点を大枠として,前者を簡潔に,後者を比較的詳しめに説明することにします。

 

遺留分はいくら(どれだけ)請求できるのか

なぜ遺留分(最低限の取り分)という制度があるか

遺留分を含めた現在の日本の遺産相続の制度は,遺言書による被相続人の意思を最優先としつつも,遺族の生活保障や家族で一緒に蓄積した財産の清算などを法定相続でカバーする制度になっています。法定相続制度がある以上,遺族は,遺言書がなければ将来自分が遺産を相続できるはずだという期待もします。この法定相続に対する期待権や,生活保障の機能を,法定相続分に至らないまでも「一定の範囲で保護」してあげようというのが遺留分制度の趣旨です。

遺留分をもらえる人は誰か(遺留分権利者)

遺留分減殺請求ができる遺留分権利者は,民法に明確に規定され,限定されています。以下のとおりです。

兄弟姉妹以外の法定相続人

つまり,子,直系尊属,配偶者です。兄弟姉妹には遺留分がありません。遺留分権利者であった人の代襲相続人も遺留分権利者になります。

これらの者の承継人

承継人には包括的に地位を承継する包括承継人と,遺留分権を限定して譲渡されたような特定承継人も含まれます。包括承継人とは,遺留分権利者の相続人,包括受遺者のことで,特定承継人とは,いま言ったように,遺留分減殺請求権を売買や贈与等によって譲渡された人のことです。

(遺留分の帰属及びその割合)
民法1028条 兄弟姉妹以外の相続人は、遺留分として、次の各号に掲げる区分に応じてそれぞれ当該各号に定める割合に相当する額を受ける。一  直系尊属のみが相続人である場合 被相続人の財産の三分の一二  前号に掲げる場合以外の場合 被相続人の財産の二分の一

(代襲相続及び相続分の規定の準用)
同1044条  第八百八十七条第二項及び第三項、第九百条、第九百一条、第九百三条並びに第九百四条の規定は、遺留分について準用する。

もらえる遺留分は相続分と比べてどの程度か(遺留分「割合」)

遺留分は,分かりやすくいうと,遺留分権利者の法定相続分に対する割合で計算します。遺留分という制度の趣旨を踏まえ,誰が遺留分権利者になるかによってその割合は変わります。

  • 直系尊属のみが相続人となるとき=法定相続分の3分の1
  • その他の場合=法定相続分の2分の1

もらえる遺留分をじっさいに計算する方法はどうするのか(遺留分「額」)

では,その割合を金額に変え,じっさいに遺留分権利者が請求できる金額を計算する方法を説明します。少しややこしいですが,よく考えて理屈を理解してください。請求できる遺留分の額を計算するための流れはこうです。

  1. 計算のもとになる遺産額を出す
  2. 遺留分割合を掛けて遺留分額を計算する
  3. そこから自分がもらった額を引く
  4. 残額が,じっさいに請求できる遺留分額となる

以上,項目を一つずつ見ていきます。

計算のもとになる遺産額を出す

この遺留分計算のもとになる金額を,「遺留分算定の基礎となる財産」といいます。遺留分算定の基礎となる財産額は,単なる遺産とは異なります。遺産といえば,被相続人や遺言者が死亡時に持っていた財産のことですが,遺留分算定の基礎となる財産はこれだけではりません。遺留分制度の趣旨を実現するために少し工夫がされています。遺留分算定の基礎となる財産は次のように計算します。

遺産(通常の遺産,つまり亡くなったときにある財産)+生前贈与-相続債務

ここで遺産に加算される生前贈与とは?

  • 相続開始前の1年間にされた贈与
  • 1年より前のものであっても当事者双方が遺留分を侵害すると知って行った贈与
  • 1年より前のものであっても特別受益に該当する贈与
  • 不相当な対価でした有償行為(例えば不当に安く売買した)は当事者双方が遺留分を侵害すると知って行ったときに限り贈与とみなす

(遺留分の算定)
民法1029条  遺留分は、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与した財産の価額を加えた額から債務の全額を控除して、これを算定する。
2  条件付きの権利又は存続期間の不確定な権利は、家庭裁判所が選任した鑑定人の評価に従って、その価格を定める。

同1030条  贈与は、相続開始前の一年間にしたものに限り、前条の規定によりその価額を算入する。当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知って贈与をしたときは、一年前の日より前にしたものについても、同様とする。

