相続大全集

親の口座から葬儀費用を引き出すというが,親の銀行預金を勝手に出金しても大丈夫?

« »

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • LINEで送る

生前に親の銀行口座から葬儀代を出金

「親が死んだら口座が凍結されてロックされちゃうから生きてるうちに葬儀代くらいは出金しておいたほうがいいよ!」

このような話は一度は聞かれたことがあるんじゃないでしょうか。「亡くなったとたんに預金が出せなくなって困った」「預金集めのときはあれだけお願いしておいて,いざ亡くなったら普通預金の引き出しもできないなんて銀行はひどい!なんでそうなるの!」とお怒りの方もいらっしゃるでしょう。なるほどそれもそのとおりです。だけど,亡くなったら基本的に,その人の預金が引き出せなくなるのは仕方がない話なのです。

今日はそのあたりの理屈を少し詰めておきたいと思います。少し長くなりますが,興味のある方はお読みください。あなたがこれを最後まで読むと,なぜ親が死んだら預金を引き出せないのかということ,親の預金を引き出しておくべきかそうでないかということ及びその法的な根拠が分かります。

 

最初に,「具体的にどうすべきか」の結論を言っておきます

  1. 親が死んだら銀行預金は凍結されます。引き出せなくなります。
  2. よって必要なお金は生前に引き出しておくことを検討すべしです(もちろん親がそれを認めていることが前提です)。
  3. 必要なお金とは葬儀代やお坊さんのお布施などです。50万,100万,200万と,葬儀等のレベルに応じてお決めください。

では,話を進めます。

 

銀行預金の法的性質は?預金債権?銀行に貸している?預けている?

銀行預金とは何なのか,まずもって銀行預金の法的性質を押さえておきます。

銀行預金の法的性質は,「消費寄託契約」だと考えられています。消費寄託契約というのは,売買契約や贈与契約などと並ぶ民法上の典型契約(民法に明文規定のある契約類型)の一つです。その契約内容は,「銀行が,預金者から返還請求があったときは,預けた金銭と種類,品質,数量において同一内容の金銭(普通は利息を付けて)をもって返還することとし,返還請求があるまで預金者のために金銭を保管することを約して,預金者より金銭を金銭を受け取ることによって効力を生ずる契約」です。

(消費寄託)
民法666条  第五節(消費貸借)の規定は、受寄者が契約により寄託物を消費することができる場合について準用する。
2  前項において準用する第五百九十一条第一項の規定にかかわらず、前項の契約に返還の時期を定めなかったときは、寄託者は、いつでも返還を請求することができる。

ちょっとややこしいですね。もう少し簡単にいうと,預金者が銀行にお金を貸し付けるような契約だと思ってください(寄託なので保管を任しているんですがどっちでもほぼ同じです)。親が,銀行に,利息を付けてお金を貸している。ただし,銀行はそのお金を使ってもいいことになっています。そのお金を企業に又貸しして利ザヤで稼ぐのが銀行の本来業務です。ちゃんと請求されたら同じ金銭(利息付)でもって返すので他に使っていいのです。

とにかく銀行預金というのは預金者と銀行との契約によって銀行にお金を貸したり預けたりしているようなもの,と覚えてください。

 

預金の引き出しの法的性質は?

預金の引き出しは法律行為

預金の引き出しは,いま見てきた契約から当然に生じる請求権の行使です。預金契約という消費寄託契約にもとづいて,預金者において行う,預けたお金を返してもらうための請求権の行使をいいます。この請求権のことを「預金債権」といいます。預金債権といったら「預金の引出しを請求する権利」だと覚えてください。

ところで最初に銀行に預金をするときに預金契約(消費寄託契約)も,預金の引き出しも,「法律行為」です。法律行為とは,「法的権限の行使として法律効果を生じさせる個人の意思表示」だとか「意思表示を要素とする私法上の法律要件」だとか「ある法律効果を望む者に対して法律効果を生じさせるための意思表示をともなう仕組み」だとか定義されます。何のことかわかりませんよね,,とにかく何がしかの法的な結果を意図してなされる人の意思表示のことだと思ってください。

子供が代わってする預金の引き出しは?

