相続大全集

父親の事業・家業を相続で継ぐ(事業承継)のに遺言書が必要な理由を詳しく説明します

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父親から相続で事業や家業を承継する場合の遺言書

奈良県北葛城郡王寺町の司法書士中尾哲也

もし父親が会社の社長やオーナーで,あなたが将来父親が亡くなったときにその事業を継ぐ(事業承継・事業相続)予定をしているなら,父親の元気なうちに,父親に遺言書を書いてもらうことをおすすめします。いや,父親の生前に事業を引き継ぐのではなく,死亡によって,相続で事業を引き継ぐのなら,遺言書を書いてもらっておくのは必須と言ってよいです。

 

事業の相続に遺言書が必要な理由

その理由は,そうしないと,,

あなたが事業(ビジネス)のオーナー(事業の支配権を持つ経営者)になれないかもしれないから

です。

あなたに兄弟がいて,父親が生前に遺言書を書いていない場合,事業に関係する財産的権利が兄弟との共同相続になってしまいます。そうなると共同経営になって事業の経営に関する意思決定で揉めたり,一時的に会社のキャッシュが流出したり,もちろん将来に渡って事業から得られる収益を兄弟と按分しないといけなくなります。遺言書によってあなたが単独で事業の相続人にならなければ,事業は完全にはあなたのものになりません。今日はこのことについて,父親の事業が個人事業の場合と会社法人の場合に分けてポイントを説明してみます。

 

個人事業の場合はどうなるか,どうしたらいいか

父親が個人事業で事業を営んでいる場合,法人格がないので,事業に関するすべての権利義務は,自然人である父親に帰属しています。事業主は父親個人であり,土地建物といった不動産や,機械設備等の動産,契約上の権利義務等の債権に至るまで全部です。

これら財産的権利は,通常,遺産相続の対象になります。つまり相続財産になります。遺言書のない相続が開始すると,その相続は法定相続によって処理されるので,兄弟もあなたと同じく父親の子として第一順位の法定相続人になり,その相続分はあなたと同じです。遺産分割で兄弟があなたにいっさいの権利を譲ってくれるか,あなたが個人資産ですべての権利を買い取ることに兄弟が同意してくれないと,あなたは単独でビジネスオーナーになれません。

事業そのものの相続処理

個人事業の場合,父親の死亡と同時に,事業自体は廃業になります。事業を相続するという概念は存在しません。事業は事業主自身に帰属しているものだからです。しかし事実(実態)として事業を継続することができる場合は,事業を続ける相続人が,新規に事業を起こす開業届をして,相続人の事業として再開することになります。少しややこしいですが,法的にはそのようになります。

では,誰がその開業届を出して事業をすることができるのでしょうか。これは誰でも構いません。兄弟で揉めたら,あなたが開業届を出してもいいし,兄弟が開業届を出してもいいのです。しかし,現実問題として,事業を引き継ぐためには,以下の条件が揃わなければいけません。そうでないと,開業届を出して事業の後継者を名乗っても有名無実であり,何の意味もないからです。

  • お客さん(BtoBなら取引先)があなたと取引をしてくれること
  • 事業用の財産(店舗や工場敷地・工場建屋,機械設備等)があなたの所有になっていること

事業用の個人財産の処理

このうち大事なのは,事業用財産があなたの所有になっているか否かです。事業用の財産を使えないと,お客さんと取引を継続しようにも,物を作ったりサービスを提供したりすることができません。物理的に不可能です。なので,個人事業の相続による事業承継については,父親名義になっている事業用の個人財産を誰がどのように相続するかということが決定的に大事になってくるのです。

遺言書を作成して父親名義の事業用の個人財産をあなたが単独で相続する

そこで遺言書が必要になります。日本の法律においては,遺言書による遺言相続は法定相続に優先します。遺言書があれば,基本的にはそのとおりの相続が実現します。よってあなたは,父親にお願いして,元気なうちに以下のような遺言書を作成してもらうべきです。


遺言書

以下の不動産は長男に相続させる

  • 自宅
  • 店舗
  • 倉庫

既発生の売掛債権等のいっさいの債権は長男に相続させる
預貯金も同じく長男に相続させる
証券口座の金融商品は次男に相続させる
遺言執行者として長男を指定する
年月日
遺言者 ○○ 印


  • 文案は簡略化しています。じっさいに作成するには司法書士に相談してください。
  • ここでは遺留分を考慮して次男にも少し財産を相続させています。

なお,父親の財産がほぼ事業用の財産に限られる場合は,これをすべてあなた等の特定の相続人が単独相続すると,他の兄弟の遺留分を侵害してしまいます。兄弟の遺留分減殺請求権が行使されると,あなたは個人財産でキャッシュを渡すか,事業用の財産を処分するかの選択を迫られます。これでは困るので,遺産が事業用財産しかない場合は,父親を被保険者とし,あなたを死亡保険金の受取人とする生命保険契約をしておき,父親が死亡したときに一定額のキャッシュが受け取れるようにすればいかがでしょうか。もし兄弟から遺留分請求を受けたら,このキャッシュで支払いをします。そうすれば,個人財産からお金を準備したり,大切な事業用財産を処分せずに済むでしょう。

 

会社の場合はどうなるか,どうしたらいいか

株式が大事!

