相続に関するAtoZ 遺産をもらう側

小さい子が相続人になっている場合に親(親権者)が正しく遺産分けをする方法

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親権者と子との利益相反

親族関係

被相続人(亡くなった人)=45才の若いお父さん
相続人=42才のお母さんと,20歳の長男そして歳の離れた12歳の長女

遺産
住宅(住宅ローン付)と預貯金が100万円ほど

こういう相続を考えてみてください。まだ小さい娘を遺して他界したお父さんはとてもかわいそうです。それから配偶者たるお母さんもこれから大変です。当然に娘も,,,長男だって。しかし今日は相続の話なので,その辺りはこれ以上よします。

さて,今回の相続の相続財産は以上のとおり住宅ローンが残っている住宅と預貯金が100万円ほどです。住宅ローンには幸い団体信用生命保険が付いていたのでお父さんが死亡したことによって残債務は弁済され,ローンのない住宅を相続できることに。預貯金は今後の養育費に充てられることになるでしょう。

お父さんが亡くなって少し落ち着いたらお母さんが遺産の相続手続をします。いま,このお母さんの立場になって事の成り行きを考えてみてください。お母さんであるあなたは,遺産である住宅を自分の名義にしようとします。また,預貯金も当然自分の名義にして,そこから生活費と養育費のやりくりをすることになる。

しかしちょっと待って下さい。今回の相続の法定相続人は誰でしょうか。

第1順位 子
第2順位 直系尊属
第3順位 兄弟姉妹
配偶者は常に上記の者とともに相続人となる

これが遺言書がない場合における民法の相続ルールです。今回このルールを適用すると,配偶者であるあなたと,子供2名が法定相続人であり,その相続分は,あなたが相続財産の半分つまり2/4,子供が残りの半分を按分するので長男が1/4,長女が1/4です。

ところで,法定相続分はそのとおりでも,共同相続人の全員で遺産分けの話合い(遺産分割協議)をして合意できれば,法定相続分と違った遺産相続をすることもできるとこちらでお話しました。

法律で決まっている相続分を自分たちで変更してもいいことを知っていますか?

なので今回も配偶者であるあなたは子供達と話し合って遺産を自分名義まとめようとしますが,なんとそれは,,,

できません!

あなたが行おうとした行為こうです。夫の遺産について遺産分割協議をする。遺産分割協議書を作って全員実印を押す。長男は成人なので本人に参加してもらって問題ない。長女は小さく未成年なのでいつものとおりあなたが親権者として代わりにハンコを押しておけばいいや。

(財産の管理及び代表)
第八百二十四条  親権を行う者は、子の財産を管理し、かつ、その財産に関する法律行為についてその子を代表する。ただし、その子の行為を目的とする債務を生ずべき場合には、本人の同意を得なければならない。

このとおり,未成年者の親権者は民法に規定のある法定代理人として,未成年の子の財産を管理して,契約などの法律行為を代理します。遺産分けの遺産分割協議だって契約みたいなものであり,法律行為なので,あなたが代理できるはずですが,,

(利益相反行為)
第八百二十六条  親権を行う父又は母とその子との利益が相反する行為については、親権を行う者は、その子のために特別代理人を選任することを家庭裁判所に請求しなければならない。
2  親権を行う者が数人の子に対して親権を行う場合において、その一人と他の子との利益が相反する行為については、親権を行う者は、その一方のために特別代理人を選任することを家庭裁判所に請求しなければならない。

民法にはつづいてこういう規定があります。1項を見てください。親権を行う父又は母と,子供の利益が相反する行為については,子供の特別代理人の選任を家庭裁判所に請求せよと書いてあります。つまりどういうことかというと,そういう親と子の利益が相反する法律行為については,親が自分のために有利に行動する危険性があるから,この行為について親は代理権を行使することができない。だから,そういう行為に限って,特別の代理人を裁判所に選んでもらいなさい。親は親として,子については特別代理人が子を代理して,遺産分割協議等の法律行為を行いなさい,と書いてあります。