法律行為は本人がするのが原則なのですが,他人に任せてやってもらうこともできます。「代理」などというのがその代表的な仕組みです。親が子に預金の引出しを依頼し代わってやってもらうのもこの代理行為です。子供が預金を引き出す代理権は民法上の委任契約(代理権授与契約)によって発生させることができます。「代わりにやってよ」「うんいいよ」という契約で代理人になれるという意味です。

子供が親に代わって親の預金を引き出す行為は,親が銀行との間で締結した預金契約という名の消費寄託契約にもとづき親が銀行に対して有する預金債権の行使につき,親が子に代わってさせるべく,親が子に代理権を授与する契約をして,子供のもとに発生せしめた子供の代理権にもとづいて,子供において行われる法律行為である。うん,なんのこっちゃですよね,,,

ちなみに代理のほかに「使者」というのもあります。使者は代理人とはちょっと違って,本人の手足として行為する人間です。本人の手足が物理的に伸びたようなもの??というか人??つまり本人そのものとして行動する人が使者です。使者は自分で意思決定しません。一挙手一投足本人の指示通り動くだけです。

 

親が死んだらどうなる?

では,親が死んだらどうなるか。親が死んだら銀行預金は法的にどういう状態になっているのか。そのことについて説明します。少し理屈っぽいです。

親が死んだら預金債権はどうなるか

「相続財産中の可分債権は法律上当然に分割され、各共同相続人がその相続分に応じて権利を承継する。」
「相続財産中に可分債権があるときは、その債権は相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されて各共同相続人の分割単独債権となり、共有関係に立つものではないものと解される。」

というのが判例であり,従来の法律解釈と運用であって,預金債権は相続開始と同時に当然に相続分に応じて相続人に分割帰属する,とされていました。

しかし平成29年の判例は以下のように言って,普通預金も定期預金も遺産分割の対象となることを明示しました。従来の考え方が一転変更されています。

「共同相続された普通預金債権、通常貯金債権及び定期貯金債権は、いずれも、相続開始と同時に相続分に応じて分割されることはなく、遺産分割の対象となるものと解するのが相当である。」

なので,遺産分割が終わるまでは,共同相続人には,自分の相続分のみであっても,単独で預金の払い戻しをすることはできないと考えられます。銀行実務もそうなるでしょう。親が死んだら遺産分割が済むまで預金は共同相続人の共有財産になるので単独では引出しできない。大事なことなので繰り返しました。

親が死んだら子供が代わりに引き出す権利はどうなるか

なお,子供が代わりに親の預金を引き出す代理権も,親の死亡とともに消滅します。親(本人)の死亡は代理権の消滅事由だからです。

(代理権の消滅事由)
民法101条  代理権は、次に掲げる事由によって消滅する。
一  本人の死亡
二  代理人の死亡又は代理人が破産手続開始の決定若しくは後見開始の審判を受けたこと。
2  委任による代理権は、前項各号に掲げる事由のほか、委任の終了によって消滅する。

なお,子供の権限が代理ではなく前述の使者である場合,その本人の手足としての地位は親の生死と一体のものですから,親の死後に使者の行為は観念できません。

親がボケたら(認知症)子供が代わりに引き出せるか

少し別の話になりますが,親がボケてしまったら,以降子供が預金を代わりに引き出すことはできません。代理権を与える契約も文字どおり契約なので(法律行為なので),判断能力(意思能力,行為能力)がない,つまり意思表示が十分にできない親が,自分で預金を引き出す行為ができないのは当然,子供に代理権を与える契約をすることも理屈上できないからです。

 

親が死んでも銀行預金が引き出せる場合

さて,ここからは一気に現実的な話になります。いろんな理屈は分かったけれども,通帳と印鑑を銀行に持っていけば現金の引出しができるんじゃないか?また,キャッシュカードを使ってATMを操作すれば現実問題引出しはできるじゃないか?これはどういうことなの?という疑問についてお答えします。

銀行が親の死亡した事実を知らなかったら

親が死んでも,そのことを銀行に言わないで,子供が銀行預金の引出しをすれば,金額によってはいつもどおり出金ができるはずです。しかしそれは,銀行が,あなたの親が死んだという事実を知らないからです。知らないからいつものように親の預金の引出しに応じるしかありません。

というのも,現在の日本の法律や行政の仕組みでは,人が死んだ事実が直ちに銀行に通知されることになっていません。つまり市町村役場の戸籍担当に死亡届を出しても,市町村役場や法務局から金融機関にその事実が通知される仕組みはありません。なので,銀行は,市町村役場に死亡届を出しただけでは,あなたの親が死んだという事実を知る由がないんです。だからその状態で,子供が代理人として親の預金の引出し依頼をすれば,これにいつもどおり応じるだけです。

債権の準占有者に対する弁済(民法478条)

いやしかし,もし出金した後で親が死んでいることが分かって,相続人の一人が預金を引き出して自分のために使ってしまったりしたら,銀行は責任をとるのか?他の相続人に生じた(対して)損害を賠償するのか?そういうことがないように,銀行は,常に本人確認をして,預金の引出しを慎重にする必要があるんじゃないのか?