(不相当な対価による有償行為)
同1039条  不相当な対価をもってした有償行為は、当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知ってしたものに限り、これを贈与とみなす。この場合において、遺留分権利者がその減殺を請求するときは、その対価を償還しなければならない。

遺留分割合を掛けて遺留分額を計算する基礎となる財産額が出たらこれにさっきの遺留分割合を掛けます。

直系尊属のみが相続人になるときは1/3,その他の場合には1/2です。先ほど分かりやすくするためにこの割合は相続人の法定相続分に対する割合,法定相続分に掛けあわせるものと言いましたが,正確には計算の順序が違います(もっとも結果は同じです)。相続人の遺留分額を求める計算は,正しくは,以下の計算式により行います。

遺留分額=遺留分算定の基礎となる財産額*遺留分率*法定相続分

そこからすでに自分がもらった額を引く

相続人の遺留分額が計算できたら,そこから自分が相続等でもらった財産の額を引きます。遺留分は相続人の最低保障額なので,もらった財産があれば差引しないといけません。じっさいに遺留分減殺請求できるのは,本来もらうべき遺留分額が侵害されている部分(遺留分侵害額)。相続等でもらっていれば侵害額が減るからです。差引計算しないといけないのは次のようなものです。

  • すでに受領している相続財産(ただし,負担した相続財務があればこれを控除)
  • 贈与を受けた額
  • 遺贈を受けた額

残額が,じっさいに請求できる遺留分額となるということで,次の計算式で求めることができる金額が,あなたが(遺留分を侵害された相続人が)じっさいに請求して受け取れるはずの遺留分額になります。じっさいに請求して受け取れる遺留分額と遺留分侵害額とは同じ意味です。

遺留分算定の基礎となる財産の額(死亡時の財産額+贈与額-相続債務額)

遺留分割合(直系尊属のみの場合1/3,その他は1/2)

法定相続分

遺留分権利者がすでにもらった額(受贈額+受遺額+(相続した額-負担した相続債務額))

じっさいに請求できる遺留分額(遺留分侵害額)

 

横書きにすると,,,

 

遺留分侵害額=基礎財産額(死亡時の財産額+贈与額+相続債務額)*遺留分割合(直系尊属のみの場合1/3,その他は1/2)*法定相続分-遺留分権利者がすでにもらった額(受贈額+受遺額+(相続した額-負担した相続債務額))

 

遺留分減殺請求権の行使の仕方と手続きの流れ

遺留分としてもらえる額の計算の仕方が分かったら,いよいよじっさいに遺留減殺請求をしていきます。

遺留分減殺請求をする「相手方」と「侵害行為」を特定する

遺留分減殺請求をすることができる相手方は次の人です。

悪意とは,財産の譲渡を受けたり,財産に対して権利設定をするときに,それが遺留分権利者の遺留分を害することになる事実を知っていることです。

(受贈者が贈与の目的を譲渡した場合等)
民法1040条  減殺を受けるべき受贈者が贈与の目的を他人に譲り渡したときは、遺留分権利者にその価額を弁償しなければならない。ただし、譲受人が譲渡の時において遺留分権利者に損害を加えることを知っていたときは、遺留分権利者は、これに対しても減殺を請求することができる。2  前項の規定は、受贈者が贈与の目的につき権利を設定した場合について準用する。

遺留分減殺請求をする「侵害行為の順序」を特定する

減殺請求の対象になる侵害行為がたくさんある場合には,遺留分請求の対象にする順序が法律で決まっています。どれからでも,誰からでも,請求者が自由に決めて減殺請求の対象にすることはできません。減殺の順序は早い方から以下のとおりです。

  1. 遺贈,相続させる遺言・相続分の指定・遺産分割の方法の指定
  2. 死因贈与
  3. 新しい贈与
  4. 古い贈与
  • 遺贈等が複数あるときは,遺言に別段の定めがない限り,目的物の価額に応じて減殺します。
  • 死因贈与は1番新しい贈与として取り扱います。
  • 贈与は新しい贈与から古い贈与に向けて順番に減殺しますが,同時に複数の贈与がされたときは遺贈と同じく目的物の価額に応じて減殺します。

