相続大全集

遺言書で財産をもらったのに返さないといけない遺留分という制度を説明します

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遺留分請求を受けて財産を返さない

こういう事例を想像してみてください。あなたがこの人達の立場だったら?

ケース1
私はA男と20年付き合ってきた。出会った当初は奥さんがいていわゆる不倫関係からスタートし,その後奥さんが亡くなった後は,ほとんど妻と同じような立場だった。もちろん彼には子供が一人いて,彼は子供に私のことを話していなかったから同居することはなかったし,子供とは面識がないけれども。彼の子供は優秀で,大手企業に就職し,お金持ちの娘と結婚したらしい。将来の心配はないとのことで,彼は私に全財産(3000万円)を渡す(遺贈する)という遺言をしてくれました。私は彼と一緒にいたせいで当然未婚。今となっては未亡人同然の独り者。彼からもらった財産で老後をやっていこうと思います。この遺言って有効ですよね?

ケース2
うちは絵にかいたような公務員家庭で,父母と私を含めた兄弟2名でずっときた。父は65歳でガンを患って亡くなった。父は県庁に勤めていたので退職金が比較的たくさんあり,5000万円が遺産として遺された。私は父のすすめにしたがって市役所で働く身分となり父にはいろいろと教えてもらった。父は私のことを自分の生き写しのように思っていたらしい。一方弟は自由人で大学にはいかずに東京で働いている。ほとんど連絡はない。私から見ると弟は,学校の勉強はしなかったけれども私よりよほど頭が切れ世渡りがうまかったので,私は羨ましくも思っていた。SEとして修業し,その後少人数の会社を起こして結構忙しくしている。しかし父には理解できない職業らしく,死ぬ間際にも,あいつには堅気の仕事をしてほしかったといっていた。なお,母も公務員で固有の財産があるので,父は私に遺産全部を相続させるという遺言をしてくれた。この遺言は当然に有効だと思うのだがどうなんでしょう?

上のケース1も下のケース2も,遺言は有効です。

でも

遺言の内容全部そのままでいけるかどうかはまだ未確定です。ケース1ではA男の子供が,ケース2では母親と弟が何も言ってこなけばいいんですか。

というのは?詳しく!

はい。A男の子供や,母親・弟が,「私は遺留分を請求します」を言ってきたら,書いてもらった遺言は全部そのままではいけなくなります。つまり,遺言でもらった財産の一部を,相手方に渡さないといけなくなります。そう,遺留分制度というのが法律にはあるんです。遺留分の権利を持っている人が,一定期間内に言ってきた場合だけ,一定の財産を,相手に渡さないといけなくなる制度が遺留分制度です。

 

用語の説明

ケース1に限定してもう少し言葉の説明をします。

A男の子供のことを,「遺留分権利者」といいます。
「私は遺留分を請求します」と伝えることを,「遺留分減殺請求」といいます。
「一定期間」のことを,遺留分減殺請求権の「消滅時効(期間)・除斥期間」といいます。
わたさないといけない「一定の財産」は,侵害されている「遺留分額」ですね。

 

さて,なんでこういう制度があるの?

せっかく遺言してもらったにどうしてこういう制度があるの?という疑問もあるこでしょう。遺留分権利者が請求したときは,相続財産の一定割合を,遺留分としてとりもどせるというか,返してもらえるというか,そういう制度が遺留分制度ですね。この遺留分制度は,遺留分権利者の相続に対する「期待権」を保護するものだと言われます。将来相続できると思ってたその思惑を守ってあげるってことです。せっかく相続できると期待してたのに何もなくなってしまうのはかわいそうというところでしょうか。

日本の現在の相続法は,遺言相続が優先で,法定相続は遺言がない場合の規定だと考えられています。遺言があればそのとおりにする。財産の持ち主である被相続人や遺言者本人の「意思・遺志」が一番大事であって,本人が何も遺言してないときに備えて法定相続の仕組みが用意されてるだけ,という考え方です。

しかしそれよりもさらにさかのぼって考えてみると,そもそも死んだ人から別の人に財産を引き継ぐ相続制度というものは,「遺族の生活保障」だとか「相続人の財産が混ざりこんでいるものの精算」だとか,そういった意味があると考えられているんですね。そういう相続制度というものがまずあって,そのうえで遺言相続か法定相続かというお話になる。そうであれば,遺言相続であろうと法定相続であろうと,やっぱり遺族の生活保障とか,相続人の混入財産の精算とかいう機能を最小限手続的に盛り込んでおかないといけない。それが遺留分制度です。

 

遺留分制度に関する用語についてもう少し詳しく説明する

話を戻しましょうか。先ほど出てきた用語等についてさらに詰めておきます。説明する順番は少し変えますね。

遺留分権利者とは?

兄弟姉妹以外の法定相続人です。つまり配偶者相続人と,直系尊属相続人です。

遺留分割合とは?

  • 直系尊属のみが相続人の場合は,被相続人の財産の3分の1
  • その他の場合は,被相続人の財産の2分の1
    です。
    表現が分かりにくいですが,法定相続分の3分の1か,半分だ,と考えてください。

遺留分額とは?

具体的な遺留分額は,「遺留分算定の基礎となる被相続人の財産の額」に前記の遺留分割合を掛けて計算します。よってまずは遺留分算定の基礎となる被相続人の財産額を求めないといけません。遺留分算定の基礎なる被相続人の財産額は,,,

  • 相続開始時に被相続人が有していた財産の価額に,その贈与した財産の価額を加え,その中から債務全額を差し引く。
  • 加算する贈与は,基本的には,相続開始前の1年間に契約したもの
  • その他細かいルールが多々あり。ただし割愛します。

遺留分減殺請求とは?

減殺請求できる金額

前記遺留分額(相続財産額+贈与額-相続債務額)-(当該相続人の受贈額+受遺額)-(当該相続人が相続した額-相続債務分担額)

減殺請求のやり方

相手方に対する意思表示でする。

減殺請求できる人

遺留部権利者とその承継人(包括承継人・特定承継人)

減殺請求の相手方

遺贈等によって直接利益を受けた人とその包括承継人,悪意の特定承継人,悪意の権利設定者

遺留分減殺請求権の消滅時効・除斥期間とは?

  • 遺留分権利者が,相続開始及び減殺請求できる遺贈や贈与があったことを知った時から1年で消滅時効にかかる。
  • そうでなくても,相続開始の時から10年で請求できなくなる(除斥期間)。

遺留分減殺請求の順序とは?

  • 遺贈から減殺する。遺贈が数個あるときは,遺言に別段の定めがない限り,目的物の価格の割合に応じて減殺する。
  • 次に新しい贈与から古い贈与にかけて減殺する。同時期の贈与があるときは,遺贈同様に減殺する。
  • 死因贈与はもっとも新しい贈与として減殺する(多数説)。遺贈,死因贈与,新しい贈与,古い贈与の順。
  • 相続分の指定については遺贈と同様に考えて減殺する(通説)。

 

まとめ

ケース1

  • 遺言はとりあえず全部有効です。
  • ただし,時効期間内・除斥期間内にA男の子供があなたに遺留分減殺請求をしてきたら,1500万円渡さないといけません。
  • 何も言ってこなかったらそのまま全部もらえます。

ケース2

  • 同じく,遺言はとりあえず全部有効です。
  • ただし,期間内に母や弟が遺留分請求をしてきたら,次のとおり渡さないといけません。
    母に言われたら,1250万円渡す。
    弟に言われたら,625万円渡す。
  • 何も言ってこなかったらそのままでOKです。

以上のとおりです。

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