相続財産の調査をしないとはじまらない?
当たり前のことですが,相続財産を把握しないと何もできません。
- 他の共同相続人と遺産の分け前を話し合おうとしても,そもそも何があるか分からないと判断できない。
- さらに,遺産の値段が分からないと,相続人の話合いができないばかりか,相続税がかかるかどうかもわからない。
と,思いませんか?なので,遺産相続の処理をするために,財産を調べるのは,最も優先するべきことの一つです。
具体的な財産の調査方法
具体的な相続財産の調査方法は,以下のブログにまとめておきましたのでそちらをご覧ください。
ということで,今日は具体的な財産の調査方法ではなく,財産調査をするうえで大事になってくるポイントやコツをお知らせしたいと思います。
相続財産の調査をするときのポイント(基本的な考え方)
相続財産の調査にはレベルがある
相続財産の調査には,レベルというか,種類というか,ステップがあります。それは次のとおり。
- 相続財産があるのかないのか調べる。基礎的な資料を揃える。
- 見つかった遺産の資料から正確な権利関係や財産の内容を認識する。
- 遺産分割(相続人で遺産の分け方を決めること)の前提として遺産を財産評価する。値段を付ける。
- 相続税申告の前提として遺産を財産評価する。
これを端的な表現で言い換えると
- 資料の収集
- 資料の分析
- 金銭評価(ただし,遺産分割の話合い用に,リアルな価格で)
- 金銭評価(ただし,相続税申告用に,税法の基準で)
となります。
財産調査(遺産調査)と財産評価(遺産評価)
この四つは,正確には,二つのグループからなります。
- 1と2=財産調査(遺産調査)
- 3と4=財産評価(遺産評価)
です。
- 財産調査とは,まさに財産があるかないかを調べて,権利関係をはっきりさせること。
- 財産評価とは,そのはっきりさせた財産について,金銭的に値付けをすること。
厳密には前者のみを財産調査と呼び,後者を財産評価と呼ぶのですが,大きい意味ではこの全部を財産調査と呼んでいいでしょう。金銭評価を伴わない財産などほとんど意味がないからです。
自分でできる財産調査のレベル
- 一般の方ができるのは1までです。
- 2については司法書士など法律の専門家が,
- 3については財産によっては専門の業者が,
- 4については税理士など税金の専門家が,
それぞれ国家資格や専門知識にもとづいて行う分野です。
なので,今日は,1を自分で行うときのポイントというか考え方をお話したいと思います。
そもそも相続財産とは何かを知る
相続財産にはどういうものがあるのか。このことを知っておかないと財産調査に漏れが生じます。相続財産とは,亡くなった人が持っていた財産的なもの全部です。権利も義務も全部。所有しているものだけじゃなく,借りていた権利とか,何かの地位も全部。ただし,一身専属的権利義務(画家が絵をかく,とか)を除きます。
相続財産になるものとならないものについては別記事がありますのでこちらをご覧ください。
相続財産財産のデータがどこにあるかを考える
相続財産に目星がついたら,ここからが大事です。考えないといけないのは,その「相続財産のデータはどこにあるのか」ということです。これが一番大事なことです。相続財産の調査は,データのある先からデータをもらってするほか,方法がないからです。データのある先からデータをもらう。そのために,データがどこにあるのかを突き止めないといけません。この点,基本的にはこういう風に考えてください。
物の場合(相手が物である)
財産が物であって,その物が経済的な価値のある重要財産である場合は,たいがいが法律上の登記や登録の対象になっています。つまり,それらの物に関するデータが役所の帳簿や記録として登記・登録されていて,これを確認できるような法的な制度が存在するというわけです。だから,これを調べて証明書を請求すれば財産の調査ができるはずです。逆にいうと,そういう制度がない物品の場合,手元にある現物を確認すれば分かります(貴金属など)。見たままです。
例)
不動産
不動産登記法にもとづく登記制度があり,物件ごとに記録されています。全国の法務局や地方法務局に行けばその記録の写しである登記簿謄本(登記事項証明書)がもらえます。なお,手元の権利書も手がかりになりますし,登記制度とは関係ないところで,毎年市町村役場から送られてくる固定資産税の通知書(納付書)にも被相続人の所有不動産が記載されています。
請求権の場合(相手が人や法人である)
相手方から何かをもらうとか,相手方がある財産の場合は,その相手方に聞けばよいです。手元に資料がなければ,そうする以外に財産を調査する方法はありません。民間人と民間人の契約上の権利について,国や役所に聞いても分かるわけがないからです。手元にある証書や契約書といった書類を見てよく分からなければ,取引の相手方に確認ししてください。
例)
銀行預金
銀行預金の法的性質は消費寄託契約という契約です。お金を預けて,使ってもいいけど,返してと言ったら同じ金額返してね,という契約です。契約の相手方はもちろん銀行です。銀行以外に銀行預金のデータを持っている機関はありません。通帳などを見ればだいたい分かりますが,記帳をしていなければ現在もそのとおり残高があるか分かりません。なので,銀行に直接「残高証明書」などを請求して権利内容を確定します。
証券会社にある商品についてもほぼ同じ理屈です。例えば上場株式なら,本来は直接会社に聞くべきなのですが,会社が全部やっていると大変なので,事務を外部に委託されています。最終的には取引をしている証券会社に聞けば情報を得られます。
生命保険
生命保険も保険契約にもとづく権利なので,契約の相手方である生命保険会社にデータを請求します。もっとも,保険証券や契約内容通知書,保険契約約款(契約書)などを見ればおよそのことは分かるはずです。なお,生命保険には相続財産になるものとならないものがありますが,その辺も証券を見たり,保険会社に聞いたりして確定します。
貸金債権
親族や他人(第三者)への貸付金も当然相続財産です。貸付金は消費貸借契約にもとづく返還請求権なので,これも債務者という相手方のあるものです。手元にある契約書や,返済口座の履歴を見たりして確認もできますが,相手方に聞けばさらに情報を得られます(銀行預金等と違って相手方が嘘を言うこともあるので注意が必要ですが)。
まとめ(相続財産調査のポイントと考え方)
以上,かなり抽象的な話になりましたが,この記事のまとめをしておきます。
◆財産調査の重要性や真っ先に取り組むべきことだという認識を持つ
◆財産調査のレベルを理解し,どこまで自分でやるかを決める。また,自分でやれないところを依頼する専門家を決める(早めに依頼する)
- 資料収集
- 資料の法的分析
- 財産評価(時価レベル)
- 財産評価(相続税申告レベル)
◆財産調査をするには,財産のデータを管理している先を突き止めるのが重要
- 物は登記登録制度か現物にて
- 相手方のある請求権は相手方に直接確認して
以上が,相続財産調査のポイントとコツと言えます。
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