(遺贈又は贈与の減殺請求)
民法1031条  遺留分権利者及びその承継人は、遺留分を保全するのに必要な限度で、遺贈及び前条に規定する贈与の減殺を請求することができる。
(贈与と遺贈の減殺の順序)同1033条  贈与は、遺贈を減殺した後でなければ、減殺することができない。

(遺贈の減殺の割合)
同1034条  遺贈は、その目的の価額の割合に応じて減殺する。ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。

(贈与の減殺の順序)
同1035条  贈与の減殺は、後の贈与から順次前の贈与に対してする。

遺留分減殺請求権行使の意思表示をする

遺留分減殺の請求も法律行為なので,まずは相手方に対する意思表示によって権利行使をスタートします。というか,遺留分減殺請求権は,法律上,「形成権」という権利に分類されているので,相手方に対する意思表示をもってはじめてその権利が発生します。それまでの検討は,遺留分減殺請求権という権利を発生させるための準備に過ぎません。意思表示は相手に到達して伝わればどんな方法でもいいのですが,通常は文書(内容証明郵便等)でします。

遺留分の減殺請求権を行使したら法的に何がどうなるのか

遺留分減殺請求権行使の意思表示が侵害行為の相手方に伝わった瞬間遺留分減殺請求権が生じ,即時にその効果が物権的に生じます。「物権的に」というのは,理論的には,減殺請求権を行使したその即時に,財産の権利が遺留分権利者に戻ってくるという意味です。

例えば,法定相続人に子供が二人いて,財産が自宅不動産しかない遺言者が,その不動産の所有権の全部を一方の子供である長男に遺贈した場合において(その他の条件はないものとする),次男が遺留分減殺請求権を行使すると,遺言によって長男に帰属していた不動産の所有権のうち,持分1/4の所有権が,即時に次男のもとに帰ってきます。もっともあくまで理論的に帰ってくるのであって,その後これを現実化する手続きが必要になるわけですが。

遺留分減殺減殺請求権行使の法的効果をまとめると,,,

  • 請求と同時に効果が即時かつ物権的に生じる。
  • 侵害行為の遺贈等が未履行のときは,減殺請求した範囲で履行義務がなくなる。
  • 侵害行為の遺贈等が既履行のときは,減殺請求した範囲で返還を求めることができる。
  • 財産の返還は,現物返還が原則となる。例えば物権であれば,共有持分が返ってくる。
  • ただし,以下のような場合は価額返還,つまり侵害された遺留分に相当するお金を返してもらう。
    ◎ 遺留分を侵害することを知らない第三者に目的物が譲渡されているとき
    ◎ 遺留分を侵害することを知らない第三者が目的物に権利設定をしているとき
    ◎ 「減殺を受けた相手方」が,価額弁償(お金で返したい)と希望し,それを現実に履行したとき
  • 減殺を受ける受贈者(受遺者も含む)は,減殺請求日以降の果実(物件から生じる利益のことで,金銭なら利息,収益不動産なら家賃収入等)も返さないといけない。
  • 減殺を受けた相手方が財産を使ったりでお金がないときは事実上遺留分権利者の泣き寝入りとなり,他の贈与等や相手方を選択してさらに請求することはできない。
  • 遺留分減殺請求は意思表示による権利変動なので,減殺請求後の第三者との関係で,「対抗関係」になる。つまり,不動産なら登記というように,財産の性質に応じた対抗要件を備える手続きを急がなければいけない。
    など

(受贈者による果実の返還)
民法1036条  受贈者は、その返還すべき財産のほか、減殺の請求があった日以後の果実を返還しなければならない。

(受贈者の無資力による損失の負担)
同1037条  減殺を受けるべき受贈者の無資力によって生じた損失は、遺留分権利者の負担に帰する。

(遺留分権利者に対する価額による弁償)
同1041条  受贈者及び受遺者は、減殺を受けるべき限度において、贈与又は遺贈の目的の価額を遺留分権利者に弁償して返還の義務を免れることができる。2  前項の規定は、前条第一項ただし書の場合について準用する。

 

遺留分減殺請求の行使の仕方は大きく分けて二つ

交渉で解決する方法(裁判所の外での交渉によって遺留分を請求する)

つづいて,じっさいに遺留分減殺請求権を行使して,財産を取り戻すまでの手続きがどうなっているのかを説明します。先ほど遺留分減殺請求をするには,まずもって侵害行為の相手方に対する意思表示を行うと言いました。この意思表示は通常内容証明郵便等の文書でします。

