相続大全集

兄弟が行方不明のときは親の遺言書がないと大変だと知っていますか?

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兄弟が行方不明の相続や遺産分割

最近親の相続について親と話をする機会がありました。親は住宅と預貯金と株式を持っています。遺産については,「全部長男のお前が相続したらいい。お前には自分の家があるから,俺の家はお前において相続した後売却処分したらいい。好きにしなさい」とのことです。ところで私には兄弟がいます。いますというか,いましたというほうが正しいような兄弟です。兄弟とは弟のことなんですが,,,弟は,学生時代に,親の反対を押し切って,学校を辞めて東京に出てしまい,それきりの関係です。私とも,親とも,一切連絡をとっていません。芸能人になると言って出て行ったのですが,その後どうなったことやら,,,話を戻しますが,親が死んだら,弟のことは放っておいて,私が遺産相続していいのですよね?

なるほど困りましたね,,,

 

結論からお話しすると

駄目です。

弟さんを放っておいて,あなたがすぐに親の財産を単独相続したり,遺産を処分してしまうことはできません。法律上それはできないし,そもそも遺産の名義変更等ができないので,やろうと思っても事実上(じっさい問題)それはできないのです。

 

なぜできないか

端的に,弟さんも親の相続に関する法定相続人だからです。親の遺産相続に関しては,弟さんにも法定相続人としての権利があるので,その者を除外して遺産相続手続きを進めることはできないのです。当然といえば当然です。

「そんなことを言われても,勝手に出て行ったのはあいつだよ!一度も連絡もしてこないで親の相続に口出しするなんて許せない」

お気持ちは分かりますが,それがいまの法律(民法)です。いまの法律における相続は,原則として,「人の死亡を原因とする一定の身分関係の者への財産の承継」ということに純化されています。それがいまの法律における遺産相続というものです。親が死ぬ。遺産が残っている。親には子供がいる。子供は相続人となる。よって,その者が相続分にしたがって当然に遺産を承継する。戸籍や家とも関係なく,祖先の祭祀や宗教とも関係なく,また基本的には人間の好き嫌いやお金に換算できない精神的な結びつきなどとも関係がなく,人の死と,遺された財産の性質と,身分関係にもとづいて機械的に財産承継が行われるのです。

弟さんは親の子として法定相続人です。法定相続人には法定相続分があります。そして親の遺産についての遺産分割協議に参加する権利があります。この者を無視して,あなたが遺産の全部を相続するような遺産相続の手続きを進めることはできません。

 

ではどうするのか(遺言書がない場合の処理)

あなたが遺産の全部を相続できるかどうかはともかく,とにかく遺産相続手続きを前に進めるにはどうしたらいいでしょうか。これは,ケースを分けて考える必要があります。

弟さんの行方・住所・居場所を突き止められる場合

具体的には,市町村役場で,弟さんの住民票や戸籍の附票を取得して,現在の住所地が分かる場合です。そして,住民票や戸籍の附票に登録されている住所に,じっさいに弟さんが住んでいる場合のことです。職場等が分かってそこを介して連絡をつけられる場合も含みます。このような場合は,理屈上弟さんと連絡がとれるわけですから(連絡してもなかなか返事してこないとかいうことはあるかもしれませんが),普通に兄弟間の連絡がとれる場合の遺産相続と同様に処理しないといけません。

つまり,弟さんに文書等で連絡して,遺産分割協議を持ちかけます。話がまとまれば遺産分割協議書を作成して実印を押してもらいます。話合いが決裂したら,家庭裁判所遺産分割調停の申立てをして裁判所を通じて話し合います。それでも折り合いがつかないで不調になったら,家庭裁判所の裁判官に遺産分割審判という決定をしてもらい結論を出します。最終的に遺産分割審判が出れば遺産相続の問題の結論が出ますが,弟さんの法定相続分は確保されるので,頑張って手続きした割には,あなたの思うような遺産相続にはならないでしょう。

弟さんがどう探しても行方不明の場合

市町村役場で弟さんの住所を追っていったが,最後の住民票上の住所地に弟さんが現実に住んでおらず,職場も分からず,どうやっても弟さんとの連絡がつかない場合がこれにあたります。つまり,正真正銘の行方不明の場合です。郵便物を出しても帰ってきてしまうときです。

家庭裁判所に不在者財産管理人を選んでもらい管理人との間で遺産分割をする

弟さんに全く連絡がつかないのに弟さんを放置して手続きをすすめられないのは最初に説明したとおりです。住所地等に文書等を送って話合い等の機会を提供したのに相手が応じない場合は家庭裁判所の手続きができますが,機会の提供すらできない場合はそれもできません。

こういうときは,家庭裁判所に,弟さんの代理人を選んでもらって,その代理人を弟さんに見立てて遺産分割をします。この代理人のことを「不在者財産管理人」といいます。行方不明の不在者の法定代理人だから不在者財産管理人と呼びます。

この代理人を選んでもらうには家庭裁判所に文書で申立てをしなければいけません。申立てがあると,書類を審査して,裁判所が管理人を選任します。管理人には,通常,弁護士や司法書士が選ばれます。この申立てをするには,最初に,裁判所に,予納金を50万円程度(事件により変動します)を納める必要があります。金銭的にも手続き的にもかなりの負担になります。