確かにそれは一理ありますが,しかし安全安心,慎重にしていればいいというものでもありません。銀行の日常業務がスムーズに処理されて,お金を引き出したい人が迅速に必要なお金を引き出せるようにするのも大事なことです。預金者としても,少額の出金にいちいち厳格な本人確認や本人の出頭を命じられたのでは不便で仕方ないからです。なので,預金者の権利を守るための手続きの正確さと,預金者にとっての利便性のバランスがとれるよう,法律と銀行実務が仕組まれているのです。

法律

銀行は,「通帳」と「印鑑」を持ってきた人が預金の引出しを依頼した場合,よほど高額であるその他の特別事情のない限り,預金の引出しに応じても責任を問われません。例えば70歳の男性の名義の預金につき,40歳の女性が引出しに来ても応じて差し支えなく,結果責任を問われることはありません。通帳と印鑑を持ってきたことをもって窓口に来た人が代理人であると推定して取引に応じたり,使者であると認定して取引したとして問題ないことになっています。これは先ほども言ったように,取引の迅速(早く引出ししてほしい要望)と,適正さ(通帳と印鑑を持っているから権限があるらしい)のバランスを考慮したものです。

法律にはこういう規定があります。簡単にいうと「債権者らしい人」に支払いをして問題が起こっても,善意無過失であれば責任を問われないよ,という条文です。この債権者らしい人のことを,「債権の準占有者」と呼びます。

判例により,銀行預金の出金のために窓口に「通帳と印鑑を持ってきた人」は,基本的に,「債権の準占有者」に該当するとされています。

(債権の準占有者に対する弁済)
民法478条  債権の準占有者に対してした弁済は、その弁済をした者が善意であり、かつ、過失がなかったときに限り、その効力を有する。

実務

なお銀行は,この法律と判例がなくても(というかその趣旨を明文化するものとして),最初に預金契約をするときの預金規定・預金約款に同じような内容を定めています。つまり預金するときの契約書に不正払戻しがあっても通帳と印鑑が持ってきた場合は銀行に責任はないよ,と書いてあるからそうなるのです。基本的に,契約は法律に優先するので,民法478条がなくても銀行は払い戻して差し支えない(責任を問われない)ことになってます。

SMBC預金規定

5【預金の払戻し】
(1)この預金を払戻すときは、当行所定の払戻請求書に届出
の印章(または署名・暗証)により記名押印(または署
名・暗証記入)して、通帳とともに提出してください。
(2)以降略

9【印鑑照合等】
払戻請求書、諸届その他の書類に使用された印影(または署
名・暗証)を届出の印鑑(または署名鑑・暗証)と相当の
注意をもって照合し、相違ないものと認めて取扱いましたう
えは、それらの書類につき偽造、変造その他の事故があって
そのために生じた損害については、当行は責任を負いませ
ん。

ネット銀行のパスワードや,ATMによるキャッシュカード引出しの場合

ネット銀行の場合は印鑑とパスワードが印鑑と同じ扱いになり,免責についても同様に処理されます。また,ATMでキャッシュカードを使って引き出す場合も同じで,まずは契約時に合意したカード規定により,カード規定に定めがない場合は民法478条により,基本的に銀行は免責されます(銀行に過失がない限り)。

小まとめ

親が死んでも預金が引き出せる場合がある?その理由は次のとおりです。

  • 銀行が親が死んだことを知らないから引き出せているだけ
  • 後から分かっても銀行に責任はないから厳格な本人確認はさせず,よって引き出せているだけ

参考

全国銀行協会 「預金等の不正な払戻しへの対応」について

現在,不正払戻しについては銀行が補償してくれるようになっています。しかし親族等がやった場合は対象になりません。上述の理屈のとおりです。

偽造カード等及び盗難カード等を用いて行われる不正な機械式預貯金払戻し等からの預貯金者の保護等に関する法律(いわゆる預金者保護法)