この意思表示に対し,相手方が「そうかわかった」と話合いに応じてくれれば,事例によって財産の名義変更やお金のやり取りをして解決すればいいです。もっとも通常は,遺留分のことについてよく分からなかったり交渉の仕方やまとめ方がよく分からなかったりすると思いますので,司法書士に相談したり,弁護士に相談して間に入ってもらい手続きしてください。

しかし,,,例え専門家に入ってもらったとしても,なかなかすんなり交渉で問題が解決しづらいのが遺留分減殺請求です。それはこういった理由からです。

  • 請求を受けた相手方も法律関係がよくわからないので,本当に請求された内容で話合いに応じてよいもののかどうか迷ってしまう。判断できない。
  • 贈与や遺贈等,遺言者の意思によりもらった財産だから,他の相続人からの請求に応じるのは何かおかしいような気がしてしまう。亡くなった人の好意よって得られた財産だから,亡くなった人の意思を尊重したいと考えがち。
  • 一旦もらったお金は誰しも返したくない。お金は重要。

ということで,請求はしたものの,いっこうに話が前にすすまない。相手方からリアクションがない。又は応じられないという反論が来た。と,いうことになりがち。その場合,仕方がないので,裁判手続を利用してか紛争を解決していきます。

裁判手続で解決する方法(裁判所の中で法的手続を利用して遺留分を請求する)

さて,どのような裁判手続きをしたらいいかを考えます。この遺留分減殺請求に関する裁判手続。多くの場合親族関係者間の法律問題になりますが,遺産分割や離婚などのように,家事事件手続法上の家事審判の対象になっていません。また人事訴訟法の対象にもなっていません。つまり家庭裁判所を利用した最終の紛争解決手続が用意されていません。

例えば遺産分割に関する紛争は,家事審判の対象になります。通常,まずは家庭裁判所で調停をして,話がまとまらなければ審判移行して裁判官が審判で決めてくれるというふうに,手続きの方法と順序が決まっています。家庭裁判所で調停→家庭裁判所で審判です。法律上は,いきなり家事審判を求めることができる建付けになっていますが,事の性質上やはり相続人で話合いをしてまとまるに越したことはないので,実務では調停を先に申し立てますし,いきなり審判の申立てをしても裁判所の職権で家事調停に回されます。

(審判事項)
家事事件手続法39条  家庭裁判所は、この編に定めるところにより、別表第一及び別表第二に掲げる事項並びに同編に定める事項について、審判をする。

(調停事項等)
同244条  家庭裁判所は、人事に関する訴訟事件その他家庭に関する事件(別表第一に掲げる事項についての事件を除く。)について調停を行うほか、この編の定めるところにより審判をする。

同別表第2抜粋
遺産の分割 十二 遺産の分割 民法第九百七条第二項

(付調停)
家事事件手続法274条  第二百四十四条の規定により調停を行うことができる事件についての訴訟又は家事審判事件が係属している場合には、裁判所は、当事者(本案について被告又は相手方の陳述がされる前にあっては、原告又は申立人に限る。)の意見を聴いて、いつでも、職権で、事件を家事調停に付することができる。

また離婚紛争は,家事事件手続法の審判事項ではありませんが,人事訴訟法という特別の訴訟手続の対象になるので,先に家庭裁判所で調停をして,それが成立しない場合に家庭裁判所で離婚訴訟を提起することになっています。家庭裁判所で調停→家庭裁判所で人事訴訟です。

(趣旨)
人事訴訟法1条 この法律は、人事訴訟に関する手続について、民事訴訟法 (平成八年法律第百九号)の特例等を定めるものとする。

(定義)
同2条 この法律において「人事訴訟」とは、次に掲げる訴えその他の身分関係の形成又は存否の確認を目的とする訴え(以下「人事に関する訴え」という。)に係る訴訟をいう。
一  婚姻の無効及び取消しの訴え、離婚の訴え、協議上の離婚の無効及び取消しの訴え並びに婚姻関係の存否の確認の訴え
二  嫡出否認の訴え、認知の訴え、認知の無効及び取消しの訴え、民法 (明治二十九年法律第八十九号)第七百七十三条 の規定により父を定めることを目的とする訴え並びに実親子関係の存否の確認の訴え
三  養子縁組の無効及び取消しの訴え、離縁の訴え、協議上の離縁の無効及び取消しの訴え並びに養親子関係の存否の確認の訴え