会社は法人なので,自然人としての父親個人とは別人格です。会社自体は父親の生死とは関係なく存続するので,会社自体の相続や承継という概念はありません。あるのは,その会社の所有持分(オーナー権)である株式の相続や承継です。この株式を父親が個人として所有しているので,これが父親の死亡による相続財産となるのです。株式を所有しているということは,会社を所有していることと同義です。その会社の株式の大半を所有することは,会社の支配権,経営権を持つことに直結します。

父親個人

株式

会社

株主が会社のことを決める会議を株主総会と呼びますが,株主総会は,株式をより多く持っている人が有利です。いや有利というか,事の性質により,どれだけの株式を持っていれば何ができるかということが,全部法律(会社法)で決まっています。なので,あなたは株式の全部を相続したいところです。もし株式が兄弟との共同相続になれば(仮にあなたが50株,兄弟が50株),過半数を持つ株主がおらず,何も決められません。会社の経営はとても不安定になります。場合によっては意思決定が遅延して(できず),倒産してしまうかも?

遺言書がない場合株式は共同相続になるので,遺産分割で兄弟が譲ってくれたり,会社や個人で株式を買い取ったりしない限り,そのような恐れが現実化します。

役員の地位・役職が心配?

ところで,中小零細企業であれば,父親は会社の株式の全部(又は大方の割合)を所有しているとともに,役職として,代表取締役(兼取締役)という役員になっているはずです。役員はどうなるの?社長の地位がどうなるか気になるんだけど?と思われるかもしれませんが,この役員の地位というのはこの際それほど気にする必要はありません。役員というのは,終局的には,会社の株式を持っている株主が決めていきます。株主が役員を誰にするかを決める権利を持っているのです。

なお,役員の地位は,その人の死亡によって失われます。役員の地位は相続されません。役員,つまり経営者としての地位は個人の才覚に頼っているからです。父親が亡くなると父親の役職が空席になります。空席になったら会社はまた役員を選びなおします。誰が選びなおすかと言えば株主です。なので,株式を相続して株主にさえなっていれば,後からあなたが自分を役員に選びなおせばよいだけです。

以上,会社の場合は,とにかく「株式」を相続すること。あなたが,父親が経営する会社の株式を単独相続することが一番大事なのです。

会社の財産はどうなる?

会社名義で(法人としての会社が)所有している財産はすべて会社に帰属しています。法人としての会社自体は父親の死亡によって無くなったりしませんから,会社に帰属している財産は全部そのままです。したがって何もしなくて結構です。

父親個人

株式

会社

会社の財産や権利義務

 

ただし,父親個人名義の土地に,会社名義の店舗や工場が建っていて,会社が父親個人から土地を借りているような場合は注意が必要です。父親個人名義の土地等,個人名義の財産は当然遺産相続の対象になりますから,前記の個人事業のところで説明した内容を参照してください。

遺言書を作成して会社の株式(父親が株主)をあなたが単独で相続する

ということで,あなたがすべきは,父親に遺言書の作成を依頼して,父親が所有している会社の株式の全部をあなたが相続できるようにしてもらうことです。遺言書の書き方は簡単です。


遺言書

○○商事の株式の全部を長男に相続させる
預貯金は長男に相続させる
証券口座の金融商品は次男に相続させる
遺言執行者として長男を指定する
年月日
遺言者 ○○ 印


  • 文案は簡略化しています。じっさいに作成するには司法書士に相談してください。
  • ここでは遺留分を考慮して次男にも少し財産を相続させています。

なお,仮に父親の財産が経営する会社株式しかなかったり,会社の株式に財産的価値が偏っている場合は注意が必要です。会社が資産価値の高い土地を所有している等会社資産が大きい場合,その会社の株式の評価も大きくなります(非公開会社・非上場会社の株式には株価がないので,会社資産などを根拠に評価する)。そうすると,相続する財産の価値があなたに偏り,他の兄弟から遺留分減殺請求権を行使されてしまう可能性があるのです。もしそのような可能性があるなら,個人事業のところで述べたように,遺留分請求への対応策を事前に検討しておく必要があります。非上場会社の株式の資産評価は複雑なので,ご心配なら前もって税理士に査定(試算)をお願いすべきです。

 

家業・事業・会社の承継,跡継ぎ,世代交代,代替わりについてはこちらもどうぞ

必見!家業を遺産相続(後継ぎ)する人が絶対知っておくべきポイント

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