偽造・盗難のキャッシュカードによる不正払戻しについては預金者保護法の対象になります。偽造,盗難の別により預金者の権利保護の内容が異なります(偽造の場合は民法478条適用排除)が,基本的に銀行の補償を厚くする内容です。もっとも,親族等による真正カード(偽造ではないカード)を用いた引出しは対象外ですから,この点は通帳等の場合と同じ,つまり上述の理屈どおりです。

 

生前に必要なお金を引き出しておくべき

さてそろそろまとめます。死後の入用に備えて生前に親の銀行預金を引き出しておくべきというが,死後でも事実上引き出しができる場合があるらしい。しかししかし,もし手元キャッシュに余裕がないなら,やはり生前に引き出しておいた方がよい。

この結論に至るまとめをしておきます。

生前にお金を引き出しておくべき理由

お金がないと困るから

親が無くなったらすぐに入用になります。葬儀やお坊さんにお金を払わないといけないからです。香典で足りない分は喪主が取り急ぎ支払う必要があるので手元にお金がないと困ります。

死んでからだと,時間がかかるから

ちゃんとした相続手続をして預金を出金するには数か月かかります。直ちに必要になる支払いには到底間に合いません。また,遺産分割で共同相続人ともめたらさらに時間がかかります。

死んでから引き出せたとしても違法は違法

親が死んだことを銀行に言わずに引き出すことができるかもしれません。それはいま説明したとおりです。しかし,これが違法であることは言うまでもありません。後から他の相続人にそのことを指摘されるとややこしいことになる場合があります。

死んでから引き出せたとして,銀行は免責されても引き出した人は免責されない

死んでから子供の一人が黙って引き出しても銀行に責任はありません。しかし子供がやったことは違法であり,責任は引き出した子供にあります。銀行は免責されても引き出した人の責任まで免責されるわけじゃありませんのでこの点注意してください。何かあったら引き出した人が責任を負うのです。

生前にお金を引き出しておくときの注意点

では生前に引き出すのなら万事OKかというとそうではありません。先に説明したとおり,親の預金を子供が引き出すためには,「親に頼まれた」ことが必要です。つまり,親の正規の代理人として,又は使者として引き出す必要があるのであって,「勝手に」子供の意思で引き出すことは違法です。

少なくとも,「親が預金の引出しを認めている」ことが必要です。この点注意が必要ですので,もしあとで問題になると嫌だとか不安だとかいう人は,事前に問題ないか司法書士に相談してみてください。

« »

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • LINEで送る

関連記事

普通の人(金持ち・資産家じゃない)には相続税は関係ないと思っていませんか?

父親が亡くなって先週四十九日が済みました。大変でした。不動産や預貯金がある程度あるんでこれから相続人間で遺産相続の話合い(遺産分割協議)をしようと思うんですが,兄弟から,相続税の申告が必要なんじゃないか?急いで財産の額を …続きを読む

相続税は普通の人(金持ち・資産家じゃない)人に関係ない?

親に借金はないか?保証人になってない?絶対に聞きだしておくべきこれだけの理由

うちの父親は何年か前に家業をたたんで,取引先の中小企業の社長さんに拾ってもらって働いています。もう定年になる年齢なのに頑張ってくれています。以前父親に会社をたたむときどうしたの?法的に整理したの?と聞いたら,「大丈夫だ」 …続きを読む

親の借金・保証人を相続

遺産に不動産が多い人は遺言書が必須であるこれだけの理由

不動産を多数所有していて,かつ推定相続人が複数人いる人は,自分の将来の相続に備えて必ず遺言書を作成するべきです。また親が不動産をたくさん持っていて,兄弟とともに相続する予定の相続人の方も,なるべく早く親に遺言書を作成して …続きを読む

地主や不動産を多数所有している人は遺言書が必要

毎年111万円ずつ生前贈与してもらうことをおすすめする理由

1円たりとも税金は払いたくない!相続税も贈与税も嫌だ!! こういう方はいらっしゃるでしょうか。確かに,誰しも,税金は払いたくありませんね,,, 相続税対策のうち,相続税を節約するための対策を特に「節税対策」と呼んでいます …続きを読む

節税対策の生前の暦年贈与は110万円

遺言書を書いてもらったら遺言書をどうやって保管するのか説明します

今度両親に遺言書を書いてもらえることになったんですが,書いてもらった遺言書はどうやって保管しておいたらいいですか?誰が持っておけばいいですか?また気を付けることがあったら教えてください。 遺言書を書いてもらったはいいがそ …続きを読む

遺言書の保管方法