(調停前置主義)
家事事件手続法257条  第二百四十四条の規定により調停を行うことができる事件について訴えを提起しようとする者は、まず家庭裁判所に家事調停の申立てをしなければならない。2  前項の事件について家事調停の申立てをすることなく訴えを提起した場合には、裁判所は、職権で、事件を家事調停に付さなければならない。ただし、裁判所が事件を調停に付することが相当でないと認めるときは、この限りでない。3項略

(調停事項等)
同244条  家庭裁判所は、人事に関する訴訟事件その他家庭に関する事件(別表第一に掲げる事項についての事件を除く。)について調停を行うほか、この編の定めるところにより審判をする。

遺留分減殺請求にはこのような仕組みがありません。

ではどうしたらいいか。

家庭裁判所に遺留分減殺請求の調停を申し立てる

調停の申立手続

遺留分減殺請求事件は前述のとおり家事審判への移行を予定しない一般調停事件に該当するので,家庭裁判所に遺留分減殺(による物件返還請求)の調停を申し立てることができます。つまり,家庭裁判所に話合いの場を移すのです。家事調停では,家事調停員が間に入って仲介役をしてくれます。当事者間での話合いに比べて紛争解決の可能性が飛躍的に高くなるはずです。なので,まずは内容証明郵便で遺留分の請求をして,一定期間内に返答がないか,希望する返答が返ってこなければ,直ちに遺留分減殺請求の家事調停を家庭裁判所に申し立てることをおすすめします。

遺留分減殺請求による物件返還請求調停の申立て遺留分減殺による物件返還請求調停は,以下の書類等を,請求の相手方の住所地を管轄する家庭裁判所に提出(持参又は郵送)して手続きを開始してもらいます。

  • 申立書
  • 収入印紙を,1200円分
  • 裁判所による書類郵送用の予納郵便切手を,申立てをする家庭裁判所が指定する金額と組み合わせにて(裁判所に要確認)
  • 相続関係を証する戸籍謄本等や住所証明書一式遺言書写し,不動産登記謄本,固定資産評価証明書など必要に応じ適宜の書類(裁判所と協議)

申立書の見本(記載例)を掲げておきます。

遺留分減殺による物件返還請求調停申立書1

遺留分減殺による物件返還請求調停申立書2

遺留分減殺による物件返還請求調停申立書3

戸籍謄本等の集め方はこちらに詳しく書いておきました。

戸籍謄本や除籍や原戸籍を取り寄せて相続人の全員を確定し相続関係説明図を作成する

遺留分減殺請求の調停が成立したら?

裁判所の調停で話がついたら,その内容について,調停調書という法的文書がつくられます。この調停調書には法的な強制力があるので,これを使って遺留分権利者のみで財産の名義変更等の手続きができます。速やかにすすめましょう。

遺留分減殺請求の調停が成立しなかったら?

話合いがつかなかったら調停はそれでおしまいです。また,家庭裁判所でできることもお終い。何もありません。仕方がないので,一般民事事件として,地方裁判所に訴訟を提起して紛争解決をします。

地方裁判所に遺留分減殺請求訴訟を提起する

繰り返しますが,遺留分減殺請求は家事事件手続法の審判事項ではなく,人事訴訟法の対象でもないので,通常の民事事件として訴訟提起します。請求額によって,相手方の住所地を管轄する地方裁判所又は簡易裁判所に訴状を提出して民事訴訟を開始します。通常は弁護士に依頼しますが,簡易裁判所の管轄の事件なら司法書士にも遺留分減殺請求訴訟の訴訟代理行為を委任することができます。

民事訴訟は待っていても手続きは開始しません。遺留分権利者が積極的に自分で又は法律家に委任して訴訟提起しないといけません。として,訴状や準備書面において,しっかり法律要件に該当する事実を正しく主張し,その後の証拠調べでは証拠書類を提出したりして事実を立証する必要があります。そうしないと遺留分の権利は裁判所に認めてもらえません。通常の民事訴訟は,当事者が自分で努力しないと負けてしまいますので,全部自分で手続きするのはおすすめしません。最低でも,司法書士に訴状等の作成を依頼したほうがよいです。

さて,訴訟が最後まで行って判決をもらった場合は,判決正本に確定証明書を得て,これをもって財産の名義変更等の手続きをします。当然には判決正本にはその効力があります。