宜しいでしょうか。今回夫の配偶者で長女の母であるあなたは長女の意思をいつものように代弁することはできない。家庭裁判所に特別代理人を選ぶよう請求する義務がある。特別代理人が選ばれたら,あなた,長男,長女の特別代理人の全員で,今般の遺産の行方について,遺産分けの遺産分割協議をするのです。

面倒ですか?仕方ありません。

なお,特別代理人の選任を家庭裁判所に請求するには,特別代理人選任申立書という書類を裁判所に提出します。申立書だけではダメで,戸籍謄本のほか,特別代理人候補者の住民票や戸籍謄本,それからこれから締結する遺産分割協議書(案)など利益相反がある事実が分かる書類も併せて提出しないといけません。

特別代理人は子の利益のために活動するので,裁判所に提出する遺産分割協議書(案)は,基本的に子供の法定相続分を確保する内容になっている必要があります。ただ,特に,特定の遺産を母親単独名義にしておくことが子供の利益になる場合は,その必要性を書いていけば,例外的に協議(案)が認められることがあるかもしれません。

家庭裁判所は,特別代理人を選ぶ選任審判書において,特別代理人の権限を決めます。特別代理人は,裁判所が審判書で許した行為についてだけ長女の法律行為を代理できます。権限が限定されているのですね。特別代理人を選んでもらう書類の書き方が分からなければ司法書士に相談してください。遺産分割協議書(案)からその先の相続処理一式についてアドバイスをしてくれるはずです。あ,特別代理人に選ばるための資格はとくに法律で決まっていませんが,子供の利益のためにちゃんと活動できる人かどうか裁判所が判断します。相続手続を依頼する司法書士とか弁護士になってもらうことが多いです。

ちなみに裁判所のサイトによると以下のような行為が特別代理人の選任を要する利益相反行為だとされています。

Q1. 親権者(後見人)と子(被後見人)の利益が相反する行為(利益相反行為)とは,どのような行為のことですか。

A. 利益相反行為とは,法律行為自体や外形からみて,親権者(後見人)の利益になるが未成年者(被後見人)にとっては不利益になる行為,又は親権に服する子の一方には利益になるが他方の子にとっては不利益になる行為のことをいいます。具体的には,

  1. 夫が死亡し,妻と未成年者で遺産分割協議をする行為
  2. 複数の未成年者の法定代理人として遺産分割協議をする行為
  3. 親権者の債務の担保のため未成年者の所有する不動産に抵当権を設定する行為
  4. 相続人である母(又は父)が未成年者についてのみ相続放棄の申述をする行為
  5. 同一の親権に服する未成年者の一部の者だけ相続放棄の申述をする行為
  6. 後見人が15歳未満の被後見人と養子縁組する行為

などが該当します。

まとめましょう。

  1. 住宅や預貯金の遺産分割協議をする場合,親は未成年者の子を代理できない。
  2. この場合家庭裁判所に特別代理人の選任を請求する義務がある。特別代理人を誰にするかは裁判所が決める。あなたが相談している司法書士や弁護士を候補者に出していくのが妥当。
  3. 遺産分割協議の内容は,原則として,子供の法定相続分を確保する内容になっていること。
  4. 特別代理人が選ばれたら,この者との間で遺産分割協議をすること。特別代理人が子供の地位で協議に参加する。

宜しいでしょうか。


不動産の相続登記(名義変更)や預貯金の相続による解約処理をするには,戸籍謄本や遺産分割協議書などを役所等に提出する必要があります。役所等は,戸籍謄本等を記載内容を確認して,未成年者がいれば,親がこれを代理している協議書の手続を認めません。いま説明したとおり,親に代理権がないので,そのようにしてなされた遺産分割協議は無効だからです。法務局や銀行等は無効な手続を決して認めないので,黙ってやろうとしても手続できないのです。

 

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