そして重要なことは,不在者財産管理人は不在者の権利を守るのが仕事ですから,基本的には,不在者の法定相続分を確保することに努めます。不在者の財産を不当に減らすような遺産分割をする権限は管理人にはないので,あなたが遺産の全部を相続するような遺産分割ができる可能性はゼロです。

(不在者の財産の管理)
民法25条  従来の住所又は居所を去った者(以下「不在者」という。)がその財産の管理人(以下この節において単に「管理人」という。)を置かなかったときは、家庭裁判所は、利害関係人又は検察官の請求により、その財産の管理について必要な処分を命ずることができる。本人の不在中に管理人の権限が消滅したときも、同様とする。
2  前項の規定による命令後、本人が管理人を置いたときは、家庭裁判所は、その管理人、利害関係人又は検察官の請求により、その命令を取り消さなければならない。

家庭裁判所に失踪宣告をしてもらい弟さんを法律上死んだことにする

もう一つ方法があります。弟さんが行方不明になって7年が経過している場合は,同じく家庭裁判所に失踪宣告という審判を出してもらう請求をすることができます。

この失踪宣告というのは,家庭裁判所の審判の力によって,一定期間行方不明の人を,法律上,死んだことにしてしまう制度です。人の生死が一定期間不明であると,法律関係が不安定になって,残された関係者が困るので,一定の要件のもとにこういう仕組みが設けられています。弟さんに失踪宣告がされると,弟さんは法律上死んだと見做されるので,人が死んだことによる法律効果が生じます。

親が亡くなる前に弟さんに失踪宣告がされると,親が死んだときにすでに弟さんは亡くなっているわけで,親の相続に係る法定相続人はあなただけになります。つまり,弟さんの関与なしで,あなたは親の遺産を単独相続することができます。

親が亡くなった後に弟さんに失踪宣告がされると,親の財産は一旦弟さんが法定相続し,失踪宣告と同時に弟さんについて新たに相続が生じるので,弟さんに子供がなく,両親がすでになけば,弟さんの兄弟姉妹であるあなたが弟さんの財産を相続します。つまり,先の親の相続による遺産は結果としてあなたがその全部を相続する結果になるかもしれません。

しかし,失踪宣告の申立ては家庭裁判所に各種の書類を出さねばならず,手続的に負担であるのみならず,やはり勝手に人を死亡したことにするのは通常は心理的抵抗があります。できれば避けたいことです。また,後になって弟さんが生きていることが判明したときは,失踪宣告は取り消されることがあります(普通は本人等が取消しの申立てをするはず)。そうなると,せっかくあなたのところにきた親の財産を弟さんとの間で清算する必要があるでしょう。

(失踪の宣告)
民法30条  不在者の生死が七年間明らかでないときは、家庭裁判所は、利害関係人の請求により、失踪の宣告をすることができる。
2  戦地に臨んだ者、沈没した船舶の中に在った者その他死亡の原因となるべき危難に遭遇した者の生死が、それぞれ、戦争が止んだ後、船舶が沈没した後又はその他の危難が去った後一年間明らかでないときも、前項と同様とする。

(失踪の宣告の効力)
同31条  前条第一項の規定により失踪の宣告を受けた者は同項の期間が満了した時に、同条第二項の規定により失踪の宣告を受けた者はその危難が去った時に、死亡したものとみなす。

(失踪の宣告の取消し)
同32条  失踪者が生存すること又は前条に規定する時と異なる時に死亡したことの証明があったときは、家庭裁判所は、本人又は利害関係人の請求により、失踪の宣告を取り消さなければならない。この場合において、その取消しは、失踪の宣告後その取消し前に善意でした行為の効力に影響を及ぼさない。
2  失踪の宣告によって財産を得た者は、その取消しによって権利を失う。ただし、現に利益を受けている限度においてのみ、その財産を返還する義務を負う。

 

遺言書を作成すべし

どうですか?ここまで読んでいただいて,大変だと思われませんか?私なら大変だと思います(笑)。しかし,親が遺言書さえ作成していれば,このような負担や困難から逃れることができます。親があなたに遺産の全部を相続させる遺言書を作成するだけでいいんです。弟さんは長期間行方不明なので,おそらくあなたに遺留分減殺請求の主張をしてくる可能性も低いでしょう。

行方不明の兄弟がいるときは,必ず親に遺言書を書いてもらいましょう。

 


遺言書

私の遺産の全部を長男に相続させる。
遺言執行者として長男を指定する。

年月日
遺言者 ○○ 印


※文案は単純化していますので,じっさいには司法書士等に相談して作成してください。公正証書遺言がおすすめです。
※必ず遺言執行者を指定して,執行者が単独で相続処理をできるようにしてください。

(減殺請求権の期間の制限)
民法1042条  減殺の請求権は、遺留分権利者が、相続の開始及び減殺すべき贈与又は遺贈があったことを知った時から一年間行使しないときは、時効によって消滅する。相続開始の時から十年を経過したときも、同様とする。

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