一方,訴訟の途中で相手方と折合いがついて,訴訟上の和解が成立した場合も同じです。和解が成立すると裁判所が和解調書という文書を作成してくれるので,これをもらって判決書同様に手続きに使用します。和解調書にも強制力があるので,遺留分権利者のみで財産の手続きを完了させることができます。

遺留分減殺請求権の消滅時効について

最後に注意すべき点を1点。遺留分減殺請求権の時効についてです。遺留分が侵害されているのを知って,さらにどうしてもこれに納得がいかず財産を取り戻したいと思ったら,なるべく早く行動を起こしてください。司法書士や弁護士に相談しましょう。

そして,遺留分減殺請求をすべき相手方や,対象となる行為,遺留分侵害額などを正確に認定していきます。遺留分請求は案外難しいので,早合点していると間違います。相手方も,減殺すべき行為も全くの的外れの請求を検討していた,なんてこともあります。時効期間も短いです。

その期間は,

  • 遺留分権利者が,相続の開始と,減殺請求可能な遺贈や贈与があることを知った時から1年
  • 相続開始から10年

このいずれか早い時期に消滅時効期間が満了又は請求権が除斥されます(この10年は除斥期間と解されています)。

1年は早いです。あっという間です。

もっとも,1度減殺請求をすれば効果が生じますので,減殺請求の結果物件の所有権が物権的に遺留分権利者に戻ります。例えば不動産の所有権が減殺請求によって遺留分権利者のものとなれば,その後の物件の返還請求権や移転登記請求権は,所有権にもとづく権利として,消滅時効にかからないというのが判例です。

なので,時効等対策として,取り急ぎ,正確な知識と事実認定のもと,相手方と行為を特定して,遺留分減殺請求の意思表示だけしておくことが大切です。

 

遺留分減殺請求権の行使は消滅時効期間が1年。3か月以内に手続きしなければいけない根拠はありませんが,遺留分権利者の権利を確保し減殺請求権行使の効果を実効あらしめるにはなるべく早期に着手して請求するのがベターです。よって,死後3か月以内に行うべきこととして,このカテゴリーに記事を追加しました。

奈良県北葛城郡王寺町の司法書中尾哲也の写真楕円形

無料メール相談はこちら。司法書士が2時間以内にお答えします!

 

»

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • LINEで送る

関連記事

相続税申告の準備(ステップ)と,期限(いつまでに)について説明します

ここでは,相続税の基本的な枠組みに関する知識と,将来両親等が亡くなって,相続が開始したときに,最低限何をすればいいのかを押さえておきます。これだけ覚えておいていただくだけで,かなり不安は減ると思います。   相 …続きを読む

相続税申告期限と準備

いますぐに親の生前贈与の相手を子供から孫に切り替えたほうがいい理由

いまあなたは親から毎年110万円(111万円?)の生前贈与を受けていますか?もしかするとあなたは親の立場で,息子や娘に,毎年110万円の生前贈与をしていますか?それって何のために?   節税対策のために毎年する …続きを読む

3年以内の贈与は孫にして節税対策を

小さい子が相続人になっている場合に親(親権者)が正しく遺産分けをする方法

親族関係 被相続人(亡くなった人)=45才の若いお父さん 相続人=42才のお母さんと,20歳の長男そして歳の離れた12歳の長女 遺産 住宅(住宅ローン付)と預貯金が100万円ほど こういう相続を考えてみてください。まだ小 …続きを読む

親権者と子との利益相反

信託銀行の遺言信託(とか遺産整理業務)を頼んではいけない理由を知っていますか?

最近テレビやインターネットでよくよく信託銀行の遺言信託や遺産整理,そして相続業務のコマーシャルが流れています。銀行さん,とりわけ信託銀行はお金持ちが大好きなので,次々と富裕層や準富裕層にターゲットした商品を開発してきます …続きを読む

信託銀行の遺言信託や遺産整理業務はどう?

なぜ身寄りのない人には遺言書を書いてもらうべきか詳しく説明します

仮にあなたがこういう立場の方々だったとします。 ある人と長年同居して連れ添った内縁の配偶者である。 ある人の事実上の子供として育てられ親子同然の関係にあるが法的には養子縁組をしていない者である。 ある人の古くからの親友で …続きを読む

身寄りのない人は遺言書が必須